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天使に見捨てられた夜*桐野夏生

  • 2020/04/28(火) 16:40:34


失踪したAV女優・一色リナの捜索依頼を私立探偵・村野ミロに持ち込んだのは、フェミニズム系の出版社を経営する渡辺房江。ミロの父善三と親しい多和田弁護士を通じてだった。やがて明らかにされていくリナの暗い過去。都会の闇にうごめく欲望と野望を乾いた感性で描く、女流ハードボイルドの長篇力作。


冒頭のAVの描写があまりにひどすぎて、読むのをやめたくなったが、著者のことだからこれだけで終わるはずはないと思い直して読み進んだ。案の定、出るわ出るわ、あとからあとから、ただならぬ事情が暴かれていく。渦中の一色リナは、AVの中にしか現れず、実態は杳として知れず、彼女の周囲にいた、あるいはいるだろう人びとは、次々に厄介事に巻き込まれていくように見える。果たして、彼女がこれらの悪事の首謀者なのだろうか。興味は尽きないが、それだけではない。ミロが関わっていく人たちの個性の強さや、彼らとの関係性からも目が離せない。父・善三さんは、今作でも顔を出すくらいで、深くは掘り下げられず、それなのに、絶妙な存在感を残して、早々に帰ってしまう。彼のことをもっと知りたいと思うのはわたしだけだろうか。本筋だけでなく、さまざまに愉しめる一冊だった。

あるべき場所*原田宗典

  • 2020/04/26(日) 13:37:40


横断歩道に落ちていたミョウガ、消えたカミソリの刃、失われた指先、かんぬきを掛ける男。何でもない日常の事物にふと目をとめると、そこから世界は変容し始める。そんな違和感を描いた表題作「あるべき場所」。友人がタイから持ち帰ったいわくつきのナイフ。それを手にした者は誰を殺すのか。人間の心理に潜む恐怖をえぐる「飢えたナイフ」など、奇妙な味わいの5編を収めた短編集。


さまざまな物事があるべき場所にない、あるいは、あるべきではない場所にある違和感。だがそれは、気づくことなく見過ごしてしまえば、なんということもないことなのかもしれないが、ひとたび気になってしまうと、居ても立ってもいられなくなる。その絶妙さが興味深い。他も、ほんのりホラーテイストだったりもするが、実際にあってもおかしくないような、些細だが、見逃せないあれこれが詰まっていて、贅沢な一冊である。

メガバンク絶体絶命*波多野聖

  • 2020/04/24(金) 16:32:25


日本最大のメガバンクを喰らい尽くす、魔の「T計画」が発動!TEFG銀行は絶体絶命の危機に陥った。総務部長としてこの難局に挑む二瓶正平。そして、頭取の椅子を捨て相場師として生きていた桂光義が、義と理想のために起つ。史上最大の頭脳戦がここに始まった。経済の巨龍・中国の影。謀略vs.戦略。マネーを知り尽くす著者にしか描けなかった、痛快無比の金融エンターテインメント。


シリーズものとは知らず、前作での経緯などは全くわからなかったが、それでも興味深く読めた。銀行の、買収・合併・統合を巡る内部の権力争いの厭らしさや、バンカーとしての情熱、機を見ることの重要性などなど。さらには、銀行とは全く関係のないところで起こった事件による恨みの根深さが与えた影響などなど。さまざまな要素が詰め込まれてはいるものの、散漫になることなくきっちり回収されていて見事である。ぜひ前作も読んでみたいと思わせる一冊だった。

身元不明 ジェーン・ドゥ*古野まほろ

  • 2020/04/19(日) 16:42:40


定年間近の無気力巡査部長・浦安圭吾に、若き異色のキャリア警視・箱崎ひかりとコンビを組む特命が下る。被害者は全員身元不明、さらに身体の一部が取り除かれていた。真逆の二人が噛み合い始める時、オリンピックで激変した東京湾岸に潜む、国を覆す陰謀の蓋が開く。元警察官僚が喝破するリアル警察小説。


普段読み慣れた警察小説で使われるのとは全く違う符丁――これこそがリアルなのかもしれないが――で語られるので、なかなか慣れず、読みづらい印象ではあった。2020年のオリンピックの後の物語で、それが延期された事実を知っていて読むので、絵空事としっかり受け止めることができるが、そうでなかったとしたら、恐怖感はさらに増したかもしれない。ゴスロリファッションの管理官・箱崎ひかりの先読み力が見事過ぎて、着いていけない部分は多々あるが、定年前の無気力巡査部長・浦安とのコンビも何となくいい感じではある。――と思っていたら、とんでもない展開になるのであるが。事件の特殊性もそうだが、警察内部の不可思議さが曝け出されている印象である。難解ではあったが興味深い一冊ではあった。

証明*松本清張

  • 2020/04/15(水) 18:18:28


小説家を目指す夫と、その夫を支えようとする雑誌記者の妻。原稿を採用されない夫の心は次第に荒み、修羅をさまようようになっていく。やり場のない憤懣は、妻への異常な追及へと変わり、次第に狂気へと―。二人の行く末は?「新開地の事件」「密宗律仙教」「留守宅の事件」、男と女の事件四編を収録。


題材の違う四つの物語である。初出は1969年だが、携帯電話などが登場しないだけで、まったく古びていないのが驚きである。ほぼ手直しせずに現代にも通用しそうである。そして、最後に真犯人を追い詰める際の、理路整然とした要素のくみ上げ方や、積み立て方は、さすがとしか言えない緻密さである。若々しい感覚で読める一冊でもある。

星の見える家*新津きよみ

  • 2020/04/13(月) 18:36:54


安曇野で一人暮らしをする佳代子。病気がちの弟のため、家族で引っ越し、ペンションを始めたのだが、体調が回復した弟が東京の高校に進学したことを機に、家族はゆるやかに崩壊していく。一人になった佳代子は、ペンションをやめベーカリーを始めるのだが、そこにはある秘密が…(表題作)。再び生きることを目指す女性の恐怖と感動を描く、オリジナル短編集。


表題作のほか「危険なペア」 「二度とふたたび」 「五年日記」 「約束」 「再来」 「セカンドオピニオン」

どの物語も、読み始めて間もなく、次の展開が早く知りたくてページを繰る手が止まらなくなる。題材も、ストーリーの流れも、魅力的で、著者お得意の落とし方も見事で、毎回ときめく。粗挽き胡椒のように、ピリッとした後味も愉しめる一冊である。

株価暴落*池井戸潤

  • 2020/04/12(日) 16:37:44


巨大スーパー・株式会社一風堂を襲った連続爆破事件。企業テロを示唆する犯行声明に株価は暴落、一風堂の巨額支援要請をめぐって、白水銀行審査部の板東洋史は企画部の二戸哲也と対立する。一方、警視庁の“野猿"刑事にかかったタレコミ電話で犯人と目された男の父は、一風堂の強引な出店で自殺に追いこまれていた。傑作金融エンタテイメント。


経済小説のようでもあり、旧態依然とした企業の身勝手な体質を糾弾する物語でもあり、さらには、警察の腐敗体質の話でもあるので、いろんな方面から興味深く読める。警察であれ、私企業であれ、規模が大きくなればなるほど、善意の人間も悪意の人間もいて、しかもそれが企業のためなのか、わが身のためなのかの違いで、影響力がさまざまなのでおもしろい。池井戸作品は、肩入れしたい人物がたいてい決まっているので、得られるカタルシスも大きいのだが、今作は、その辺りは多少微妙ではある。ともかく、のめり込める一冊だった。

またたび回覧板*群ようこ

  • 2020/04/10(金) 16:27:46


なにげない毎日にも笑いの種があふれている。好奇心と困惑の日々なのだ。こんなに安いのかと思わず血が騒いだ通販カタログ。やみつきになりそうな怪しげな健康食品。旅先では便利だろうと試してみた紙パンツ。地方でタクシーに乗れば奥さんと呼ばれ、母親からはさり気なく同居信号を送られる…。いろいろあるけれど、それでもまあいいかと思ったりする日常密着大爆笑エッセイ65編。


こんなことあるよねぇ、ときっと誰もがさまざまな箇所でうなずきながら読んでいることだろう。綴られているのは、日常の何気ない出来事ばかりなのだが、だからこその面白みと、よくぞ言ってくださいました、という共感で、とても愉しく読める一冊だった。

僕の探偵*新野剛志

  • 2020/04/08(水) 16:24:06


僕と宗介は半年前、街で偶然再会した。学生時代からの友人は、仕事を辞めて行くあてもないらしい。仕方なく一晩だけ泊めてやるつもりだったのが、今ではすっかり居着いてしまっている。そんな彼は、僕の周辺で起きた事件を素人探偵となって次々と解決していくのだが…。それぞれ暗い過去を持つ青年、勇吾と宗介。彼らに訪れる出会いと別れを描き、爽やかな余韻を残す連作短編集。


主人公の家に居候する友人が、話を聞いて事件を解決する、ある意味安楽椅子探偵物語なのだが、そう単純なものでもない。この探偵、普段はヨガの修行とやらでとんでもない恰好をしていたりするのだが、ときにものすごくアクティブだったりするので驚かされる。主人公の僕・勇吾は素人の女の子が売りのデリヘルの雇われ店長で、女の子たちやお客たちがらみで、あれこれ問題が起きると、居候の宗介に話をし、何となくアドバイスをもらったり、言うとおりにしてみると解決してしまったりするのである。宗介自身も、抱えきれない屈託を隠し持っていて、それがとんでもない展開になったりもする。それでもなんだかんだ言って、後味は爽やかで、青春物語のような読み心地でもあるのが不思議である。ドロドロしたものを爽やかに解決してくれる一冊かもしれない。

果つる底なき*池井戸潤

  • 2020/04/07(火) 12:43:17


これは貸しだからな。」謎の言葉を残して、債権回収担当の銀行員・坂本が死んだ。死因はアレルギー性ショック。彼の妻・曜子は、かつて伊木の恋人だった……。坂本のため、曜子のため、そして何かを失いかけている自分のため、伊木はただ1人、銀行の暗闇に立ち向かう!第44回江戸川乱歩賞受賞作


著者ならではの銀行が舞台の物語である。イエスマンではない気概のある銀行マンが、見て見ぬ振りができなかったが故に命を落とす。その魂を救うために立ち上がった同期の伊木にも、穏やかならぬ事態が次々に出来する。大元はどこなのか、いちばんの悪はだれなのか。こんなに人が死ななくてもいいじゃないか、と思わなくもないが、そのことでさらにハラハラ感が増すのも確かである。人の善意と、そこにつけ込む悪意をまざまざと見せられたような一冊である。

まちまちな街々 ニッポン見聞録*清水義範

  • 2020/04/05(日) 16:44:07


泥江龍彦(職業・作家)は、ある日、いいことを思いついた。それは、K書店を騙くらかして取材旅行にいく―つまり、ひとのお金でタダ旅行をするという企画だったのだ。かくして、泥江とその妻は、二人三脚の旅に出るが、世の中そんなに甘くはない!?抱腹絶倒の珍道中、漫遊記。


相変わらずの清水節である。いい加減な顔をして、至極まじめ。まじめなふりをして、いい加減である。夫婦の会話や、行動に、思わずふふふっと笑ってしまったりしながら、結構きっちりと勘所はおさえられていて、勉強にもなるのである。その辺りに手を抜かないのは、著者のまじめさだろう。同行する妻の役割も大きい気がする。ときにわき道にそれそうな夫を本筋に引き戻し、ときに気ままに次の行動を決める。まさに二人三脚の珍道中なのである。ほほえましい。愉しく読める旅行案内と言った一冊である。

シンクロニシティ 法医昆虫学捜査官*川瀬七緒

  • 2020/04/05(日) 16:35:02


東京・葛西のトランクルームから女性の腐乱死体が発見された。全裸で遺棄された遺体は損傷が激しく、人相はおろか死亡推定日時の予測すら難しい状態だった。捜査一課の岩楯警部補は、若手刑事の月縞を指名して捜査に乗り出した。検屍を終えてわかったことは、死因が手足を拘束されての撲殺であることと、殺害現場が他の場所であると思われることの2点だった。発見現場に蠅とウジが蝟集していたことから、捜査本部は法医昆虫学者の赤堀涼子の起用を決定する。赤堀はウジの繁殖状況などから即座に死亡推定日時を割り出し、また殺害状況までも推論する。さらに彼女の注意を引いたのは、「サギソウ」という珍しい植物の種が現場から発見されたことだった。「虫の知らせ」を頼りに、法医昆虫学者が事件の解明に動き出した。


警察の捜査だけでは絶対に見つけ出せないだろうと思われるような、昆虫やその周辺に関連する微細な要素に引っかかり、深く掘り下げていく昆虫学者・赤堀涼子。犯罪を解明するという使命感はもちろんあるだろうが、それ以上に、虫が知らせるあれこれに耳を傾けて、真実を知りたいという探求心が勝っているように見える。執拗なまでの実地調査や観察が導き出すものは、既成観念に凝り固まった警察官たちを驚愕させるばかりである。だが、そのおかげで、思ってもみないほど根深い恨みと復讐心が暴き出されることになるのである。蛆の描写には、相変わらず馴染めないが、興味深いことこの上ないシリーズである。

かなりや荘浪漫 廃屋の鳥たち*村山早紀

  • 2020/04/02(木) 16:42:04


古い洋館アパート、かなりや荘。そこには心に傷を抱えた人々が集まるという……。
雪のクリスマスイブの夜、バイト先を辞めさせられたうえ、母親が失踪し、家を追い出された茜音は、不思議な偶然からかなりや荘に辿り着いた。
絵を描くことが大好きだった茜音は、その才能を住人の一人の元漫画編集者に注目される。さらに彼女の部屋に、若くして亡くなった天才漫画家の幽霊・玲司が現れて……。
優しく力強い、回復と救済の物語、シリーズ第一弾。新たに書下ろし番外編を加えて新登場。


クリスマスイブにサンタの格好をした少女・茜音が、お姫様のような迷子の女の子に出会い、送っていった先が、洋館アパート・かなりや荘。心に傷を抱えた人たちが住まうそこに、茜音も暮らすことになる。この世ならぬ不思議なことがたくさん起こりそうなかなりや荘で、これから茜音がどんな風になっていくのか、興味津々の一冊である。