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FACTFULNESS*ハンス・ロスリング他、 上杉周作・関美和訳

  • 2020/09/29(火) 16:22:23


ここ数十年間、わたしは何千もの人々に、貧困、人口、教育、エネルギーなど世界にまつわる数多くの質問をしてきた医学生、大学教授、科学者、企業の役員、ジャーナリスト、政治家―ほとんどみんなが間違えた。みんなが同じ勘違いをしている。本書は、事実に基づく世界の見方を教え、とんでもない勘違いを観察し、学んだことをまとめた一冊だ。


日頃、どれだけ間違った思いこみを真実だと思って生きているかを、思い知らされるようである。物事を判断する上でのヒントにあふれているとは思うが、いままであまりにも長い間、情報を受け入れ、本能のままに判断してきたわたしには、行動を変化させるのは、なかなか容易ではない気もしてしまう。ただ、以前に比べて、入ってくる情報を鵜呑みにするのではなく、その裏に隠されているものの意図を想像してみようと、一旦立ち止まるようにはなってきているので、一朝一夕には難しくても、少しずつ変容させていくことはできるのかもしれないとも思う。理屈はわかるが、凝り固まった頭には、実践はなかなか難しいと思わされる一冊でもある。

不連続な四つの謎 このミステリーがすごい!大賞作家傑作アンソロジー

  • 2020/09/26(土) 07:53:00


加納&玉村刑事が巻き込まれた寝台特急での密室殺人、リサイタル後に起きた有名ピアニストの服毒死の謎、元特撮ヒーローを襲う不可解な誘拐事件、猛吹雪からの首都脱出―テレビドラマと連動したコラボレーションも話題を呼んだ、『このミステリーがすごい!』大賞受賞作家4名が贈る傑作ミステリー短編集、ついに文庫化!それぞれ独立した4つの物語を各作家が繋いだ、書き下ろし幕間つき。


海堂尊、中山七里、乾緑郎、安生正という、このミス大賞作家がのリレー形式の連作である。タイトルにあるように、つながりは極ごく弱いが、書き下ろされた幕間の巧みな誘導によって、まとまりのある印象になっている。作家それぞれの持ち味もいかんなく発揮されているので、読み応えもあって、愉しめる一冊である。

毒島刑事最後の事件*中山七里

  • 2020/09/23(水) 13:25:55


刑事・毒島は警視庁随一の検挙率を誇るが、出世には興味がない。一を話せば二十を返す饒舌で、仲間内でも煙たがられている。そんな異色の名刑事が、今日も巧みな心理戦で犯人を追い詰める。大手町の連続殺人、出版社の連続爆破、女性を狙った硫酸攻撃…。捜査の中で見え隠れする“教授”とは一体何者なのか?動機は怨恨か、享楽か?かつてない強敵との勝負の行方は―。どんでん返しの帝王が送る、ノンストップミステリ!


犯人としては、こんなに厭な取り調べはないだろうと、思わず同情してしまいたくなるくらい、ねちねちと執拗で、人間性の根底から否定してかかるような、ある種嫌がらせ全開の手法である。作戦というか、これはもう、毒島刑事の身の裡からにじみ出るものかもしれない。普段の一見した人当たりの良さとのギャップが、なおさら厭らしさを増幅しそうである。だが、その思いは、終始一貫していて、ぶれることがないので、読者としては、犯人がどんなふうに落ちていくかを手に汗握りながら見守ればいいが、上司の麻生は、いつも冷や汗ものであろうことは想像に難くない。自分が犯人にならない限り、格好いい毒島刑事なのである。読み応えのある一冊だった。

甲の薬は乙の毒*塔山郁

  • 2020/09/21(月) 07:49:44


薬剤師の毒島さんはその知識を活かし、これまで数々の薬にまつわる不思議な出来事を解決してきた。きちんと管理しているはずの認知症の薬が一種類だけ消えるのはなぜ?筋トレに目覚めた青年が抱える悩みとは?ホテルマンの爽太はいつものように毒島さんに相談をするが、ある日から彼女は「今までは言わなくていいことを言い過ぎていた」と言って推理を教えてくれなくなり…。ウイルスと薬の関係や糖尿病対策など、生活に役立つ知識も満載の薬剤師ミステリー!


薬剤師の毒島花織が主人公のシリーズである。毒島さんに思いを寄せるホテルマン・水尾爽太の目線で語られる、いわゆる日常の謎ミステリなので、派手な事件が起こるわけではないが、薬がらみなだけに、ときには命にかかわることもある。爽太の周りで起きた出来事の話を聞いて、毒島さんが薬剤師としての知識を総動員して謎を解き明かすのだが、薬剤オタクっぽくもある毒島さん、結構過激な行動に出たりもして、目が離せないところもあって、ハラハラさせられる。文系頭でも、興味深く楽しく読める一冊である。

生かさず殺さず*久坂部羊

  • 2020/09/18(金) 18:19:57


がんや糖尿病をもつ認知症患者をどのように治療するのか。認知症専門病棟の医師・三杉のもとに、元同僚で鳴かず飛ばずの小説家・坂崎が現われ、三杉の過去をモデルに「認知症小説」の問題作を書こうと迫ってくる。医師と看護師と家族の、壮絶で笑うに笑えない本音を現役医師が描いた医療サスペンスの傑作。


さまざまな病気を抱える認知症患者専門の病棟、人呼んで、にんにん病棟が舞台である。それだけで、一筋縄ではいかないことは想像に難くない。どんな日常が繰り広げられているのか興味が湧く。現実問題として、病気の認知症患者の身内をお持ちの方は、おそらく、こんな描写はまだまだ生ぬるいとおっしゃるだろうということも想像できる。それを踏まえてさえ、現場の壮絶さがうかがい知れる。患者本人のケアの大変さはもとより、家族の思惑が絡み、家族が複数いれば、それぞれの思惑が同じとは言えず、混乱に拍車をかける。あっちをなだめ、こっちをなだめ、さらには自分の胸の裡までなだめながら、日々ご苦労を重ねておられる病棟スタッフのみなさんには、頭が下がる。さらには、他人事と割り切って読むことができないから、なおさら気分が沈むのである。スパッと解決する方法があればどれほどいいだろう、と思わずにはいられない一冊である。

西洋菓子店プティ・フール*千早茜

  • 2020/09/16(水) 12:32:28


女を昂奮させない菓子は菓子じゃない。
スイーツは誰かの心を不意につかんで新しい場所へと羽ばたかせるスイッチ。下町の洋菓子店を舞台に繰り広げられる鮮烈な六つの物語。


おいしそうなお菓子の描写満載で、ついつい食べたくなってしまう。だが、物語は甘いだけではない。甘さの裏に潜むほろ苦さが、甘いお菓子との対比でなおさら苦く感じられたりもする。人生なかなか一筋縄ではいかない。誤解もすれ違いも、意地も甘えも、さまざまな気持ちがまじり合い、絡まり合って、容易にほどけなくなることもある。人間関係のほろ苦さとあたたかさを存分に味わえる一冊である。

掟上今日子の退職願*西尾維新

  • 2020/09/13(日) 16:52:19


退職願を胸ポケットに忍ばせ、波止場警部は揺れていた。彼女の最後の事件は、池に浮かび上がった水死体。しかしその不可解さゆえ、名高い忘却探偵・掟上今日子と協力捜査することになり…。辞めたがりの刑事と仕事中毒の名探偵。奇妙なタッグが謎に挑む!


 第一話 掟上今日子のバラバラ死体
 第二話 掟上今日子の飛び降り死体
 第三話 掟上今日子の絞殺死体
 第四話 掟上今日子の水死体

今回の相棒は、すべて同年代の女性である。忘却探偵に対する思いもそれぞれだが、探偵の方は、当然のことながら誰に対しても初対面の対応であり、網羅的と言える捜査法も、不躾とも言えるふてぶてしさも、行動のためらいのない大胆さもいつも通りの安定感である。これも当然のことながら、探偵自身は身に覚えがないことばかりであるが。そして、相棒刑事の何気ない一言が、ひらめきのきっかけとなり、あっという間に事件の真相に辿り着いてしまうのだが、そこまで来てしまえば、あとはあっさりとしたものなのである。そして、次に会うことがあったとしても、また初めましてなのである。本作では、忘却探偵が探偵でいる理由も今日子の口から語られ、なんとも言えない気持ちにさせられる。すっかり脳内では新垣結衣さんで読んだ一冊だった。

女帝小池百合子*石井妙子

  • 2020/09/12(土) 16:52:43


コロナに脅かされる首都・東京の命運を担う政治家・小池百合子。
女性初の都知事であり、次の総理候補との呼び声も高い。

しかし、われわれは、彼女のことをどれだけ知っているのだろうか。

「芦屋令嬢」育ち、謎多きカイロ時代、キャスターから政治の道へーー
常に「風」を巻き起こしながら、権力の頂点を目指す彼女。
今まで明かされることのなかったその数奇な半生を、
三年半の歳月を費やした綿密な取材のもと描き切る。


良きにつけ悪しきにつけ、小池百合子という人はが、人びとの興味を引く人物であることは間違いないのだろう。本書は、彼女の真実を暴くことを主眼としているので、間違っても褒め称えたりすることはない、とは理解しつつ、それでも、本書を読み、ひとりの人間の裏側を覗くという行為には、ある種の背徳感が伴う。自ら手を伸ばしてページを繰りながら、何となく後ろめたい心地にもなるのである。だが、内容には思い当たることも多く、丁寧に取材はされているのだろうとは思わされる。カイロ大学の対応や、そうそうたる政治家のみなさんの対応等、腑に落ちず疑問が残ることも多々あるが、だれしも、全面的に信じることはできないのだということは、肝に銘じなければならないということかもしれない。これからの小池百合子を見ていたいと思わせる一冊ではあった。

雲を紡ぐ*伊吹有喜

  • 2020/09/07(月) 19:00:58


壊れかけた家族は、もう一度、ひとつになれるのか?羊毛を手仕事で染め、紡ぎ、織りあげられた「時を越える布」ホームスパンをめぐる親子三代の心の糸の物語。


互いの心のなかを慮ることができず、言葉に現れたものだけでしか判断することができなくなっていた父と母と娘。互いに様子を窺うような家族に、もはや安らぎはない。しかも――だからこそなのかもしれないが――、職場や学校も、安らげる場所ではなくなり、次第に逃げ場がなくなっていく。そんな折、高校生の娘・美緒は、ふとしたきっかけで、父方の祖父がホームスパンの工房を持っている岩手に家出同然にやってくるのである。そこで、糸を紡ぐことのすばらしさに出会って、自分の心の赴くままに何かをやることの楽しさを知り、ほんの少しずつだが、凝っていたものが柔らかくなって、一歩ずつ前へ進める糸口を見つけられそうな気持になるのだった。何ものでもなかった一本の糸が、織られてなにかになっていくように、人と人も、撚り合わされることで強くなれるのかもしれないと、心強く思える一冊だった。

ヒポクラテスの試練*中山七里

  • 2020/09/06(日) 16:08:32


偏屈だが解剖の腕は超一流の光崎藤次郎教授が率いる浦和医大法医学教室に、城都大附属病院の内科医・南条がやって来た。前日に搬送され急死した前都議会議員・権藤の死に疑問があるという。肝臓がんが死因とみられたが、九カ月前に受けた健康診断では問題がなかった。捜査に駆り出された埼玉県警の古手川は、権藤の甥が事故米を使って毒殺を目論んだ証拠を掴む。しかし、光崎が司法解剖から導き出した答えは恐るべき感染症だった!直後、権藤の周囲で新たな不審死が判明。感染源特定に挑む新米助教・栂野真琴が辿り着いた驚愕の真実とは―!?


原因も状況も違うが、まさにいま読むために書かれたようなストーリーである。良いのか悪いのかは別にして、エキノコックス感染症でパンデミックになった時の状況が想像しやすい。パンデミックを封じるために動く光崎教授と研究室のメンバーの必死さ。それに比べて、感染元を疑われる都議会の面々の歯切れの悪さ。アメリカにまで渡った調査の過程で目にし、耳にした事々の醜悪さ。人間の弱さ醜さ、自己保身、プライド、などなどあまりにも多くの要素が絡み合った結果の、悶絶死なのである。思わず目を覆いたくなる。読後感は決して良くはないが、人の命を救うことにかける情熱がぐいぐいと伝わってくる一冊ではある。

流星シネマ*吉田篤弘

  • 2020/09/03(木) 16:18:59


都会のへりの窪んだところにあるガケ下の町。僕はその町で、“流星新聞”を発行するアルフレッドの手伝をしている。深夜営業の“オキナワ・ステーキ”を営むゴー君、メアリー・ポピンズをこよなく愛するミユキさん、「ねむりうた」の歌い手にしてピアノ弾きのバジ君、ロシアン・コーヒーとカレーが名物の喫茶店“バイカル”を営む椋本さん、ガケ上の洋館で、“ひともしどき”という名の詩集屋を営むカナさん―。個性的で魅力的な人々が織りなす、静かであたたかな物語。


ガケ下の町の成り立ちや、町や、そこで暮らす人々の抱える事々。それぞれに悲しみや苦しみや懊悩を胸に秘めつつ、ときに、見えないものを見、聞こえないものを聞きながら、静かに穏やかに日々を過ごしているように見える。だが、何か足りないものを、誰もが探しているのかもしれない。そんな気がする。最後に辿り着いた、みんなの足りないものが、それぞれにある程度満たされるように思われる場所で、これからも彼らは静かに穏やかに暮らしていくのだろうと思わせてくれる一冊である。