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ショートショートの宝箱Ⅲ

  • 2020/01/29(水) 18:09:27


スマホで手軽に読めるのも魅力なのか、ショートショート人気が再燃しています。でも本で読むのは、格別な味わいがあると思いませんか?どうぞ目次を開いてみてください。収められているのは、愛すべき小さな物語たち三〇作。どこから読んでもだいじょうぶ。クスリと笑えたりちょっぴりゾッとしたり、ほっこりしたり―。ひとときの別世界旅行をお楽しみください。



さまざまなテイストのごく短い物語が詰まっていて、まさに宝箱である。いつでもどこでも気軽に手軽に読めるというのは、忙しい現代にはぴったりなのかもしれない。一遍一遍が短いので、もう一作、もう一作、とついつい読み進めてしまう一冊でもある。

間宵の母*歌野晶午

  • 2020/01/28(火) 13:10:22


小学三年生の詩穂と首江子は親友同士だったが、紗江子の母の再婚相手である若い義父と詩穂の母が失踪した。その日から紗江子の母の精神状態は普通ではなくなる。詩穂も父親から暴力を受けるようになり、児童養護施設に入れられてしまう。その後、二人は悪夢のような人生を送ることになるのだが、実は驚くべき真実が隠されていた。著者最恐のホラー・ミステリー。



最初から最後まで、ひとつも救いのない物語である。どこまで引き返してやりなおしたとしても、ストーリーはまったく好転しそうもない。にもかかわらず、先を読まずにはいられない気持ちにさせられるのは、語りの力ゆえだろうか。それとも、なにがしかの光を見出そうと希求するが故だろうか。どんよりと重い読後感の一冊であることは間違いない。

歩道橋シネマ*恩田陸

  • 2020/01/27(月) 16:39:45


とある強盗殺人事件の不可解な証言を集めるうちに、戦慄の真相に辿り着いて……(「ありふれた事件」)。幼なじみのバレエダンサーとの再会を通じて才能の美しさ、酷薄さを流麗な筆致で描く「春の祭典」。
密かに都市伝説となった歩道橋を訪れた「私」が記憶と、現実と、世界の裂け目を目撃する表題作ほか、まさにセンスオブワンダーな、小説の粋を全て詰め込んだ珠玉の一冊。



とても短い物語集である。さっと読めるのだが、どれも不思議な余韻があって、しばらく引っ張られるような心地になる。平穏な日常の中に潜む恐怖に似たなにかが、ふと振り向いた隙間から覗いているような、一瞬背筋が凍るようなものもあれば、目を閉じた途端に異次元へ運ばれ、目を開けるとほんの一瞬だったというような印象のものもある。短すぎて消化不良なものもなくはなかったが、概ね楽しい読書タイムをくれる一冊だった。

背中の蜘蛛*誉田哲也

  • 2020/01/24(金) 19:01:56


東京・池袋で男の刺殺体が発見された。捜査にあたる警視庁池袋署刑事課長の本宮はある日、捜査一課長から「あること」に端を発した捜査を頼まれる。それから約半年後―。東京・新木場で爆殺傷事件が発生。再び「あること」により容疑者が浮かぶが、捜査に携わる警視庁組織犯罪対策部の植木は、その唐突な容疑者の浮上に違和感を抱く。そしてもう一人、植木と同じように腑に落ちない思いを抱える警察官がいた。捜査一課の管理官になった本宮だった…。「あること」とは何なのか?池袋と新木場。二つの事件の真相を解き明かすとともに、今、この時代の警察捜査を濃密に描いた驚愕の警察小説。


一般市民には――もっと言えば一般の警察官も――知るよしのない警察の裏側を覗いているようで、わくわくさせられはするが、一方で背筋が寒くなる恐ろしさも持ち合わせている。正義という名の必要悪とどう向き合うか。それと同時に、警察の裏事情に絡めとられた人たちの人生模様にも興味が向かう。なにはともあれ、相手は様々だが、ぎりぎりのところで戦う人びとがひしめく一冊である。

夏服を着た恋人たち マイ・ディア・ポリスマン*小路幸也

  • 2020/01/18(土) 14:25:16


謎のカギを握るのは一枚のメモと高層マンション!?奈々川駅前の高層マンション“グレースタワー”最上階の部屋が暴力団の事務所になっている―。“東楽観寺前交番”に寄せられた通報を受け、赴任三年目の夏を迎えた宇田巡は捜査に向かう。一方、巡の恋人で新人マンガ家の楢島あおいは、年配の女性が不審な男に封筒を渡す場面を目撃してしまう。オレオレ詐欺事件と判断したあおいは、伝説の掏摸の祖母から受け継いだ技を使って、男の胸元から1枚のメモを掏り取る。そんな折、あおいの父・明彦は、長年行方不明だった大学時代の同級生、脇田広巳を町で見かけて…。町の仲間たちが凄ワザで謎に挑む人気ミステリー!


オレオレ詐欺、ドローン技術、SNSの波及力、などなど、現代を表す要素が満載である。だが、東楽観寺前交番の佇まいは、なんだかひと昔前ののどかさを残していて懐かしい感じである。ここに暮らす人たちの関係性も、現代の忙しなさとは遠く、つながりが濃く、その人脈故に解決されることも多々あるのである。今回も、事象そのものは現代的だが、解決のために根底を流れるものは、そんな密なつながりによるところが大きい。誰もが誰かのことを思い、誰かのためを思って動くことで、信頼関係が築かれ、それが次につながっていくのが見て取れてほっとさせられる。次も愉しみなシリーズである。

人面瘡探偵*中山七里

  • 2020/01/17(金) 07:45:28



相続鑑定士の三津木六兵の右肩には、人面瘡が寄生している。六兵は頭脳明晰な彼を“ジンさん”と名付け、何でも相談して生きてきた。信州随一の山林王である本城家の当主が亡くなり、六兵は遺産鑑定のため現地に派遣される。二束三文だと思われていた山林に価値があると判明した途端、色めき立つ一族。まもなく長男が蔵で、次男が水車小屋で、と相続人が次々に不審死を遂げていく。これは遺産の総取りを目論む者の犯行なのか?ジンさんの指示を受けながら事件を追う六兵がたどり着いたのは、本城家の忌まわしい歴史と因習深い土地の秘密だった。限界集落を舞台に人間の欲と家族の闇をあぶり出す圧巻のミステリー。


設定はとんでもないが、面白い探偵コンビである。物語のテイストは、まさに横溝ワールドといったもので、都会の常識が全く当てはまらない時代錯誤的な因習が大手を振っている地域で起こった、一族の忌まわしい関係性にまつわる事件である。本作は、いわば探偵コンビの自己紹介的な印象で、次作以降本格的に面白さが増していくのではないかと察せられる。愉しみなシリーズになりそうな一冊である。

坂の上の赤い屋根*真梨幸子

  • 2020/01/15(水) 09:58:42


人格者と評判も高かった夫婦が、身体中を切り刻まれコンクリート詰めにされ埋められた。血を分けた娘と、その恋人によって…。その残虐性から世間を震撼させた『文京区両親強盗殺人事件』から18年後。事件をモチーフにした小説が週刊誌で連載されることになる。そこで明らかになる衝撃の真実とは!?極上のイヤミス長篇。


のどかなタイトルとは裏腹に、凄惨で残酷で、愛情もや救いのかけらもない物語である。この物語の登場人物たちは、どんな人生を生きたくてこんな人格になってしまったのだろうかと、まるで別の次元の生物を見るような心持ちになってしまいそうでさえある。だが、どの人物にも寄り添えないからこそ余計に、その心の動きを追ってみたくなるのか、ページを繰る手はとまらない。最後の最後まで厭な気分のループで終わり、読後は眉間にしわが寄っていること間違いなしである。これぞイヤミスという一冊である。

約束された移動*小川洋子

  • 2020/01/13(月) 16:44:36


ハリウッド俳優Bの泊まった部屋からは、決まって一冊の本が抜き取られていた。
Bからの無言の合図を受け取る客室係……「約束された移動」。
ダイアナ妃に魅了され、ダイアナ妃の服に真似た服を手作りし身にまとうバーバラと孫娘を描く……「ダイアナとバーバラ」。
今日こそプロポーズをしようと出掛けた先で、見知らぬ老女に右腕をつかまれ、占領されたまま移動する羽目になった僕……「寄生」など、“移動する"物語6篇、傑作短篇集。



さまざまなテイストの物語が集まっている。だが、これらを「移動」に注目してまとめたのは、著者ならではではの感性ではないだろうか。どの物語の主人公も、自分なりのこだわりを持っていて、それは、一般の人に比べても確固としている風に見える。世間との折り合いよりも、自分の中の規則に従って生きる人たちが描かれていて、傍から見ると不自由そうにも見えるのだが、それこそが彼らにとってのしあわせなのだろう、とも思われる。普段気づかない方向からの視点で愉しめる一冊でもある。

せき越えぬ*西條奈加

  • 2020/01/12(日) 07:15:59


思わぬなりゆきから箱根の関守となった若き小田原藩士・武一。彼の前には、切実な事情を抱える旅人が日々やってくる。西国へ帰る訳ありげな兄妹、江戸から夜逃げした臨月の女…やがて命を懸けて一人の男にこの国の未来を託さんとする者たちを知ったことで、武一の身にも人生最大の岐路が訪れる―!


前半は、箱根の関所越えの苦労話や、関所を守る人々の内情などで、なかなか興味深く読め、このまま進むのかと思いきや、後半は、国の行く末を憂う思想がらみの熱いストーリーが加わり、一気に熱気を帯びてくる。身分違いの友情や、お家事情も絡み、ぐいぐい惹きこまれる一冊である。

後悔病棟*垣谷美雨

  • 2020/01/08(水) 18:31:49


神田川病院に勤務する医師の早坂ルミ子は末期のがん患者を診ているが、患者の気持ちがわからないのが悩みの種。ある日、ルミ子は病院の中庭で不思議な聴診器を拾う。その聴診器を胸に当てると、患者の“心の声”が聞こえてくるのだ。「もし高校時代に戻れたら、芸能界デビューしたい」―母に反対されて夢を諦めた小都子が目を閉じて願うと、“もうひとつの人生”へ通じる扉が現れる。念願の女優になった小都子だが…。聴診器の力で“あの日”へ戻った患者達の人生は、どんな結末を迎えるのか。夢、家族、結婚、友情。共感の嵐を呼んだヒューマンドラマ。


題材はシリアスなのだが、設定にファンタジー要素があるためか、深刻になり過ぎずに読める。患者や家族の前で、無意識に不用意な発言をして、不興を買ったり、空気が読めずに気まずい思いをしたりすることが多かったルミ子だが、ある日、患者の心の声が聞こえ、過去に戻って人生をやり直すことができる不思議な聴診器を拾ったことから、患者に寄り添って安心して最期を任せられる医師、という評判を得ることになる。いくら不思議な聴診器を拾ったからと言って、それを生かせなければどうにもならないわけで、患者のために生かすことができたルミ子の医療に取り組む真剣な姿勢が好ましい。実際に過去に戻って人生の悔いを改めた患者たちの第二の人生が、本来の人生と比べてどうだったかはそれぞれだが、読者は、いま生きている人生について考えることになる。人生をやり直したくなるような悔いを残さないように日々を生きようと、改めて思わされる一冊でもある。

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー*ブレイディみかこ

  • 2020/01/06(月) 07:33:51


大人の凝り固まった常識を、子どもたちは軽く飛び越えていく。
世界の縮図のような「元・底辺中学校」での日常を描く、落涙必至の等身大ノンフィクション。

優等生の「ぼく」が通い始めたのは、人種も貧富もごちゃまぜのイカした「元・底辺中学校」だった。
ただでさえ思春期ってやつなのに、毎日が事件の連続だ。
人種差別丸出しの美少年、ジェンダーに悩むサッカー小僧。
時には貧富の差でギスギスしたり、アイデンティティに悩んだり。
世界の縮図のような日常を、思春期真っ只中の息子とパンクな母ちゃんの著者は、ともに考え悩み乗り越えていく。

連載中から熱狂的な感想が飛び交った、私的で普遍的な「親子の成長物語」。


まず思ったのは、無知と無関心がいちばんの障害だということである。知らないということのなんと恐ろしいことだろう。著者親子は、身をもって差別を感じ取り、知らずにいたら考えなかった様々なことを考え、行動し、成長していく。本来であれば、差別など受けずに一生暮らせるのがいちばんだが、それに直面してしまったからには、考え行動せずにはいられない。さらに、著者の息子は、自らの所属意識という両親とは別の悩みも抱えることになる。だがそこから逃げずに、受け止め、観察し、考え、悩み、行動し、自分で道を切り開いていこうとする姿が胸を打つ。本心を言えば、彼らのように実際に差別を受けたいとは思わないが、まずは知ることだと思わされる一冊だった。

虹のような黒*連城三紀彦

  • 2020/01/04(土) 13:06:15


誰もが彼女を狙っている――。
大学祭の当日、英文学ゼミの教室で発生した凌辱事件。ばらまかれる怪文書、謎の猥褻画、五転六転する議論の応酬。いったい、あの「密室」で何が起こったのか?
連城三紀彦“最後の未刊長篇”を初書籍化。さらに、連載時(「週刊大衆」2002~2003年。全36回)に著者が毎回描き下ろした自筆挿画(全72点)を完全収録。本文と連動した挿画にによる著者ならではの企みに満ちた「仕掛け」にも注目いただきたい、ファン必携の愛蔵本。


実際にあったことは何なのか、関わった人々それぞれが胸に持つ思いによって、それぞれの脳裏に描かれた物語と、実際にだれが何のために何をしたか、という歴然とした事実が入り乱れ、読むものを混乱させる。突き詰めてしまえば、ただひと組の夫婦の愛の在り方のすれ違いから端を発したと言ってもいいのかもしれない。初めのうち、その描写にへきえきとする部分もあったが、次第に、真実を知りたい気持ちが高まり、それを知ったのちもなお、理解しがたい何ものかに胸の中をかき回されている心地である。気楽に読める一冊ではない。