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かなりや荘浪漫2 星めざす翼*村山早紀

  • 2020/08/31(月) 16:26:35


かなりや荘で暮らすことになった茜音は、元漫画家の幽霊・玲司や編集者・美月にその才能を見出され、漫画家をめざすことに。そして新しく創刊される漫画雑誌の「新人賞」を巡り、茜音と美月のコンビに好敵手たちも現れそうで…。そんな折、かなりや荘に怪しい新住人がやってきて、事件が起こる!?傷ついたひとたちが立ち上がる姿を優しく描く人気シリーズ、待望の第二弾。書き下ろし番外編も収録。


かなりや荘で、元漫画家の玲司が住んでいた部屋に、たまに現れる本人の幽霊とともに暮らすことになった茜音である。
茜音の漫画を高く評価する編集者の美月とともに、新人賞応募に向かっていこうというところでもある。今作は、次作につながる橋渡し的な印象もあり、茜音のライバルになるだろう少女の出現や、美月のかつてのライバルであり友人とのエピソードなど、プロローグ的な要素も盛り込まれている。そして、風早の街は、きょうも不思議な暖かさに包まれていて、人の悲しみをさりげなく癒してくれているのである。次回からの展開が待ち遠しいシリーズである。

去年の雪*江國香織

  • 2020/08/27(木) 18:41:12


自由自在に時空をまたいで進む物語は、100人以上の登場人物の日常が織り込まれたタペストリーのよう。覗いているうちに、読者もまた、著者の作り出す世界の住人になってしまう。そして、思いもよらぬ地平へと連れてゆかれる。江國香織小説のエッセンスが最大限に味わえるファン待望の一冊です。


さまざまな時、場所、人びとのほんの小さなエピソードが、降り始めたばかりの雪のように、しんしんとただ積もっていく。いつかどこかで束ねられていくのかと、初めは思いもしたが、読み進めるうちに、これはそういう種類の物語ではないのだろうと、段々とわかってくる。同じ場所にも、時を超えて積もる人びとの営みがあり、場所を変えてもそれはやはりあり、どこを切り取るかによって、見えるものが全く違う。だが、時として、混線するかのように、場所と場所、時と時がつながる瞬間があって、普段暮らしていて、「あら?」と思うようなことが、もしかすると、そんな神様のいたずらのようなことなのかもしれない、などと思ってもみる。ひとりでいても、自分だけではない、というような、あたたかい心もちになれる気もする。多元的で重層的な一冊だった。

夜の向こうの蛹たち*近藤史恵

  • 2020/08/26(水) 12:33:16


小説家の織部妙は順調にキャリアを積む一方、どこか退屈さも感じていた。そんなある日、“美人作家”として話題の新人、橋本さなぎの処女作に衝撃を受ける。しかし、文学賞のパーティで対面した橋本の完璧すぎる受け答えに、なぜか幻滅してしまう。織部の興味を惹いたのは、橋本の秘書である初芝祐という女性だった。初芝への気持ちを持て余す織部は、やがて「橋本さなぎ」の存在に違和感を抱くようになる。その小さな疑惑は開けてはならない、女同士の満たされぬ欲望の渦への入り口だった…。「第13回エキナカ書店大賞」受賞作家の最新作。


ミステリでありながら、恋愛物語でもあり、人としてどう生きるかを問う物語でもあるように思う。職業、趣向、容姿、才能、さまざまな要素によって、人は他人を判断し、関わり方を変えたりもする。だが、そんなものに囚われず、なにものからも自由になったときこそ、どう生きているかの真価が問われるのかもしれない。他人とかかわらずには生きられないからこそ、大切なのはその距離感で、それによって、傷つけたり傷ついたりすることにもなるのだろう。胸の内側を軽く引っかかれたような読後感の一冊である。

カインの傲慢*中山七里

  • 2020/08/23(日) 16:02:52


違法な臓器売買の検挙は、形を変えた殺人だ―。練馬区の公園で、少年の死体が発見された。調査の結果、少年は中国人だと判明。しかも死体からは臓器が持ち去られていた。捜査一課の犬養隼人は、後輩の高千穂明日香と共に捜査に乗り出す。少年の生家は最貧層の家庭だった。日中の養子縁組を仲介する不審な団体の存在も明らかに…。その頃、都内では相次いで第2、第3の死体が見つかる。やはり被害者たちは貧困家庭の少年で―。背後に見え隠れする巨大な陰謀。それに立ち向かう犬養たちの執念と葛藤。驚愕のラストが待つ、医療と社会の闇にも迫った警察ミステリ。


犬養刑事シリーズ最新作。臓器が取り出され、荒く縫合された少年の遺体が連続して見つかるという、痛ましい事件である。事件の実行犯を逮捕すればそれでめでたしめでたし、とはいかない事件でもある。現実に目の前で起こったことの裏にあるのは、あまりにも巨大な組織であり、ネットワークであり、さらに言えば、ごく個人的な気持ちでもある。犬養も、けいじとしての立場と、病児を持つ親としての気持ちのはざまで、どれほど葛藤し、心を揺さぶられただろうか、と思うと、他人事ながら胸を締めつけられる。真実を暴くことが、誰かの命を絶つことになるという究極の選択は、人に迫られるべきものだろうか。読み終えた後でもなお、心が揺れ続ける一冊である。

三兄弟の僕らは*小路幸也

  • 2020/08/18(火) 18:29:43


平凡で幸せな家庭に育ちながらも、突然の交通事故で両親を一度に失ってしまった、稲野朗・昭・幸の三兄弟。そんな彼らを助けるべく、ほとんど面識がなかった母方の祖母が家にやってくる。その暮らしの中で兄弟たちは、祖母と母の不仲の理由や父の出生の秘密など、これまで知らなかった家族の裏側を少しずつ知っていくのだが…。中・高・大学生の三兄弟の成長と、家族の絆を描いた、感涙必至のハートフルストーリー。


一般的に見えれば、ものすごく不幸でありながら、まったくそうは見えない三兄弟ではある。著者の作品には、基本的には善人しか出てこないが、本作もまた然り。三兄弟(小学生の末の弟までも)も、周りの人たちも、あまりにも人間ができすぎていて、ともすると白けてしまいそうなのだが、著者の物語はなぜかそうはならず、応援したくなってしまうのが不思議である。これ以上不運に見舞われないように、というよりも、どんな状況に置かれても、いいことを探しているような彼らなので、末永くそのまま穏やかに、と願わずにはいられない一冊である。

修羅の家*我孫子武丸

  • 2020/08/17(月) 16:36:21


簡易宿泊所で暮らす晴男はレイプ現場を中年女性・優子に目撃され、彼女の家につれていかれる。そこには同じ格好をした十名ほどが「家族」として暮らしていた。おぞましい儀式を経て一員となった晴男は、居住者は優子に虐待されていることを知る。一方、区役所で働く北島は、中学時代の初恋相手だった愛香と再会し「家族」での窮状をきく。北島は愛香を救い出す可能性を探るが、“悪魔”が立ちはだかる。


後半の視点の転換によって、いろいろ納得できる部分もあったが、それにしても、終始おぞましい。人間の欲と、恐怖による支配、そしてそれによる無感動が引き起こすさらにおぞましい事々。どれをとっても、誰もが加害者であり誰もが被害者でもあるように見える。だが、誰にも同情はできない。ラストは、一種の救いなのかもしれないが、それで済ませてしまっていいのか、という疑問も残る。とにかくおぞましいの一言に尽きる一冊だった。

クロク、ヌレ!*真梨幸子

  • 2020/08/15(土) 07:39:45


プールで謎の死を遂げた世界的流行作家“ジョー・コモリ”。かつてやり手だった広告代理店勤務の深田貴代美と、売れっ子プランナーの嶋本ミチルは、プライドを懸けた一世一代の大企画のため、彼の人生を追い始めた―。やがて浮かび上がる無名画家の非業の死!!二人の間に一体何があったのか。


N電気の新製品CMの企画を考えるうちに目を止めた、流行作家ジョー・コモリの死の謎と、彼にまつわる事々に関する調べを進める、貴代美とミチル。一族の厄介者だった自称画家の義兄・岩代章夫の遺作を思いつめたように集め、何事かを成そうとしている岩代久仁枝と、それを手伝う娘の章子。それぞれの目線でそれぞれの物語が語られ、ときどき、もはやこの世の者ではないジョー・コモリの語りが挿みこまれる。それが、ある種の謎解きと言えばそうなのだが、現世の人たちは、それぞれの立場から組み立てたストーリーにしがみつくばかりで、真実になかなか辿り着かないのが、不思議でもどかしい。誰もが何も成し遂げられないままの物語とも言えるのかもしれないと思わされる一冊でもあった。

窓辺のこと*石田千

  • 2020/08/11(火) 18:42:47


50歳になった作家の2018年、暮らしに根づいている言葉を丁寧にすくい、文章に放つ。 いいことも悲しいことも書く。人気作家の新境地をひらく傑作エッセイ集! 2018年の1年間、「共同通信」に連載した作品を中心に、その1年に雑誌などに発表したエッセイをまとめる。


特に華々しいこともなく、堅実に丁寧に生きる日々の暮らしに、著者の視線が向けられるだけで、これほどにも愛おしく豊かに感じられるものだということに感動さえ覚える。キラキラと飾った言葉を遣うわけでもなく、淡々と目の前のこと、胸の中のことを書き綴っているような言葉の中に、その「人」がすべて現れていて、うなずかされる。悲しみの深さも、しあわせの噛みしめ方も、抑え目に書かれているからこそ真に伝わるというものだろう。ますます好きになる一冊である。

あしたの華姫*畠中恵

  • 2020/08/09(日) 18:39:40


百万の人々が暮らす江戸でも随一の盛り場、両国。その地回りの親分山越に息子がいたと発覚し、にわかに跡目争いが持ち上がった。娘のお夏も、頭の座を狙う陰謀に巻き込まれ…。お夏を守るよう命じられたヘタレの芸人月草が、“まこと”を見通す姫様人形お華と、西へ東へ駆け回る!


待ちに待った第二弾である。一見頼りなさそうな月草と、追っかけも多く華やかな木偶人形の華姫、そして、両国の地回りの山越親分と娘のお夏との関係も相変わらずだが、月草が山越親分に使われる頻度は増している気もする。そして、華姫なしには何もできない月草なのも相変わらずで、ついつい忘れてしまいがちだが、華姫が話すことは、腹話術師である月草の言葉なのだということもまた真実なのである。今回は、13歳になったお夏の婿取り=山越親分の跡目は誰か、というのが大きなテーマになっていて、それに絡んでさまざまな厄介事が起こるが、お夏に婿取りはまだ早いし、跡目候補に関しても、山越の胸の中では、筋道はできているような気もするのである。続編でたぶんその辺りがもっと明らかにされるのでは、とひそかに思っている。いろいろと愉しみな要素の多いシリーズである。

イエロー・サブマリン 東京バンドワゴン*小路幸也

  • 2020/08/06(木) 08:04:35


四世代が同居する堀田家には、今日も不思議な事件が舞い込む。伝説の作家のアトリエに潜む秘密、紺に届いた盗作を訴える手紙、古本を定期的に買っては店に置いていくミステリアスな少女、藤島とパートナーになった美登里につきまとう過去の亡霊―。バンドワゴンの面々は「LOVE」という強い絆を持って立ち向かう。人気シリーズ待望の第15弾!


なんと第15弾!お見事である。堀田家の様子も、年々様変わりし、とうとう研人が高校を卒業する年齢に。なんとも感慨深いものがある。だが、相変わらず、厄介事とは縁が切れないようで、今回もあちこちから様々な厄介事が転がり込んでくる。我南人がふらっといなくなるのはいつものことで、最後にびしっと決めてくれるのも、いつも同様Loveである。改めて人と人とのつながりのありがたさを思うシリーズでもある。

お引越し*真梨幸子

  • 2020/08/02(日) 16:39:47


引っ越した先は闇の中。マンションの内見、引っ越し前夜の片付け、隣人トラブル…「引っ越し」に潜む“恐怖”を描いた、世にも奇妙な連作短編集。


紹介文にもあるように、「世にも奇妙な物語」で映像化されそうなストーリーばかりである。怖いが、他人事だと思うと覗き見したくなってしまう。そして、普段解説を読まない読者も、騙されずにこの解説は読まなければならない。中古物件に潜む闇と、知ってしまったからこそ、あるいは、知りそうになってしまったからこその恐ろしさが満載の一冊である。

発注いただきました!*朝井リョウ

  • 2020/08/01(土) 19:05:00


有名企業からの原稿依頼に直木賞作家はどう応えるのか。「これが本当のお仕事小説だ!」無理難題(!?)が並ぶ発注書→本文→解説の順で20編を収録!


さまざまな企業から、キャンペーン用などとして依頼され、広報誌などに掲載された文章が集められている。企業によってさまざまな趣旨や執筆枚数の依頼がまず冒頭に掲げられ、それに応える形で著わされた文章が続き、最後に、「お疲れさまでした」と称するまとめや反省、執筆時の苦労話などが配されている、という楽しい趣向であり、著者のしたたかさも伺える一冊でもある。