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駅物語*朱野帰子

  • 2019/05/31(金) 16:34:42

駅物語
駅物語
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朱野 帰子
講談社
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「大事なことを三つ言っとく。緊急時は非常停止ボタン。間に合わなければ走れ。線路に落ちたら退避スペースに入れ」 酔っ払う乗客、鉄道マニアの同期、全自動化を目論む副駅長に、圧倒的な個性をもつ先輩たち。毎日100万人以上が乗降する東京駅に配属された若菜は、定時発車の奇跡を目の当たりにし、鉄道員の職務に圧倒される。臨場感あふれる筆致で駅を支える人と行き交う人を描ききった、書き下ろしエンターテインメント!


東京駅の舞台裏、という感じの物語である。電車が定時にやってきて、何事もなく目的地に到着する、という普段気にも留めないことの裏側に、これほどたくさんの人の努力や苦労や緊張や覚悟があるのだということに、改めて感謝したくなる。なんて過酷な仕事なのだ、という思いとともに、責任と誇りをもって業務にあたっている駅員さんたちの姿に敬意を表したくなる。一方、そんな彼らも普通の人。プライベートな悩みも屈託もあり、人間関係の煩わしさに悩まされたりもするのだが、日々少しずつ、相手の立場に立ち、相手を慮ろうとする姿勢も見られるようになり、じわじわとなくてはならない存在になっていくのである。何かあった時に、頼りたいと思う仲間がいることに胸が熱くなる。駅員さんウォッチを目的に東京駅に行きたくなる一冊である。

TIMELESS*朝吹真理子

  • 2019/05/29(水) 09:56:19

TIMELESS
TIMELESS
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朝吹 真理子
新潮社
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空から死は降ってこない。降ってくるとしたら、それは――。芥川賞受賞から七年、待望の新作長篇。恋愛感情のないまま結婚し、「交配」を試みるうみとアミ。高校時代の広島への修学旅行、ともに歩く六本木、そこに重なる四百年前の土地の記憶、いくつものたゆたう時間。やがてうみは妊娠、アミは姿を消す。――二〇三五年、父を知らぬまま17歳になった息子のアオは、旅先の奈良で桜を見ていた……。待望の芥川賞受賞後第一作。


独特の雰囲気のある作品である。物語全体にごく薄い斜がかかっているような、触れられそうで触れられず、届きそうで届かないような、なんと話のもどかしさが充満している。さらには、あらゆる感覚が曖昧で、現在なのか過去なのか、自分なのか他人なのかも時としてまじりあう。同じ場所に、薄紙を重ねるように時間が降り積もって現在に至り、ある時ふとしたきっかけで底が抜けて、薄紙の裂け目から過去の時間に落ちていくような感覚である。そして、過去の自分とは無関係な事々との近さに比して、身近なにいる人との関係がとても頼りなく感じられもする。読みながら、薄い羽衣のようなものに絡めとられていく心地になる一冊である。

平成ストライク

  • 2019/05/26(日) 20:15:26

平成ストライク
平成ストライク
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青崎有吾 天祢涼 乾くるみ 井上夢人 小森健太朗 白井智之 千澤のり子 貫井徳郎 遊井かなめ
(株)南雲堂 (2019-04-23)
売り上げランキング: 142,892

激動の昭和が終わり、バブル経済の熱冷め止まぬうちに始まった平成。
福知山線脱線事故、炎上、児童虐待、渋谷系、差別問題、新宗教、消費税、ネット冤罪、東日本大震災――平成の時代に起こった様々な事件・事象を、九人のミステリー作家が各々のテーマで紡ぐトリビュート小説集。

「平成」という言葉を聞いて 感傷的になっちゃってる自分を照れくさく感じるような人たちへ。
「加速してゆく」青崎有吾
「炎上屋尊徳」井上夢人
「半分オトナ」千澤のり子
「bye bye blackbird...」遊井かなめ
「白黒館の殺人」小森健太朗
「ラビットボールの切断」白井智之
「消費税狂騒曲」乾くるみ
「他人の不幸は密の味」貫井徳郎
「From The New World」天祢涼



まったく好みではないものもあったが、平成という時代を振り返り、その長さと変化の激しさを改めて感じられる物語たちである。現在とは、小説に登場する小道具が違い、言葉遣いが違い、生活の周囲の空気感が違う。「平成」とひとくくりにしてしまうと、橋のない水路を飛び越して、新しい時代である現在(いま)に立っているような心地になる。だが、昭和から平成、そして令和、すべてが地続きなのだと、ふと気づいたりもする。時代の空気ってどうやって作られるのだろう、などと考えたくなる一冊である。

賢者の石、売ります*朱野帰子

  • 2019/05/22(水) 20:42:36

賢者の石、売ります
賢者の石、売ります
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朱野 帰子
文藝春秋
売り上げランキング: 144,469

科学の正しさが人を幸せにする。その信念ゆえに、賢児は会社や家庭で孤立を深めるが……。人間関係に不器用な青年の成長物語。


科学を愛する少年だった賢児は、親友の譲と科学館に入り浸り、夢を語った。科学者になることにあこがれたが、現実はなかなか思い通りにならず、「商人」になる。だが、世の中には似非科学に騙され、それを利用するような似非科学商品を作って売る人がいる。そんな部署に異動させられ、似非科学製品を排除することに心を傾けるようになる。当然会社では変人扱いであり、孤立することになる。家に帰れば、未開人の代表のような姉の美空にいらいらさせられ、母との関係もうまくいかない。科学とは、正義とは、さらには人との関わりに大切なものとは何かを考えさせられる。科学絶対主義に凝り固まっていた賢児の視野がほんの少し広がって、これからの行動の仕方に変化がありそうな兆しが見えて、応援したくなる。数年後の賢児を見てみたいと思わされる一冊である。

魔女は甦る*中山七里

  • 2019/05/20(月) 16:41:55

魔女は甦る
魔女は甦る
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中山 七里
幻冬舎
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埼玉県の長閑な田園地帯で、肉片と骨の屑のようなバラバラ死体が発見された。被害者は現場近くにある製薬会社・スタンバーグ製薬に勤めていた桐生隆。仕事ぶりも勤勉で質素な暮らしを送っていた青年は、なぜ殺されなければならなかったのか?埼玉県警捜査一課・槙畑啓介は捜査を続ける過程で、桐生が開発研究に携わっていた“ヒート”と呼ばれる薬物の存在を知る。それは数ヶ月前、少年達が次々に凶悪事件を起こす原因となった麻薬だった。事件の真相に迫るほど、押し隠してきた槙畑の心の傷がえぐり出されていく。過去の忌まわしい記憶を克服し、槙畑は桐生を葬った犯人に辿り着けるのか。


『ヒートアップ』を先に読んでしまったが、それでも充分に恐ろしさに戦慄させられた。国は、都合の悪いことはすべて隠そうとするが、現実にも知らされていないだけで、本当は恐ろしいことがすぐそこに迫っているように思えてきて、心底震える。極近い関係者しか知らない恐怖が、ほかにも多数ありそうで疑心暗鬼に駆られる。本作の事案の場合は、良心とかつての悔恨を原動力に、戦ってくれる警察官の存在で、爆発的に恐怖が広がる危険はいったんは回避されたが続く物語のことを思えば、決して穏やかではいられない。現実社会では、科学者の良心を切に願うのみである。息ができなくなる心地の一冊だった。

ヒートアップ*中山七里

  • 2019/05/15(水) 16:53:05

ヒートアップ
ヒートアップ
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中山 七里
幻冬舎
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七尾究一郎は、厚生労働省医薬食品局の麻薬対策課に所属する麻薬取締官。警視庁のみならず関東一円の捜査員の中で有名な存在だ。その理由は、おとり捜査を許された存在であることの他に、彼の特異体質が一役買っている。現在は、渋谷など繁華街の若者の間で人気の違法薬物"ヒート"の捜査に身を投じている。"ヒート"は、ドイツの製薬会社スタンバーグ社が局地戦用に開発した兵士のために向精神薬で、人間の破壊衝動と攻撃本能を呼び起こし、兵器に変えてしまう悪魔のクスリ。それによって、繁華街の若者チームの抗争が激化しており、数ヶ月前敬愛する同志・宮條が殉職した。絶望と怒りを胸に捜査を進める七尾に、ある日、広域指定暴力団の山崎から接触があった。目的は、ヒート売人・仙道の捜索について、手を組まないかというものだった。山崎の裏の狙いに気を付けながら、仙道確保のため情報を交換し共闘することを約束した七尾だったが、ある日仙道が殺される。そして、死体の側に転がっていた鉄パイプからは、七尾の指紋が検出された……。犯行時刻のアリバイがなく、特異体質のせいでヒート横領の動機があると見なされ拘留された七尾。これは山崎の仕掛けた罠なのか! ?


どうやら『魔女は甦る』の続編のようである。うっかりこちらを先に読んでしまった。何やら現実に起こりそうな事案であり、戦々恐々としながら読み進んだ。特異体質を持つ麻薬取締官・七尾と、反社会的団体のNo3・山崎が大同の元小異を捨てて、今回限りの共闘を組んだ。二人のキャラクタや駆け引きが興味深い。ヒートを撲滅し、売人を逮捕するという単純なストーリーではなく、事はもっと大きな枠組みの中で起こっているのだった。後半は、これでもかというほど凄惨なアクションシーンが続き、さらに、日本が舞台だとはにわかに信じられないような展開になる。この辺りはもう想像の域をかなり超えてくる。だが、現在の世の中を見ると、絶対にありえないとは言えないところが空恐ろしいところでもある。読むのに覚悟がいる一冊である。

真壁家の相続*朱野帰子

  • 2019/05/12(日) 16:26:24

真壁家の相続
真壁家の相続
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双葉社 (2015-04-24)
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ある日、大学生の真壁りんは、祖父の死を知らされた。急いで葬儀会場へ向かい、真壁家の一族が集まったところで、一人の青年が現れる。彼が「隠し子」と名乗ったことを皮切りに、相続の話し合いは揉めに揉めることに。マイペース、しっかり者、自由人、冗談好き、ゴシップ通…。一人一人はいい人なのに、火種が次々と浮上し家族は崩壊寸前。解決に奔走するりんは、真壁家一族で笑い合える日々を取り戻すことができるのか?笑って泣けるホームドラマの傑作。


まさに実際にありそうで、他人事とは思えずに読み通した。ほとんどの人が、自分の家族は仲が良く、相続の揉め事など無関係だと思っているはずだが、ひとたび火がつくと、ほんの小さな火種が、とんでもない大火事にもなり得ることが、その家庭とともに実感されて、自分が真壁家の協議の場に同席しているような沈鬱な気分にさせられる。そんな中、始終気働きに徹し、自己主張もせずに穏やかにそこにいたりんの母・容子(死亡した祖父の息子の嫁)の態度の訳が、最後の最後に明らかにされて、つい「ふふふ、なかなかやるな」と、ほくそ笑んでしまった。真壁家の相続問題は何とか円満に着地したが、日本のあちこちでいままさに修羅場を演じている家族がたくさんあるのだろうと思うと、安閑とはしていられない心地でもある。その時が来たら、我が家の相続が円満に運びますように、と願わずにはいられない一冊である。

セブンス・サイン 行動心理捜査官・楯岡絵麻*佐藤青南

  • 2019/05/08(水) 16:56:52


行動心理学で相手のしぐさから嘘を見破る美人刑事“エンマ様”こと楯岡絵麻。真っ白な着物を着た男性の餓死死体が河川敷で発見された。胃の中に漆が見つかったことで即身仏を試みたと思われたが、遺体には監禁された跡があった。宗教団体の関与を疑って赴くも、信者らに嘘をついている様子はない。しかし聴取の途中で驚愕の事件が起こり―?鮮やかな手腕で嘘を暴く痛快心理ミステリー!


エンマ様・楯岡絵麻の捜査手法にもすっかり慣れた。だが、取り調べられている被疑者にとっては、一刻も油断できない相手であり、いくら気をつけていたとしても、微細行動によってその犯行が暴かれてしまう。今回のターゲットは宗教団体ということで、嘘をついている自覚がないまま、事実と異なる主張を繰り返すなど、厄介である。だが、粘りに粘った末に、やはり勝利の女神はエンマ様に微笑むのである。このお決まりの設定が気持ち好い。まだまだ続いてほしいシリーズである。

くらやみガールズトーク*朱野帰子

  • 2019/05/07(火) 16:46:12

くらやみガールズトーク
朱野 帰子
KADOKAWA (2019-03-01)
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女性の人生には通過儀礼が沢山ある。たとえば結婚。もう21世紀だというのに、当然のように夫の名字を与えられ、旧姓は消えてしまう。気づいた時は自分が自分でなくなり、夫の家の「モノ」とされてしまうのではないかという不安は、胸の奥にとじこめればとじこめるほど、強いエネルギーに育って、くらやみの扉をこじあけてしまう。他にも、独り暮らし、恋、子育て、親の痴ほう……。自分で選んだ人生のはずなのに、古い社会通念の箱に押し込められ、じわじわと別のものに変容させられていくのはなぜなのだろう? そんな誰にも言えない恐怖を、静かに見つめ、解放してくれる物語。新しい時代を自由に自分らしく生きたいと願う女性たちへの応援歌。30代、40代の女性たちの代弁者・朱野帰子の最新作!


よく考えてみれば、特に変わったことが書かれているわけではない。何となく普通だと思い、深く考えることなく受け入れてやってきたことが、ほんの少し視点をずらしてみてみるだけで、こんなにも普通でなくなり、歪んだものに見えてくることに驚きさえ覚える。そしてそんな自分にまた驚くのである。なんと不用意に生きてきたことか、と。でも、いちいちここに引っかかっていたら、現実には恐ろしく生き辛いだろうな、とも思う。鈍感で居られるからこそ、心の平安を得られるのかもしれない、とも思う。とはいえ、いちいち腑に落ちてしまう一冊でもあった。

もういちどベートーヴェン*中山七里

  • 2019/05/06(月) 16:45:21

もういちどベートーヴェン
中山 七里
宝島社
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ピアニストの道を挫折した高校生の岬は、司法試験をトップの成績で合格して司法修習生となった。
彼は、ベートーヴェンを深く愛する検事志望の同期生・天生高春と出会う。
天生は岬の才能に羨望を抱き嫉妬しつつも、その魅力に引き込まれていき……。
いっぽう、世間では絵本画家の妻が絵本作家の夫を殺害したとして、
妻を殺害容疑で逮捕したというニュースをはじめ、3件の殺人事件を取り上げる――。
それぞれの物語の全貌が明らかになったとき、「どんでん返しの帝王」中山七里のトリックに感嘆する!


司法修習生の岬洋介も、その容姿と頭脳とで周囲を圧倒している。だが、褒められても喜ぶどころか嫌がっているようにすら見える。普通なら嫌味なことこの上ないのだが、どういうわけか、彼は嫌われることもなく、誰からも認められ、ついつい目をやってしまう存在になるのである。狙っているわけではなく、いわゆる天然とでも言おうか、興味の対象が人とは全く異なるゆえの反応のずれのようなものかもしれない。司法修習生の身でありながら、事件の証拠に関して目のつけ所が他とはまるで違い、他人が見落としている些細な一点に、ひたすらこだわり、結果として、解決へと導くきっかけを作ったりするのである。しかも、同じグループの天生(あもう)によって覚醒させられた音楽の才能にも恵まれすぎ、他人から見れば、これ以上何を望むのだ、と思うような人物なのだが、本人はいたって飄々としていて、本心が見えてこないので、周りを戸惑わせるばかりである。なんとも不思議で魅力的な人物である。謎解き要素よりは、岬洋介の魅力を伝える部分が色濃いが、謎解きでは、思わぬどんでん返しもあり、いろんな意味で愉しませてくれる一冊である。

昨日がなければ明日もない*宮部みゆき

  • 2019/05/04(土) 18:59:15

昨日がなければ明日もない
宮部みゆき
文藝春秋 (2018-11-29)
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杉村三郎vs.“ちょっと困った”女たち。自殺未遂をし消息を絶った主婦、訳ありの家庭の訳ありの新婦、自己中なシングルマザー。『希望荘』以来2年ぶりの杉村シリーズ第5弾!


すっかり探偵になった杉村三郎である。探偵というよりは、ご近所の困りごと解決所のような趣がなくもないが、調査はきっちり――ときには嫌味なくらい――念入りにやっている。自らも屈託を抱えている杉村だが、周囲の人に恵まれ、束縛がなくなったフットワークの軽さと人の好さも手伝って、飢え死にしない程度には依頼も来ている。ただ、同じ理由で、頼まれていないことにまで首を突っ込み、厄介事を解きほぐそうとしてしまうのが、良いところとも言えるし、玉に瑕ともいえるかもしれない。依頼人や調査対象者たちの常識はずれな困ったちゃんぶりには開いた口が塞がらないが、現実には往々にして、こんな理不尽が横行しているものかもしれない。厄介事は解決しても、胸のもやもやがすっきりとは晴れないシリーズではある。