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ランチ探偵*水生大海
- 2019/09/30(月) 16:58:25
実業之日本社 (2016-10-06)
売り上げランキング: 355,700
大仏ホーム経理部のOL・阿久津麗子は、同僚の天野ゆいかを誘ってランチ合コンへ。
恋人に振られたばかりでいい出会いを求める麗子だが、
なぜか男性陣から持ち込まれる話題は、犯人探しや暗号解読ばかり。
深夜に動くエレベーター、金曜日に大量の弁当を購入する美女、ストーカー事件の真犯人、
失踪した新婦が残したメッセージ、アパートの窓に日替わりで現れる動物、消えた結婚指輪。
ミステリマニアのゆいかは、それらの「謎」に興味を示し……。
オフィス街の怪事件に安楽椅子探偵のニューヒロイン・天野ゆいかが挑む!
ランチタイムにセッティングした合コンの場で、話題に出た謎を解き明かすという安楽椅子探偵物語である。話題に出した本人は、解き明かしてもらおうという気などさらさらないのだが、麗子の同僚のゆいかが、そのたびに食いつくのである。でも、結果としてその謎解きで、合コン相手が救われたり、腑に落ちて次に進めるようになったりするので、後味は悪くない。恋人がいつまでも見つからないのは、そのせいなのかどうなのか。こんなちょっとした謎解きがみられるなら、ランチ合コン、いつまでも続いてほしい気もする。次も愉しみな一冊である。
崩れる脳を抱きしめて*知念実希人
- 2019/09/28(土) 16:42:33
広島から神奈川の病院に実習に来た研修医の碓氷は、脳腫瘍を患う女性・ユカリと出会う。外の世界に怯えるユカリと、過去に苛まれる碓氷。心に傷をもつふたりは次第に心を通わせていく。実習を終え広島に帰った碓氷に、ユカリの死の知らせが届く。彼女はなぜ死んだのか?幻だったのか?ユカリの足跡を追い、碓氷は横浜山手を彷徨う。そして、明かされる衝撃の真実!?希代のトリックメーカーが描く、今世紀最高の恋愛ミステリー。
タイトルから、認知症を扱ったものかと思ったが、さにあらず。どちらかというと、崩れるというよりは、爆発すると言った方が当たっている気はする。だが、人生の最期を過ごすには、とても恵まれた病院だということは間違いないだろう。患者の希望はたいてい叶えてもらえるのだから。ラストのどんでん返しには、途中でうっすら気づいたが、それでも、碓氷が手掛かりを手繰っていく過程は興味深く読めた。閉塞感と開放感、愛しさと切なさが入り交じった一冊である。
カザアナ*森絵都
- 2019/09/26(木) 06:46:32
平安の昔、石や虫など自然と通じ合う力を持った風穴たちが、女院八条院様と長閑に暮らしておりました。以来850年余。国の規制が強まり監視ドローン飛び交う空のもと、カザアナの女性に出会ったあの日から、中学生・里宇とその家族のささやかな冒険がはじまったのです。異能の庭師たちとタフに生きる家族が監視社会化の進む閉塞した時代に風穴を空ける!心弾むエンターテインメント。
各章の冒頭に、平安の世の八条院と風穴たちの様子が描かれ、その後一足飛びに近未来の物語が始まる。現在の世の中と、人々の営みは同じようではあるものの、規制のされ方や、通信手段など、細かいところがはっきりと異なり、画一的な国の方針から外れる者が暮らしにくい世になっている。そんな世の中で、カザアナたちが、コツコツと日々の暮らしを積み重ねているのが、頼もしくも見える。そして、この世の中ではいわゆる異端と呼ばれてしまいそうな入谷一家と助け合って、そんな世の中に風穴を開けようとするのは、ものすごく無謀だが、人間の正しい欲求であろうと思われる。背筋が寒くなる心地がするとともに、日々を丁寧に生きてさえいれば、たいていのことは何とかなるのではないかと励まされる心地にもなる一冊だった。
亥子コロコロ*西條奈加
- 2019/09/20(金) 19:05:52
味見してみちゃ、くれねえかい? 読んで美味しい“人情”という銘菓。“思い”のこもった諸国の菓子が、強張った心を解きほぐす――。親子三代で営む菓子舗を舞台に、人の温もりを紡いだ傑作時代小説!武家出身の職人・治兵衛を主に、出戻り娘のお永、孫娘のお君と三人で営む「南星屋」。全国各地の銘菓を作り、味は絶品、値は手ごろと大繁盛だったが、治兵衛が手を痛め、粉を捏ねるのもままならぬ事態に。不安と苛立ちが募る中、店の前に雲平という男が行き倒れていた。聞けば京より来たらしいが、何か問題を抱えているようで――。吉川英治文学新人賞受賞作『まるまるの毬』待望の続編!
表題作のほか、「夏ひすい」 「吹き寄せる雲」 「つやぶくさ」 「みめより」 「関の戸」 「竹の春」
今作でも、治兵衛が諸国を旅して見覚えたご当地菓子がおいしそうである。しかも今作では、店前で行き倒れていたところを助けた、雲平という菓子職人と案を出し合いながら拵えた趣向を凝らした菓子が、目新しくもあり前作に増しておいしそうで、列を作る客の評判も上々である。雲平が行き倒れていた事情を解決するという大きな目的が、物語全体を通してまずあり、それに絡んだあれこれや、人と人との情の通い合い、親子の心情、などなど、いろいろな興味をかきたてられる。登場人物は善人ばかりだが、だからと言って問題が起こらないということはないのだなぁと思い知らされる。ラストは思わず頬が緩む展開で、あたたかい気持ちになれる一冊でもある。
最後のページをめくるまで*水生大海
- 2019/09/18(水) 16:23:10
小説の、最後の最後でおどろきたい方、ぜひどうぞ。「どんでん返し」をテーマに描いたミステリー5編。
「使い勝手のいい女」「わずかばかりの犠牲」「骨になったら」「監督不行き届き」「復讐は神に任せよ」……
どの短編も、ラストで景色が一変します。
割と軽く読めるが、ラストでガラッと視点が変わると、いままで見えていたのとは別の景色が見えてくる。人間の思い込みと、脳のだまされやすさを思い知らされる一冊である。
Rのつく月には気をつけよう 賢者のグラス*石持浅海
- 2019/09/16(月) 18:47:03
長江、渚、夏美は大学時代からの飲み仲間だった。
やがて長江と渚は夫婦になり、夏美は会社の同僚・健太と結婚、それぞれ子を持つ親に。
長江の海外赴任でしばらく途切れていた“宅飲み”が、帰国をきっかけに復活。
簡単&絶品グルメをアテに、世間話はいつも思わぬ方向へ……。
米焼酎×サーモンの酒粕漬け=双子が一日ずれるワケ
日本酒×イカの肝焼き=二年の未婚期間の秘密
紹興酒×鶏手羽のピリ辛煮=受験の本当の成功とは
ビール×たこ焼き=悪口上手なママの離婚
旨い酒×時短レシピの絶品グルメ=極上の謎解き!
おいしい料理とお酒、気心の知れた仲間との語らいのひととき、というところは前作と変わらないのだが、今作では、夏美の夫の健太と、息子の大、そして長江夫妻の娘の咲が新たに加わっている。子どもたちはまだ小学生なので、一足先に夕食を済ませて、ふたりで宿題をしたり漫画を読んだりして過ごし、大人たちは、おいしい料理とそれに合うお酒を愉しみつつ、語らうのである。だが、毎回、何かのきっかけで記憶を刺激され、ミステリめいた話になっていくのである。ああだこうだ言いあいながらの推理を見ているだけで愉しくなる。そして、料理もお酒もあらかたなくなるころ、みんなが納得できる結論へとたどり着くのである。それが毎回、なるほど、とうならされる。最後の物語には、ちょっとした仕掛けが施されているが、次につながっていきそうな予感もして嬉しくなる。ひとつひとつは短い物語なので、読みやすく愉しめる一冊である。
シーソーモンスター*伊坂幸太郎
- 2019/09/15(日) 07:31:15
中央公論新社 (2019-04-05)
売り上げランキング: 29,348
我が家の嫁姑の争いは、米ソ冷戦よりも恐ろしい。バブルに浮かれる昭和の日本。一見、どこにでもある平凡な家庭の北山家だったが、ある日、嫁は姑の過去に大きな疑念を抱くようになり…。(「シーソーモンスター」)。ある日、僕は巻き込まれた。時空を超えた争いに―。舞台は2050年の日本。ある天才科学者が遺した手紙を握りしめ、彼の旧友と配達人が、見えない敵の暴走を阻止すべく奮闘する!(「スピンモンスター」)。
どこにでもありそうな嫁姑問題が描かれていながら、その裏では目には見えないが凄まじい攻防が繰り返されていて、表に見えるものと、その裏側の真実の姿とのギャップが激しすぎて興味深い。そして、二作目は、まったく別の物語かと思いきや、そう来たか、という展開で、絵本作家の名前とか、折々にほんのわずか引っかかるが、突き詰めることなく読み過ごしたあれこれを、ひとつずつ腑に落としてくれるのは、さすが伊坂さんである。当然のこととして描かれる近未来の日常が、まったくの絵空事ではなさそうで、怖くもあり、うなずける部分もあるので興味深い。日常の物語の体裁をとったアクションストーリ―とも言える一冊かもしれない。
傲慢と善良*辻村深月
- 2019/09/09(月) 20:28:16
婚約者が忽然と姿を消した。その居場所を探すため、西澤架は、彼女の「過去」と向き合うことになる―。作家生活15周年&朝日新聞出版10周年記念作品。圧倒的な“恋愛”小説。
圧倒的な恋愛小説、というよりは、いままでになかった形の恋愛小説ではないかと思う。恋愛に至ることのできない環境にあるとか、自分を高く見積もりすぎているとか、さまざまな理由でスムーズに結婚できずに焦り始めた男女が、婚活を経て、結婚を視野に入れられる相手と出会う。それだけなら単なる婚活物語だが、ほんとうの物語はここから始まるのである。これまで生きてきた過程で、自分というものをどういう風に捉えているか、婚活という尺度を当てはめて、初めてそのことに思い至ることもある。それまで見えていなかった自らの傲慢さをいやというほど見せつけられ、他人を羨みながら蔑むという、歪んだ心理状態にもなる。多かれ少なかれ誰にもあることのようにも思うが、ここまではっきりと言葉にして突き付けられることは、滅多にあることではなく、普通は、自覚することもなく先に進むのだろうと思うと、それもまた怖い。善良だと思っている自分の傲慢さが、引きずり出されるいたたまれなさもあって、いつしか物語の先を追いかけている。第二部では真実(まみ)の視点になり、急展開し、その唐突さにいささか面食らうが、真実にとっては命がけの行動であり、それでこそのこのラストなのだと思うとうなずける。いい物語だったと思える一冊である。
45° ここだけの話*長野まゆみ
- 2019/09/05(木) 16:54:06
講談社 (2019-08-09)
売り上げランキング: 124,309
カフェで、ファストフードで、教室で、ケアホームで、一見普通の人物が語りはじめる不可思議な物語。一卵性双生児、夢の暗示、記憶の改竄、自殺志願者など、ちりばめられた不穏なモチーフが導く衝撃の結末。読んでいるうちに物語に取り込まれ、世界は曖昧で確かなことなど何もないと気づかされる戦慄の9篇。
どれもが一筋縄ではいかない物語である。激することもなく、淡々と語られていて、概してその内容もその辺によくありそうなことだったりもするのだが、なにかがほんの僅かずつ不穏で、現実に生きている世界とは角度がずれている感覚なのである。そうしてふと気づいてみれば、まるで普通でもありがちでもない、不可思議な世界に迷い込んでいるのである。劇的な転換はなくても、ごく些細な認識のずれが、進んだ先では大きな亀裂になっていることにあとから気づかされるような心地である。そしてそれがなんとも心地好い一冊でもあった。
あきない世傳金と銀 六*高田郁
- 2019/09/02(月) 19:11:32
角川春樹事務所 (2019-02-14)
売り上げランキング: 2,254
大坂天満の呉服商「五鈴屋」は、天災や大不況など度重なる危機を乗り越え、
江戸進出に向けて慎重に準備を進めていた。
その最中、六代目店主の智蔵が病に倒れてしまう。
女房の幸は、智蔵との約束を果たすべく立ち上がった。
「女名前禁止」の掟のもと、幸は如何にして五鈴屋の暖簾を守り抜くのか。
果たして、商習慣もひとの気質もまるで違う江戸で「買うての幸い、売っての幸せ」を根付かせたい、
との願いは叶えられるのか。新たな展開とともに商いの本流に迫る、大人気シリーズ待望の第六弾!
今回もまたまた試練の連続である。幸に安寧が訪れることはないのだろうか。とはいえ、壁が高ければ高いほど、五鈴屋や、その関係者たちの結束が固くなり、ひょんなところからアイディアが湧きだすのはいつものこと。このところは、それがより効率的になってきたようにも思われる。店内の誰もが、幸をご寮さんとして認め、敬っている証だろう。本作では、夫で六代目の智蔵が急な病に倒れて儚くなり、幸が女名前で中継ぎとしての七代目を継ぎ、江戸店を開店させるところまでの物語であり、前途洋々、華やかな雰囲気でラストを迎えたが、江戸でもそう順風満帆にはいかないことだろう。どんな試練が待っているのか、次も愉しみなシリーズである。
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