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平場の月*朝倉かすみ

  • 2019/02/27(水) 18:32:25

平場の月
平場の月
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朝倉かすみ
光文社
売り上げランキング: 2,310

朝霞、新座、志木。家庭を持ってもこのへんに住む元女子たち。元男子の青砥も、このへんで育ち、働き、老いぼれていく連中のひとりである。須藤とは、病院の売店で再会した。中学時代にコクって振られた、芯の太い元女子だ。50年生きてきた男と女には、老いた家族や過去もあり、危うくて静かな世界が縷々と流れる―。心のすき間を埋めるような感情のうねりを、求めあう熱情を、生きる哀しみを、圧倒的な筆致で描く、大人の恋愛小説。


何気ない風景や、日常遣いの物の描写がリアルすぎて、立体として見えてしまいそうになるので、物語自体がわが身に迫ってくるような心地である。充分すぎるほど人生経験を積んできた二人だからこその距離感が、互いを思いやる気持ちとともに、胸に迫る。もどかしいようでもあるが、それ以外どうしようもなかったのだろうということもわかる。人生の仕舞い方についても考えさせられる一冊である。

介護士K*久坂部羊

  • 2019/02/26(火) 16:53:43

介護士K
介護士K
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久坂部 羊
KADOKAWA (2018-11-29)
売り上げランキング: 32,687

介護施設「アミカル蒲田」で入居者の転落死亡事故が発生した。高齢者虐待の疑いを持ち、調査を始めたジャーナリストの美和は、介護の実態に問題の根の深さを感じていた。やがて取材をした介護士・小柳恭平の関与を疑った美和は、再び施設を訪れる。恭平は「長生きで苦しんでいる人は早く死なせてあげた方がいい」という過激な思想を持っていた。そんななか、第二、第三の死亡事故が。家族の問題を抱え、虚言癖のある小柳による他殺ではないのか--疑念が膨らむ一方の美和だが、事態は意外な方向に展開してゆく。高齢者医療の実態に迫り、人間の黒い欲望にメスを入れる問題作!


介護の現場や実態について、考えざるを得ない物語である。わたし自身は介護の経験がないので、実際のところはまるで解っていないとは思うが、想像するだけでも、一時も気を抜けず、手も抜けない現状の苦労の大変さは壮絶なものだということは判る。入居者の相次ぐ不審死に関わったのでは、と疑われる若い介護士・小柳恭平の真実はどこにあるのだろう。親切で、骨身を惜しまずよく働き、入居者の人気者であるという一面もあり、虚言癖があるという面も持つ彼の言葉は、どこまで真実なのだろう。そして、彼が目指しているのは何だったのだろう。判らないことだらけで答えは見つからないのだが、たくさんのことを考えさせられたことだけは確かである。読んでいて気が重くなるが、目を背けてはいけない一冊だと思う。

常設展示室*原田マハ

  • 2019/02/24(日) 18:41:51

常設展示室: Permanent Collection
原田 マハ
新潮社
売り上げランキング: 3,103

パリ、NY、東京。世界のどこかに、あなたが出会うべき絵がきっとある。その絵は、いつでもあなたを待っている。人生の岐路に立つ人たちが辿り着いた世界各地の美術館。巡り会う、運命を変える一枚とは――。故郷から遠く離れたNYで憧れの職に就いた美青は、ピカソの画集に夢中になる弱視の少女と出会うが……(「群青 The Color of Life」)ほか。アート小説の第一人者が描く、極上の6篇。


ピカソの「群青」、フェルメールの「デルフトの展望」、ラファエロの「マドンナ(聖母)」、ゴッホの「薔薇色の人生」、マティスの「豪奢」、東山魁夷の「道」という六つの絵画にまつわる六つの人生のドラマの物語である。人それぞれ、さまざまな人生のひとコマに寄り添う一枚の絵。それがもたらす一筋の光やささやかな救い。そんなものがにじみ出てくるような愛おしさを感じる。一枚の絵によって、次に出す一歩の向きが、ほんのわずかずれることで、先の人生が変わってくることもあるのかもしれないと思わされる一冊でもあった。

ふたたび嗤う淑女*中山七里

  • 2019/02/23(土) 16:36:25

ふたたび嗤う淑女
ふたたび嗤う淑女
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中山 七里
実業之日本社
売り上げランキング: 29,352

金と欲望にまみれた“標的”の運命を残酷に弄ぶダークヒロイン、降臨。

類い稀な話術で唆し、餌食となった者の人生を狂わせる――
「蒲生美智留」が世間を震撼させた凶悪事件から三年。
「野々宮恭子」と名乗る美貌の投資アドバイザーが現れた。
国会議員・柳井耕一郎の資金団体で事務局長を務める藤沢優美は、
恭子の指南を受け、資金の不正運用に手を染めるが……

どんでん返しの帝王が放つ衝撃の連鎖! 史上最恐、完全無欠の悪女ミステリー!


各章の前半は、その章の主人公にとって誠に魅力的な提案によって事が進んでいく。何もかもが、野々宮恭子の言うとおりにしていればうまくいきそうに思えてくる。だが、抜き差しならない状況まで進むと、事態は一変し、そこに至ってやっと自分が陥れられたのだということに気づき、しかも、ほぼ同時に人生さえ強制終了させられてしまうのである。まったくもって恐ろしい女である。さらに最後の最後に、また不敵に嗤われるのだからたまったものではない。「みたび嗤う淑女」もありそうだと思わされる一冊である。

絶対正義*秋吉理香子

  • 2019/02/21(木) 16:43:00

絶対正義
絶対正義
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秋吉 理香子
幻冬舎 (2016-11-10)
売り上げランキング: 82,717

範子はいつでも礼儀正しく、一つの間違いも犯さず、また決して罪を許さない。なにより正義を愛していた。和樹は、痴漢から助けてもらった。由美子は、働かない夫を説得してもらった。理穂は、無実の罪を証明してもらった。麗香は、ピンチを救われチャンスを手にした。彼女たちは大いに感謝し、そして、のちに範子を殺した。しかし、死んだはずの範子からパーティへの招待状が届いた。そこで、四人が見たものとは―?


正義は悪いことのはずはない。それは確かなことだが、そこに絶対がつくと、いささか腑に落ちない場面も出てくるのである。高校の仲好し五人組、のはずだったが、ひとり、四角四面に正義を押し通す則子という存在があまりにも大きくて、ほかの四人の人生を大きく変えることになってしまう。法律に則っていないことは悪、ということは、裏を返せば法律を犯しさえしなければ何をしてもいい、ということにもなりかねない。正義についていろいろと考えさせられる物語である。そして、普段の生活の中で、厳密にいえば法を犯していることのなんと多いことか、ということにも驚かされるのである。身体の芯が冷たくなるような恐ろしさの一冊だった。

エムエス 継続捜査ゼミ2*今野敏

  • 2019/02/19(火) 16:50:10

エムエス 継続捜査ゼミ2
今野 敏
講談社
売り上げランキング: 54,561

未解決事件を取り上げるため「継続捜査ゼミ」と呼ばれる小早川ゼミの5人の女子大生は、冤罪をテーマにしようとする。小早川は、授業で学内ミスコン反対のビラを配る女子学生高樹晶に会うが、高樹は小早川と話をした直後、何者かに襲われ救急車で運ばれた。その後、高樹に対する傷害容疑で小早川が任意同行されることに――警察に疑われ続ける教授に代わり、ゼミ生たちが協力して事件の真相を明らかにしていく。


登場人物のキャラクタもしっかり定着して、それぞれが生き生きしている本作である。そして今回は、ゼミでは冤罪事件を取り上げるのだが、小早川自身が冤罪の被害者にされかけるという、なんとも言えないタイミングの良さ(悪さかもしれないが)で、冤罪ということについて様々な角度から考えさせられる。立場が違うと見え方がこうも違うものかと思わされることもあり、ひとつ歯車を掛け違うと、どこまでも修正が効かなくなってエスカレートしていく怖さも味わった。なにより、小早川ゼミの結束力が強まった物語であったと思う。次の活躍が愉しみなシリーズである。

世にもふしぎな動物園

  • 2019/02/17(日) 16:19:33

世にもふしぎな動物園 (PHP文芸文庫)
小川 洋子 鹿島田 真希 白河 三兎 似鳥 鶏 東川 篤哉
PHP研究所
売り上げランキング: 146,292

ペンネームの一部に「動物」が隠れた人気作家による、それぞれの動物をテーマとした異色の短編集。
不吉とされる黒子羊を飼う、村で唯一の託児所(小川洋子「黒子羊はどこへ」)、牧場の経営者が亡くなった。犯人を推理するのは馬!?(東川篤哉「馬の耳に殺人」)、高校の新聞部の友人と共に白いカラスの謎を探っていたはずが……(似鳥鶏「蹴る鶏の夏休み」)等、バラエティに富んだ五作を収録。


面白い趣向である。そして内容紹介の通り、物語のテイストもバラエティに富んでいて、ぐいぐい引っ張られる。それぞれにブラックな要素が盛り込まれているのも魅力である。小川洋子氏はことに著者らしく、やわらかなひつじのイメージとは全く違う秘密めいた雰囲気がたまらない。愉しめる一冊だった。

一週間のしごと*永嶋恵美

  • 2019/02/16(土) 12:33:33

一週間のしごと (創元推理文庫)
永嶋 恵美
東京創元社
売り上げランキング: 693,420

優等生だがほかに取り立てて特徴のない男子高校生・開沢恭平は、日曜日に幼なじみの青柳菜加に呼びつけられ、一方的に相談された。渋谷の雑踏で母親から見捨てられた子どもを保護し、家まで送り届けたが、荒れ果てた無人の室内に危機を覚え、自宅に連れてきたという。昔から行動力だけが突出している菜加は、事の重大さをまったく認識していなかった。「誘拐罪。お前がやったことはれっきとした犯罪だ」――大人たちを頼らず事態の収拾を図るため、恭平たちの波瀾の一週間が幕を開ける!


OLさんのお仕事ものがたりかと思いきや、主人公は高校生たち。しかもかなりショッキングなストーリーである。高校生が主人公だということをつい忘れてしまいそうになる瞬間が何度もある。前半は、不穏な描写もあって興味を惹かれながらも、高校生の日常的な趣が強いのだが、次第に真相に近づくにしたがって、読み始めるときには想像もしなかった展開になり、なかなか納得できなくて、胸が苦しくなる。真犯人にとっては全編救いがなくて、重たいものを呑み込んだような気分だが、それ以外の登場人物にとっては、あしたに光が見えるのが救いである。養護教諭の存在が素晴らしい。さまざま考えさせられる一冊である。

作りかけの明日*三崎亜記

  • 2019/02/14(木) 16:45:12

作りかけの明日
作りかけの明日
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三崎亜記
祥伝社
売り上げランキング: 117,149

ともに生きよう。
たとえ世界が終わるとしても。
十年前の実験失敗の影響で、終末思想が蔓延する街。
運命の日へのカウントダウンが続く中、 大切な人との愛しい日々を守ろうとする人々を描く。

十年前、地下プラントで、ある実験が失敗、世界を滅ぼしうる物質を生み出してしまう。
漏出は食い止めたものの、そのとき壁に謎の数字が浮上、日々、数を減じるそれは、世界が終わるまでのカウントダウンと噂されるようになった。
やがて数字がゼロに近づき、街に終末思想が蔓延しながらも、住民は家族や愛する人との平穏な日々を送っていた。
一方、実験に関わった二つの組織、「供給公社」と「管理局」は再び漏出の危機が高まった物質を鎮静化させるため、鍵となる人物・ハルカを奪い合い、対立を深めていた。
その争いに、愛しい日々を守りたいと願う人々も加わって……。


本作も、三崎ワールド全開である。今回は、人の思念を操るということが題材になっている。現実にあったら恐ろしいことだが、物語中でもその恐ろしさは、十二分に伝わってくる。無意識に操られる世界には、なんの希望もなさそうに思えるが、著者の物語には必ず誰かに希望の鍵が託されている。託された者たちがそれに気づき、破滅を免れるために心を合わせればこそ、世界は平穏と安定を取り戻し、未来への希望をつなぐことができるのかもしれない。世界観に浸り込めさえすれば、ぐいぐいと惹きこまれていく一冊だと思う。

継続捜査ゼミ*今野敏

  • 2019/02/11(月) 18:48:28

継続捜査ゼミ (講談社文庫)
今野 敏
講談社 (2018-10-16)
売り上げランキング: 23,251

長年の刑事生活の後、警察学校校長を最後に退官した小早川の再就職先は女子大だった。彼が『刑事政策演習ゼミ』、別名『継続捜査ゼミ』で5人の女子大生と挑む課題は公訴時効が廃止された未解決の殺人等重要事案。最初に選んだのは逃走経路すら不明の15年前の老夫婦殺人事件だった。彼らは時間の壁を超え事件の真相に到達できるのか。異色のチーム警察小説、シリーズ第1弾!


元警察学校の校長だとは言え、昔の未解決事件だとは言え、一般人にここまで情報を開示していいのだろうかという疑問は於くとして、未解決事件を題材にして検証を進めるゼミはおもしろそうである。ゼミ生は五人、それぞれ個性に富んだ面々で、得意分野もさまざまである。それがうまい具合に役割分担になって事件の真相に迫っていくのである。教授である小早川のキャラクタもなかなか魅力的である。それにしても、いくら題材の提供者だとは言え、毎回オブザーバーとしてゼミに参加している安斎刑事の本来の仕事はどうなっているのか不思議である。ともあれ、気軽に読めて愉しいシリーズで、次が愉しみな一冊である。

テレビ探偵*小路幸也

  • 2019/02/09(土) 16:33:29

テレビ探偵
テレビ探偵
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小路 幸也
KADOKAWA (2018-12-25)
売り上げランキング: 224,188

1969年、イケイケで無類に楽しく、でもちょっといかがわしい、そんなテレビに誰もが夢中だったあの頃―コミックバンド「ザ・トレインズ」のボーヤとなって芸能界入りした19歳の葛西靖之(チャコ)は、個性的なメンバーや業界人たちに振り回されていつも忙しい。ある日、トレインズに土曜夜8時の新番組を持つ話が持ち上がった。スターへの道が拓けたことを喜ぶ者、音楽に専念できないことを危ぶむ者…間で右往左往するばかりのチャコだが、そんな中、生放送中の舞台で殺人未遂(?)事件が発生し―。停滞の時代にガツンと元気を届ける、昭和青春ミステリの開幕!


昭和の真ん中を生きてきたわたしにとっては、懐かしすぎる物語である。いくらフィクションだとは言え、実際の彼らの顔で頭の中に物語が展開されてしまうのは仕方がないだろう。テレビでは見られない裏側の世界が、垣間見られた気分になれて、お得感満載の物語でもある。なんだかいろいろといい時代だったなぁ、と思い出に浸りたくなってしまう一冊でもあった。

それでも空は青い*荻原浩

  • 2019/02/08(金) 18:28:14

それでも空は青い
それでも空は青い
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荻原 浩
KADOKAWA (2018-11-29)
売り上げランキング: 73,932

人と人の組み合わせの数だけ、物語がある―― 読めば心が軽くなる傑作集!

バーテンダーの僕は、骨折で入院した先の看護師の彼女に恋をした。退院後、何度かバーを訪ねてくれたものの、バツイチ7歳年上の彼女との距離はなかなか縮まらない。なぜなら彼女は“牛男”と暮らしているようで……(「僕と彼女と牛男のレシピ」)。

人間関係に正解なんてない――
人づきあいに悩む背中をそっと押してくれる7つの物語。


「人と人との組み合わせの数だけ、物語がある」。まったくその通りだと思う。この物語たちも、ほんの偶然出会って関わることになった人と人が織りなす人生の一場面である。もし相手が違ったら、物語は全く別のものになっていただろう。どれもほんの少し切なく、胸の奥の炎が揺らされるような印象である。地上では過酷なことが起こっていたとしても、頭上には青空があると思うと、なぜかそうひどいことにはならないような気もしてくるから不思議である。愉しい時はもちろん、悲しい時も苦しい時も、なぜか明るさに包まれているような気分になれる。青空の下で思い切り生きたくなる一冊である。

戒名探偵卒塔婆くん*高殿円

  • 2019/02/06(水) 13:29:01

戒名探偵 卒塔婆くん
戒名探偵 卒塔婆くん
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高殿 円
KADOKAWA (2018-11-02)
売り上げランキング: 13,119

「僕に解読できない戒名はない」前代未聞の戒名ミステリー!

のほほんと生きる金満寺の次男・春馬は
金に汚く横暴な住職代行の兄に寺の無理難題をふっかけられがち。
今日も今日とて、古い墓石の身元を探している。
手がかりは石に刻まれたたった数文字の戒名だけ!?
しかし、春馬には同じ高校に通う『戒名探偵』――外場(そとば)薫という切り札があった。
なぜか仏教に異様に詳しい彼は、この日も墓石の写真を見ただけで
すらすらと身元を言い当てるのだ。

有力檀家のルーツ探しに、仏教界びっくりドッキリイメージアップ大作戦!
謎が謎を呼ぶ、巨大コンテンツメーカー創始者の生前戒名を巡る骨肉の遺産争い……

知れば知るほど面白い仏教の世界の謎を、外場=卒塔婆くんが解き明かす!


麻布の寺の次男坊・金満春馬と戒名や仏教に異様に詳しい同級生の外場くんとの(ほとんど一方的な)掛け合いが面白い。元ヤンの兄で、金満時の住職代行の兄・哲彦に、頻繁に突きつけられるミッションの解決も興味深いが、外場くんの謎めいた実態も興味深い。そして、戦争から戦後にかけての生き方と人生の仕舞い方という大命題も重くなり過ぎずに描かれていて、胸に沁みる。友情なんてものにはてんで無関心に見える外場くんも、意外に居心地よさそうでほほえましい。このコンビにはもっと活躍してほしいと思わされる一冊である。

わたし、定時で帰ります。*朱野帰子

  • 2019/02/04(月) 16:40:38

わたし、定時で帰ります。
朱野 帰子
新潮社
売り上げランキング: 47,248

絶対に残業しないと決めている会社員の結衣。個性豊かな同僚たちに揉まれながら働く彼女の前に、無茶な仕事を振って部下を潰すというブラック上司が現れて―。新時代を告げるお仕事小説、ここに誕生!


壮絶なお仕事小説である。定時に帰れる会社を目指し、ひとり戦う会社員の結衣が主人公。周りの評価は様々で(とはいえ概ね仕事に熱心ではないという評価なわけである)、それにめげずに定時帰社を貫こうとする結衣なのである。現状は、結衣ひとりがどう足掻いても、同僚や後輩、上司までもが敵であり、みんな仕事に取り憑かれたように自分を痛めつけるような残業を続ける。恋愛にも職場環境にもジレンマを抱える結衣の奮闘ぶりと、周囲の亀の歩みのような変化が見どころである。まだまだすっきり解決したわけではないが、ここからがきっと勝負だろう。イライラもやもやしながらも、終始結衣を応援した一冊である。

沈黙のパレード*東野圭吾

  • 2019/02/02(土) 20:54:38

沈黙のパレード
沈黙のパレード
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東野 圭吾
文藝春秋 (2018-10-11)
売り上げランキング: 841

突然行方不明になった町の人気娘が、数年後に遺体となって発見された。容疑者は、かつて草薙が担当した少女殺害事件で無罪となった男。だが今回も証拠不十分で釈放されてしまう。さらにその男が堂々と遺族たちの前に現れたことで、町全体を憎悪と義憤の空気が覆う。秋祭りのパレード当日、復讐劇はいかにして遂げられたのか。殺害方法は?アリバイトリックは?超難問に突き当たった草薙は、アメリカ帰りの湯川に助けを求める。


アメリカから帰ってきた湯川先生の性格が(陽性に)変わったように見えるのは、ドラマの配役に引きずられたからだろうか。以前の湯川先生が懐かしいような気持になってしまうのは、身勝手なのだろう。今回は、事件の謎解きに協力するのを渋るどころか、むしろ警察よりも積極的に深入りしており、常に先を行ってさえいる。そして、真相がわかったと安堵する間もなく、湯川先生の新たな推理によって、眠っていた真実が掘り起こされ、なるほどと思わされるのである。物語自体は面白かったのだが、殺されるきっかけとなった被害者とその恋人の行いが、なんとも身勝手な気がして、いささかもやもや感が残るのは残念である。ただ、自分が知っていて、真実だと思っていることがすべてではない、というところには、とても納得できた。早く次の展開が知りたくてページを繰る手が止まらなかったことは確かな一冊である。

警視庁陰陽寮オニマル 鬼刑事VS吸血鬼*田中啓文

  • 2019/02/01(金) 13:25:34

警視庁陰陽寮オニマル 鬼刑事VS吸血鬼 (角川ホラー文庫)
田中 啓文
KADOKAWA (2018-12-22)
売り上げランキング: 54,696

「この庁舎内に鬼がいる」真剣な顔で告げる陰陽師ベニーに、鬼丸は正体を隠し続けることに限界を感じ始めていた。そんな中、万博工事関係者の連続失踪に、吸血鬼が関与していることを突き止めた小麦早希が音信不通に。鬼丸は、謎の少女ヒョウリから小麦発見の通報を受け、邪気が漂う新宿御苑に向かうが、そこでは、“真怪・家康の首”による悍ましい“吸血の儀式”が始まろうとしていた。ついに最終決戦!陰陽寮チームの運命は?


これで完結と思うとちょっと惜しい気がする。ベニーとオニマルがやっと互いに真実に向き合えて、これからもっとスムーズに事に当たれそうなのに……。ともかく本作も、禍々しい人ならぬものとの戦いであり、ベニーの身体もダメージを受ける。オニマルの、陰陽師を忌みながらもベニーを助けずにはいられない気持ちが、はっきりと形に現れた物語でもあった。だからこそ正体がわかってしまったのだが。本来分かり合えないはずの者たちも信頼しあえるという見本のようでもある。ホラーは苦手だが、コミカルな面も多く、愉しめるシリーズだった。