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ポストカプセル*折原一

  • 2018/09/29(土) 16:36:27

ポストカプセル
ポストカプセル
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折原一
光文社
売り上げランキング: 289,182

ラブレターが、遺書が、脅迫状が、礼状が、文学賞の受賞通知が、15年遅れで届いたら――? 心温まるはずの善意の企画(?)の裏に、驚愕の真相が……!? 騙しの名手が腕をふるった怪作ミステリーをご堪能ください。


本来ならポストカプセルに投函されるべきではない手紙がポストカプセルとして15年後に届けられたとしたら、受け取った人はどんな反応をするだろうか。ある者は懐かしみ、またある者は訝しみ、焦り、絶望し、何とか送り主に連絡を取ろうとし、あるいは、そのままくずかごに放り込む。本作の受取人たちの反応と、その後の対応、そして展開が早く知りたくて、気が逸る。そこに漂う気配は、決して本来のポストカプセルのようにほほえましいものではなく、怪しく不審なので、なおさらである。たった一通の手紙によって、人の未来はこれほど変わってくるものだろうか。ひとつひとつの事例にぞくぞくするのはもちろん、それらがどこかで繋がっているのに気づいたときには、驚きと戦慄が走る。だれが何のために、とさらにページを繰る手が止まらなくなる。小説ならではのハラハラ感である。読みながら思わず背後を気にしてしまう一冊でもある。

ヴィジュアル・クリフ 行動心理捜査官・楯岡絵麻*佐藤青南

  • 2018/09/27(木) 09:26:59


似非健康商品を売りつける「ご長寿研究所」の店長が殺された。別件で指名手配中の男が現場付近で目撃されていたが、絵麻は違和感を覚える。そして新たに捜査線上に上がった人物は、行動心理学のかつての第一人者で絵麻の恩師・占部亮寛だった。店の常連客らしい占部。絵麻が聴取に行くと、占部は心を読み取られないよう抗不安薬を飲み―。相手のしぐさから嘘を見破る“エンマ様”シリーズ第6弾。


今回の捜査は、エンマ様こと楯岡絵麻にとっては、辛いものだったことだろう。というのも、捜査対象が、かつての恩師・占部であり、絵麻に行動心理学を教えてくれたその人だったのだから。とはいえ、胸の裡はともかく、捜査に手を抜くことはないのがエンマ様である。占部と絵麻の駆け引きから目が離せない。相棒の西野も、ずいぶん頼もしくなっている。彼以外ではエンマ様とのコンビは成り立たないのではないかとすら思わされる。今回、西野も贔屓のキャバクラ嬢の真実の姿に目が覚めたようでもあるし、今後の展開も愉しみである。じっくり味わいたいシリーズである。

わたしの本の空白は*近藤史恵

  • 2018/09/25(火) 16:37:00

わたしの本の空白は
わたしの本の空白は
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近藤史恵
角川春樹事務所
売り上げランキング: 163,927

気づいたら病院のベッドに横たわっていたわたし・三笠南。目は覚めたけれど、自分の名前も年齢も、家族のこともわからない。現実の生活環境にも、夫だという人にも違和感が拭えないまま、毎日が過ぎていく。何のために嘘をつかれているの?過去に絶望がないことだけを祈るなか、胸が痛くなるほどに好きだと思える人と出会う…。何も思い出せないのに、自分の心だけは真実だった。


自分が誰なのか、どんな立場で、誰とどんな暮らしをしていたのか、思い出せないのはどれほど心細いだろうと、まず胸が痛くなる。しかも、どんな理由で、記憶をなくして病院のベッドで目覚めたのかも皆目判らないのである。どこに帰ればいいのか、誰を信じればいいのか。極端なことを言えば、自分さえも信じられないだろう。ただ、主人公の南の場合は、覚えてはいなくても、居心地がいいとか、安心できるとかいう気分は何となくわかるようで、当面は、それで判断するしか方法がない。途轍もなくい緊張感の中で過ごさなくてはならないことが容易に想像できる。日々を過ごし、周りの人の話や、折に触れて接するものごとから、少しずつ手掛かりに触れられるようになってくると、そこには、思いもしなかった現実が待ち構えているのだった。すべて忘れたままだったほうが幸せなのか、それともすべてはっきり思い出すのが幸せなのか。どちらにせよ、悩みは尽きそうにない。次の展開が早く知りたくて、ページを繰るのがもどかしい一冊だった。

ツキマトウ 警視庁ストーカー対策室ゼロ係*真梨幸子

  • 2018/09/23(日) 16:09:54

ツキマトウ 警視庁ストーカー対策室ゼロ係
真梨 幸子
KADOKAWA (2018-07-27)
売り上げランキング: 150,325

自己顕示欲の塊となって、ブログに日々よしなしごとを綴るダメンズ女、離婚したパートナーの動向チェックに余念がない元妻、ささいなことで恨みを募らせていく反社会性パーソナリティ障害の元同僚、妄想を暴走させてSNSを炎上させるアイドルオタク…ふとした日常の違和感、感情の掛け違いから、妄執に取り憑かれていく男女たち。詐欺、ストーカー、リベンジポルノ、盗撮、盗聴…「愛」という大義の下の暴力を、イヤミスの女王が執拗にあぶり出す!


さまざまな立場のツキマトイが描かれていて、そのどれもがいつ現実になってもちっとも不思議ではないものばかりなので、背筋が寒くなる。しかも、本作では、それが奇妙に連鎖していて、つきまとわれているのかつきまとっているのか、時に判然としなくなる。一方的な言い分だけで判断してはいけないと、そこも恐ろしくなる。人は、自分に都合のいい理屈で行動するものなのである。充分厭な気分にさせらた後、そこに待っているのはさらに厭な事実だった。いい加減にして!と叫びたくなる一冊である。

猫と忍者と太閤さん 鍋奉行犯科帳*田中啓文

  • 2018/09/21(金) 16:51:36

猫と忍者と太閤さん (集英社文庫)
田中 啓文
集英社 (2016-05-20)
売り上げランキング: 87,684

大坂市中を見廻っていた同心村越勇太郎が謎の集団に襲われた。肩には手裏剣による傷が―天下泰平の世に忍者が暗躍している!?同じ頃、町奉行所の料理方募集に応募してきたのは怪しげな男たちばかり。そのうちのひとりが作った料理は、美食家の町奉行大邉久右衛門ですら初めて味わうものだった(「忍び飯」)。他に公家一家から猫を盗もうとする一味との戦いなど、全3編収録のシリーズ第7弾。


第一話「忍び飯」  第二話「太閤さんと鍋奉行」  第三話「猫をかぶった久右衛門」

またまたよく飲みよく食べる久右衛門殿である。そして、同心・村越勇太郎のもとには、厄介事が集まってくる。それだけ人物も腕も認められるようになってきたということだろうが、かなりの無理難題に頭を悩ませることになる。ただ、忍びの手裏剣を受けて、痛手も負ったが、今回も、依頼者や周りの人たち、そして子どもたちをも巻き込んで、ちゃんと解決してしまうのだから大したものである。それにはもちろん、飲み食いしているばかりに見えるお奉行の、鋭いのか行き当たりばったりなのかわからない推理と、人のためを思ってなのか単なるわがままなのか判断できかねる対応の的確さがなければこうはならないわけなのである。トラをかわいがる姿は、掛値なくかわいく見えてしまうので、無茶も許せてしまうのである。次は何をやらかしてくれるのか愉しみなシリーズである。

ほんのきもち

  • 2018/09/17(月) 16:41:43

ほんのきもち
ほんのきもち
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朝吹 真理子 彩瀬 まる いしい しんじ 乾 ルカ オカヤ イヅミ 甲斐 みのり 鹿子 裕文 木皿 泉 今日 マチ子 小林 エリカ 坂木 司 桜木 紫乃 佐藤 ジュンコ 平松 洋子 藤野 可織 文月 悠光
扶桑社 (2018-08-10)
売り上げランキング: 4,855

朝吹真理子、彩瀬まる、いしいしんじ、乾ルカ、オカヤイヅミ、甲斐みのり、鹿子裕文、木皿泉、今日マチ子、小林エリカ、坂木司、桜木紫乃、佐藤ジュンコ、平松洋子、藤野可織、文月悠光の16名が書下ろし!
16のちいさな贈りものがたり
装画:西淑


ひとつひとつのエッセイも、登場する贈り物たちも、挿みこまれるイラストも、どれもがとてもキラキラしている。
しかも、やさしい気持ちになれて、実際の役にも立ちそうで、なんてお得な一冊なのだろう。
来年のお年賀が、一発で決まってしまった。

スケルトン・キー*道尾秀介

  • 2018/09/16(日) 19:53:07

スケルトン・キー
スケルトン・キー
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道尾 秀介
KADOKAWA (2018-07-27)
売り上げランキング: 18,457

週刊誌記者のスクープ獲得の手伝いをしている僕、坂木錠也。この仕事を選んだのは、スリルのある環境に身を置いて心拍数を高めることで、“もう一人の僕”にならずにすむからだ。昔、児童養護施設<青光園>でともに育ったひかりさんが教えてくれた。僕のような人間を、サイコパスと言うらしい。
ある日、<青光園>の仲間の“うどん”から電話がかかって来て、平穏な日常が変わり始めた。これまで必死に守ってきた平穏が、壊れてしまう――。


サイコパスとして生まれてしまった人間の、恐ろしさ、哀しみ、報われなさ、などなど、言葉にはできないさまざまな葛藤が描かれている。残虐な描写も多く、思わず目をそむけたくはなるが、彼らにそうさせてしまった背景のことを思うと、胸の中を冷たい風が吹き抜けるような気分にもさせられる。ある場面で、ダウンジャケットの袖口のほつれに違和感を覚えて以来、どうしてなのかずっと考えながら読み進んだが、後になって腑に落ち、それまで以上の恐ろしさを感じもした。母の最期の言葉が錠也に光をもたらしてくれることを切実に祈る。なんとも重くやるせない一冊だった。

玉瀬家、休業中。*まさきとしか

  • 2018/09/15(土) 18:32:28

玉瀬家、休業中。
玉瀬家、休業中。
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まさき としか
講談社
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澪子は41歳、バツイチ。"人並み”の幸せを夢見ていただけなのに、もろく崩れる。家財道具は旦那に持っていかれ、お金もない。そんな中、姉の香波が金の無心にやってくる。香波は澪子の状況を知り、久しぶりに実家で暮らすことを提案する。そして10年ぶりに母親が一人で住む家に戻ったのはいいのだが、娘たちの出戻りを笑い飛ばす始末。がさつな母に傷つく澪子。そしてある日、家で怪しい人影を発見するのだが?!


41歳にして自分探しの澪子である。一度人生設計につまずいた後は、すべてを失い、未来さえも失くしたような気になっていた。自分には何もない。何もできない。そうやって日々を無為に過ごし、ほかのだれかの自分よりもわずかに劣るところを見つけては、わずかに自分を慰めるのだった。だが、がさつで人の気持ちをわからないと思っていた母にも、いつも尖って自分勝手だと思っていた姉にも、引きこもりでどうしようもない兄にも、それぞれの人生があって、自分よりもはるかに充実していると知り、ますます鬱々とするのである。家族の知らなかった一面を知るうちに、少しずつ視点が変わってきて、なんだか馬鹿らしく思われてくるにつれ、縛られていたものが少しずつ緩み始める。少しずつでも未来のことを考えられるようになった澪子には、きっとこれまで見えていなかったものがどんどん見えるようになってくるのだろう。家族との関係も、きっと少しずつ変わってきて、玉瀬家もいつか休業中ではなくなるのだろう。前半は、いろんな意味でイライラさせられもしたが、次第に応援したくなってくる一冊だった。

火刑列島*森晶麿

  • 2018/09/14(金) 18:29:24

火刑列島
火刑列島
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森晶麿
光文社
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現象学者の凪田緒ノ帆は、半年前に自宅の火災で恋人を失った。まる焦げで発見されたその死体が持っていたスマホのロック画面には、下着姿の謎の女性の画像が残されていた。突然、緒ノ帆の前に現れた美青年・露木は“予現者”を自称し、「僕が予現したあなたの恋人以外の直近三件の火災事故では、いずれも被害者の男性のスマホにこの女性の画像がありました」といい、事件と女性の関係を一緒に調べようと誘う。さらに、謎の女性の画像を手がかりに、メグミという名前と、彼女を探す消防士・海老野ホムラが見つかる。三人は、露木の“予現”する火災とメグミの手がかりを追う旅をはじめた―。


緒ノ帆、露木、ホムラという縁のなさそうな三人が、露木の予現に従ってあちこちに出向くのだが、その道中はまるで深刻さはなく、コメディのようでもある。露木もホムラも、その正体は何ともよくわからず、信じていいのやら決めかねながら読み進むが、露木の予現があながち当てずっぽうでもないことが次第にわかり、かなり危険な事態が続出する。それでも最後まで、裏に何かあるような気配はなくならないのだが、それが最後の最後に明らかにされると、腑に落ちる部分もあるが、驚きを隠せない。あの一件からすべてが始まっていたということである。恨み、憎しみ、執念、そして愛情。あまりにも強すぎるさまざまな感情が渦巻く一冊である。

連続殺人鬼 カエル男ふたたび*中山七里

  • 2018/09/11(火) 16:54:58

連続殺人鬼カエル男ふたたび
中山 七里
宝島社
売り上げランキング: 23,440

口にフックをかけられてマンションの13階から吊るされた全裸死体と、
子どもが書いたような稚拙な文章での犯行声明――。
埼玉県飯能市を震撼させた“カエル男連続猟奇殺人事件"から10ヵ月、
事件を担当した精神科医、御前崎教授の自宅が爆破され、家からは粉砕・
炭化した死体が出てきた。そしてあの稚拙な犯行声明が見つかる。
カエル男・当真勝雄の報復に、協力要請がかかった渡瀬&古手川コンビは現場に向かう。
さらに医療刑務所から勝雄の保護司だった有働さゆりもアクションを起こし……。
破裂・溶解・粉砕。ふたたび起こる悪夢に、二転三転する怒濤の展開と激震のラストが待ち受ける!


筆舌に尽くしがたい凄惨な事件現場の描写が多々あって、気分が沈むが、だからといってページを閉じようとは思わせないのが著者である。刑法第39条の存在ゆえにその罪を逃れる者がいる一方、医療刑務所の手薄さなどの理由もあって、早々と外に出されることにより、新たな被害者を生むこともあり得る。前作で決着がついたと思われたカエル男事件だったが、ここにきて新たな被害者が現れ、今度の標的は「サ」から始まる。しかも、範囲が首都圏全域に及び、一般市民たちを恐怖に陥れるのである。誰の筋書きなのか、どこまで続くのか。渡瀬・古手川コンビが今回も捜査にどっぷりつかることになる。まったくもって救いのない物語である。そしてさらに背筋を凍らせるのは、医療刑務所から脱走したあの人物がまた新たな事件を起こし、野に放たれたままだということである。この後どんな展開が待っているのか、想像するのもおぞましいが、物語はここで本当に終わりなのだろうか。うまく呼吸ができなくなるような一冊である。

沖縄オバァの小さな偽証 さえこ照ラス*友井羊

  • 2018/09/09(日) 16:35:12

沖縄オバァの小さな偽証 さえこ照ラス
友井羊
光文社
売り上げランキング: 168,257

強気で遣り手の美人弁護士・沙英子と、オジィオバァとすぐ仲良くなる天然気質の事務員・大城。沖縄の法テラスに持ち込まれたトラブルは、この二人が請け負います! 琉球料理と照りつける太陽に彩られた、庶民感覚のリーガル・ミステリー!


「チャクシとユミの離婚相談」 「飲酒運転の刑事弁護」 「沙英子の長期休暇」 「トートーメーの継承問題」 「生活保護受給者の借金問題」 「離島の刑事弁護事案」 「沖縄すば屋の相続問題」

当然のことだが、今回も沖縄らしい料理や方言が満載である。そして、沙英子のぶっきらぼうな物言いも相変わらずで、オジィ、オバァに愛される大城のキャラも全開である。そんな法テラスには、またまた面倒な厄介事が次々に持ち込まれ、しかも身内の事務員の関係者だったりもして、ますますややこしい。大城がさまざまな伝手を頼りに独自に調査した結果に、沙英子が閃き、絡まった糸を解きほぐす様子は、見ていてスカッとする。事務所内には何となくほのぼのとした空気も漂っているようでもあり、これからの展開も愉しみになるシリーズである。

菜の花食堂のささやかな事件簿 きゅうりには絶好の日*碧野圭

  • 2018/09/07(金) 16:25:52


「このあたりでは評判らしいですよ。ちょっとしたヒントから真実を見抜く、日本のミス・マープルだって」グルメサイトには載っていない、だけどとっても美味しいと評判の菜の花食堂の料理教室で靖子先生が教えてくれるのは、ささやかな謎と悩みの答え、そしてやっぱり美味しいレシピ。いつも駐車場に停まっている赤い自転車の持ち主は誰?野外マルシェでご飯抜きのドライカレーが大人気になったのはなぜ?小さな料理教室を舞台に『書店ガール』の著者が描き出す、あたたかくてほろ苦い大人気日常ミステリー、第二弾!


読む順番が逆になってしまったが、ピクルスの瓶詰を売ることになった経緯に、なるほど、と思った。そして、靖子先生の事情が垣間見られ、収まるところに収まったのだと胸をなでおろした。自分に関するな謎も自分で解いてしまう靖子先生なのであった。心を込めて丁寧に、ということをあらためて思わされるシリーズでもある。

ありえないほどうるさいオルゴール店*瀧羽麻子

  • 2018/09/07(金) 16:18:54

ありえないほどうるさいオルゴール店
瀧羽 麻子
幻冬舎 (2018-05-10)
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北の町の小さなオルゴール店では、風変わりな主人が、“お客さんの心に流れる音楽"をオルゴールに仕立ててくれます。
耳の聞こえない少年。
音楽の夢をあきらめたバンド少女。
不仲だった父の法事で帰郷した男性。
長年連れ添った妻が倒れ、途方に暮れる老人。
彼らの心には、どんな音楽が流れているのでしょうかーー。


何となく惹き寄せられるように入ってしまうオルゴール店。ひょろりとした店主が、絶妙な距離感で薦めてくれるオルゴールは、その時の心の隙間をしみじみと埋めてくれるような音色を響かせる。オルゴール店はとても静かで、タイトルとはかけ離れているが、実はそこには店主自身の秘密があるのだった。忙しない日々の中、オルゴールのどこか懐かしい音色が、忘れそうになっていた大切なことを思い出させてくれるような味わい深い一冊である。

レプリカたちの夜*一條次郎

  • 2018/09/06(木) 16:54:19

レプリカたちの夜
レプリカたちの夜
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一條 次郎
新潮社
売り上げランキング: 192,326

「とにかくこの小説を世に出すべきだと思いました」伊坂幸太郎激賞、圧倒的デビュー作。動物のレプリカをつくる工場に勤める往本は、残業中の深夜、動くシロクマを目撃する。だが野生のシロクマは、とうに絶滅したはずだった――。不条理とペーソスの息づく小説世界、卓越したユーモアと圧倒的筆力。選考委員の伊坂幸太郎、貴志祐介、道尾秀介から絶賛を浴びた、第二回新潮ミステリー大賞受賞作にして超問題作。


伊坂さん絶賛、に惹かれて読んだのだが、わたしにはいささか哲学的というか、不条理が過ぎて、馴染めなかったというのが正直なところである。浅く読めば、おかしなことばかり起こるようであり、深く読めば、含んでいるものが深すぎて、表層に現れるものとのバランスが保たれなくなってくる印象で、頭の奥の方が疲労してくる。わたしにとっては愉しいとは言えない一冊である。

望月のあと 覚書源氏物語『若菜』*森谷明子

  • 2018/09/05(水) 13:48:15

望月のあと (覚書源氏物語『若菜』)
森谷 明子
東京創元社
売り上げランキング: 971,862

紫式部が物語に忍ばせた、栄華を極める道長への企みとは?平安の都は、盗賊やつけ火が横行し、乱れはじめていた。しかし、そんな世情を歯牙にもかけぬかのように「この世をばわが世とぞ思う…」と歌に詠んだ道長。紫式部は、道長と、道長が別邸にひそかに隠す謎の姫君になぞらえて『源氏物語』を書き綴るが、そこには時の大権力者に対する、紫式部の意外な知略が潜んでいた。


役職や人名の読み方を呑み込むのがなかなか大変で、初めのうちは現代もののようにスムーズには読み進められないのだが、次第にそれも気にならなくなり、物語の展開に惹き込まれていく。源氏物語が、刻々と出来上がり、周りに少なくない影響を及ぼすさまを見ていると、物語というものの力を強く感じる。影のフィクサーは実は紫式部、だったりして……、なんて。そして、いつの時代も、女たちの逞しさは変わらない。殿方の陰で、つつましやかにしているように見えて、その実、ほんとうに肝が据わっているのは女たちなのである。なかなかに痛快。副題には若菜とあるが、玉葛の印象が強い一冊でもあった。

菜の花食堂のささやかな事件簿 金柑はひそやかに香る*碧野圭

  • 2018/09/02(日) 18:50:42


「靖子先生、そういう謎を解くのが得意なんです。いつも、ちょっとしたヒントから真実を見つけてくれるんです」手を掛けたランチが評判の菜の花食堂を営む靖子先生はいつも、とびきりの料理と謎の答えと、明日へと進むためのヒントを手渡してくれる―。好き嫌いがないはずの恋人が手作りのお弁当を嫌がるのはなぜ?野菜の無人販売所の売上金が、月末に限って増えている理由は?小さな食堂の料理教室を舞台に『書店ガール』の著者が描き出す、あたたかくて美味しい大人気日常ミステリー、第三弾!


菜の花食堂、香奈さんと優希が手伝うようになって、それまでよりも少しずつ地域に開かれた、憩いの場になっているようである。新しいことに積極的に取り組み、宣伝も増やして、広く知ってもらう試みも、いままで以上にやっている。常連さんにも愛され、相変わらずさまざまな謎も持ち込まれる。靖子先生はほんの小さなとっかかりから見事に推理して解き明かしてしまうのだが、今回は、先生自身にまつわる謎を解き明かし、先生ご一家の心をも解きほぐしたのが、何よりの謎解きだったのかもしれない。菜の花食堂、ますます地域になくてはならない場所になっている。あたたかい気持ちになれる一冊だった。

未来製作所

  • 2018/09/01(土) 18:21:53

未来製作所
未来製作所
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太田 忠司 田丸 雅智 北野 勇作 松崎 有理 小狐 裕介
幻冬舎 (2018-06-21)
売り上げランキング: 59,953

いつでも、誰とでも、行きたい場所へ。
移動が面白くなれば、世界は変わる!
5分で胸が高鳴ってくる、ショートショートアンソロジー

家を持たず、レンタルのクルマで優雅に暮らす若者。
交通事故がゼロになる「ラプラス・システム」を開発した研究者の妹と政治家の兄。
犬とパソコンを一体化させるという新鮮奇抜なアイデアを成功させた会社員……。
あなたにひらめきをもたらす10篇が収録された1冊


太田忠治、北野勇作、小狐祐介、田丸雅智、松崎有理の五氏による、10の物語である。
「移動」「ものづくり」というキーワードにゆるく縛られた未来の姿は、想像できそうでもあり、思いがけなくもあり、それでもやはり、誰かのために、という思いが感じられて、人間の在り方はそうそう変わるものではないのだとも改めて思わされる。ブラックテイストは薄いが、愉しめる一冊だった。

キッチン風見鶏*森沢明夫

  • 2018/09/01(土) 12:36:35

キッチン風見鶏 (ハルキ文庫)
森沢明夫
角川春樹事務所
売り上げランキング: 4,902

港町で三代続く老舗洋食屋「キッチン風見鶏」。おすすめは、じっくりと手をかけた熟成肉料理だ。漫画家デビューを夢見るウエイター・坂田翔平は、幽霊が見えてしまうのが悩みのタネ。お客さん一人ひとりに合わせた料理が好評なオーナーシェフ・鳥居絵里は、家族の健康を案じつつ空元気を出して奮闘中!誰しも未来は不安だし、人生は寂しいものだ。でも、だからこそ、自分の心に嘘をつかずに生きていく―。美味しさとやさしさが溢れる傑作長編。


老舗の洋食屋さんを舞台にしたハートウォーミングな物語、なのかと思いきや、舞台のキッチン風見鶏も、登場人物たちも、ある意味一風変わっていて、普通の人が経験できないさまざまなことを経験してきている。プロファイリングが得意だったり、背後霊が見えたり、彼らと会話ができたり……。たぶんこのお店には、そんな人たちを引き寄せるなにかがあるのだろう。興味を惹かれる要素が盛りだくさんなので、あれも知りたいこれも知りたいと、ページを繰る手が止まらなくなる。ひとつずつ解決されていく過程で、どんどん読んでいるこちらの気持ちがやさしくなっていく気がする。ずっと浸っていたいと思わされる一冊だった。