FC2ブログ

スター*朝井リョウ

  • 2020/11/30(月) 07:27:52


「どっちが先に有名監督になるか、勝負だな」新人の登竜門となる映画祭でグランプリを受賞した立原尚吾と大土井紘。ふたりは大学卒業後、名監督への弟子入りとYouTubeでの発信という真逆の道を選ぶ。受賞歴、再生回数、完成度、利益、受け手の反応―作品の質や価値は何をもって測られるのか。私たちはこの世界に、どの物差しを添えるのか。朝日新聞連載、デビュー10年にして放つ新世代の長編小説。


人類永遠の葛藤、ともいえるテーマである、なぜ生きるか、どう生きるか、ということを、昔ながらのこだわりを持ち続けたいという青年と、新しい世界に飛び込んでいく青年という二つの視点で描いている。だが、突き詰めれば、ひとりの人間が内包する葛藤のようにも見えてくる。何を大事に思い、何を譲らずに生きていくか。立場や年代に関わらず、生きている限り、日々選択し続けなければならない問題でもあるだろう。読みながら、又吉直樹の「火花」と共通する印象も抱いた。新しい題材を用いて普遍的なテーマを描いた一冊と言えるかもしれない。

コンピュータの熱い罠*岡嶋二人

  • 2020/11/27(金) 18:37:11


コンピュータ結婚相談所“エム・システム”のオペレータ夏村絵里子はある女性のデータを見たいという客・土井綾子の申し出を断わる。綾子の兄は、エム・システム紹介の女性と新婚旅行中、死亡したのだ。ところが、その綾子は翌日、殺された!疑問を抱いた絵里子はデータを調べるうちに、恋人市川輝雄がエム・システムの会員であることを知り衝撃をうける。さらに、データに重大な秘密が隠されていることに気づく!彼女は同僚古川信宏に相談。彼は、コンピュータに仕掛けられた何かに迫るが、殺されてしまう。謎を追う絵里子。二つの殺人事件の交錯するところにさらに大きな陰謀が…?!何重もの“罠”が読者を魅了するコンピュータ推理の傑作!鬼才の才気あふれる推理作家協会賞受賞第一作!!


1986年の作品である。当時はおそらく最先端だったであろうコンピュータ用語や、データ処理などの用語が出てくるが、現在では別のものに取って代わられているものも多い。そして、関連会社すべてをネットワークでつなぎ、社員の個人情報をつぶさに管理するなど、現在では普通に行われていることのはじまりを覗き見たようでもあって興味深い。とは言え、人間の考えることは、昔も今もあまり変わりがないようで、ずるがしこい奴はいつの時代も狡猾な手を使って自分だけ得をしようとするものである。パソコンが一人に一台の時代でもなく、もちろんスマホなどない時代の物語だが、意外にも古びた印象はそれほどなく、ハラハラしながら先を楽しみに読むことができる一冊だった。

合理的にあり得ない 上水流涼子の解明*柚月裕子

  • 2020/11/25(水) 16:36:36


「殺し」と「傷害」以外、 引き受けます。
不祥事で弁護士資格を剥奪された上水流涼子は、IQ140 の貴山をアシスタントに、探偵エージェントを運営。「未来が見える」という人物に経営判断を委ねる二代目社長、賭け将棋で必勝を期すヤクザ……。明晰な頭脳と美貌を武器に、怪人物がらみの「あり得ない」依頼を解決に導くのだが――。美貌の元弁護士が、知略をめぐらす鮮烈ミステリー! 『孤狼の血』、『慈雨』の著者、渾身作!!


表題作のほか、「確率的にあり得ない」 「戦術的にあり得ない」 「心情的にあり得ない」 「心理的にあり得ない」

欠点を探すのが難しいくらいのアシスタントの貴山との出会いは、最後の物語で明かされ、決して幸福な出会いではなかったのだが、このコンビができた運命を喜びたくなる。それにしても、貴山の優秀さよ!彼なくしては、上水流エージェンシーが成り立たないのは一目瞭然である。だが、その貴山に的確な指示を出す涼子の頭脳もなかなかではある。ミステリとしては、アンフェアな部分もあるが、どの物語も最後には胸がすっとするので、それがいちばんである。これはシリーズ化されないのだろうか。このコンビの仕事をもっともっと見たいと思わされる一冊だった。

あの日、君は何をした*まさきとしか

  • 2020/11/24(火) 07:54:37


北関東の前林市で暮らす主婦の水野いづみ。平凡ながら幸せな彼女の生活は、息子の大樹が連続殺人事件の容疑者に間違われて事故死したことによって、一変する。大樹が深夜に家を抜け出し、自転車に乗っていたのはなぜなのか。十五年後、新宿区で若い女性が殺害され、重要参考人である不倫相手の百井辰彦が行方不明に。無関心な妻の野々子に苛立ちながら、母親の智恵は必死で辰彦を捜し出そうとする。捜査に当たる刑事の三ツ矢は、無関係に見える二つの事件をつなぐ鍵を掴み、衝撃の真実が明らかになる。家族が抱える闇と愛の極致を描く、傑作長編ミステリ。


三分の一ほどを占める第一部では、2004年の連続殺人事件の容疑者脱走に関わる事件が描かれ、第二部では、15年後の2019年に起きた、女性殺害事件の捜査から浮かび上がってくるあれこれが描かれている。担当の三ツ矢刑事は、変わり者と評判だが、15年前の事件にも関りがあり、捜査するうちに、否応なく15年前の事件にかかわるあれこれが立ち上がってきて、わからないことを知りたいという思いに突き動かされる。三ツ矢と組まされた田所岳斗は、自分が頼りにならないふがいなさと、三ツ矢の考えを知りたいという思いとで、三ツ矢に惹きつけられていく印象である。どの出来事も一筋縄ではいかない何かを内包しているように思われ、真実がわからないことにもどかしさが募る。殺人犯に間違われてパトカーに追われたあげくに事故死した水野大樹の真実が見えた、と思ったのも束の間、それもまた幻でしかなく、もどかしさとやり切れなさが消え去ることはなかった。それでなおさら現実のままならなさを思い知らされる。胸の奥をひっかかれたような気分が最後まで残る一冊である。

ツインソウル 行動心理捜査官・楯岡絵麻*佐藤青南

  • 2020/11/22(日) 16:33:38


チャンネル登録者数十万人を超える人気の動画配信者が殺された。被疑者の聴取を行うのは刑事・楯岡絵麻。行動心理学で相手の嘘を見抜く通称「エンマ様」の取調べで事件の意外な真相が明らかに。その後も、更生した元被告人はなぜ再び罪を犯したのか。ホームヘルパー殺害事件の裏で何があったのか。様々な事件を解決する絵麻だったが、通り魔事件被疑者の取調べで予想外の事実を知り―。


 第一部 人気者を殺ってみた
 第二部 歪んだ轍
 第三部 トンビは何を産む
 第四部 きっと運命の人

すっかりドラマの配役が定着してしまっているので、それ以外の映像が浮かばないが、適役だと思うので、違和感はない。第三部までは、いつも通り、エンマ様こと楯岡絵麻のペースで、取り調べが行われるが、第四部だけは、いささか勝手が違って、ちょっとハラハラさせられる。それがまだまだ続編がありそうな期待にもつながるので、嬉しくはあるが、長く尾を引きそうでもあって、心配でもある。次作も愉しみなシリーズである。

いちねんかん*畠中恵

  • 2020/11/20(金) 07:40:25


ついに、病弱若だんなの後継ぎ修業が本格始動! 試練続きの一年の幕開けだ。江戸の大店長崎屋の主夫妻が旅に出かけ、父から店を託された若だんなは大張り切り。しかし、盗人に狙われたり、奉公人となった妖が騒ぎを起こしたり、相変わらずのてんやわんや。おまけに江戸に疫病が大流行! 長崎屋に疫病神と疫鬼が押しかけてくるし、若だんなは無事に長崎屋と皆を守れるの~? 波乱万丈なシリーズ最新刊。


シリーズ19作目。若だんな・一太郎が健康になる気配は全くないが、両親が一年も留守の間、気を張って店を守る姿が健気で泣けてくる。妖たちも、常に増して気合が入っており、いつも以上に若だんなの役に立っているのも涙ぐましい。若だんなだけでなく、妖たちも、なんだかんだで成長しているのかもしれない。仁吉と佐助の兄やたちの助けなしには、もちろん成り立たないのだが、なんとか店を守って両親の帰宅を迎えた一太郎が、ほっとしすぎて長く寝込まないことを祈るばかりである。いつまでも続いてほしいシリーズである。

あなたのご希望の条件は*瀧羽麻子

  • 2020/11/16(月) 13:09:26


人生の選択肢はひとつじゃない。それぞれが選ぶ道とは―?千葉香澄は、転職エージェントに勤める四十歳のキャリアアドバイザー。「転職した先輩からすすめられて」「営業以外ならなんでも」「勤め先が倒産して」「あこがれの会社に再挑戦したい」…さまざまなきっかけで転職を考えている人々に相応しい求人を、ちょっぴり頭の固いAI「ソフィア」を活用しながら紹介するのが仕事だ。ときには悩みを打ち明けられたり、あらためて再考を促したりもする。十人十色の仕事観や人生模様にふれるうち、自分自身の仕事や人生も見つめ直すことに―。


転職エージェンシーにスポットを当てたお仕事小説。転職の相談に来る人たちの、それぞれの事情や転職を決めるまでのいきさつが興味深いのはもちろん、相談を受ける側の担当者・千葉香澄の抱える事情も興味深い。ただ、個人的には、別れた元夫のことが、禁忌になりすぎている印象は多少あって、本人も周りも、もう少しさっぱりした気分になってもいいのではないかという気はしなくもない。そこを於けば、香澄の自身の仕事に対するモチベーションや、転職希望者とかかわる中での葛藤など、魅力はたくさんあって、愉しい時間を過ごせる一冊だった。

初夏の訪問者 紅雲町珈琲屋こよみ*吉永南央

  • 2020/11/13(金) 16:44:59


紅雲町にやってきた、親切と評判の五十過ぎくらいの男。ある日彼は小蔵屋を訪ね、草に告げた。「私は、良一なんです」草が婚家に残し、三歳で水の事故で亡くなった息子・良一。男はなんの目的で良一を騙るのか、それとも―。


なんといっても、お草さんのキャラクタが魅力的である。悟り切った年寄りではなく、上からものを言うこともなく、決して優等生ではないところに、リアルな人間味が感じられる。それにしても、今回ほど心を揺さぶられたことはあっただろうか。なんとも悩ましい日々が描かれていて、切ないような、やり切れないような、呑み込めないような、複雑な心持ちにさせられる。そんな中でも、やはり助けられるのはひとの縁。言葉はなくても、まごころは通じ合うものである。お草さんの胸の底の重たさが少しでも軽くなっていたらいいと願わずにはいられない一冊だった。

心淋し川(うらさびしがわ)*西條奈加

  • 2020/11/10(火) 07:31:58


不美人な妾ばかりを囲う六兵衛。その一人、先行きに不安を覚えていたりきは、六兵衛が持ち込んだ張形に、悪戯心から小刀で仏像を彫りだして…(「閨仏」)。飯屋を営む与吾蔵は、根津権現で小さな女の子の唄を耳にする。それは、かつて手酷く捨てた女が口にしていた珍しい唄だった。もしや己の子ではと声をかけるが―(「はじめましょ」)他、全六編。生きる喜びと哀しみが織りなす、渾身の時代小説。


表題作のほか、「閨仏」 「はじめましょ」 「冬虫夏草」 「明けぬ里」 「灰の男」

心川(うらかわ)沿いに詰め込まれるようにできた集落・心町(うらまち)の長屋の住人たちの物語である。長年にわたってたまりにたまった滓のような屈託が、少しずつ吐き出され、それが互いに作用して、さらにまた生み出されるものもある。誰もが何かしら重たいものを抱え、なだめながら日々を暮らしているが、ある日、ふと投げ込まれた小石がさざ波を立てる。理不尽を呑み込み、それでも抗いながら暮らす人々がいとおしい一冊である。

その境界を越えてゆけ

  • 2020/11/08(日) 07:27:35


「物語の力が、私たちを少しだけ前に進ませてくれる」


世界中にはびこるさまざまな境界。たとえばジェンダー、たとえば人種。積もり積もった差別の実態は、一朝一夕に乗り越えられるものではない。境界線のこちらとそちらには、想像を絶する格差があったりするものである。そんな不毛な境界を、物語世界で越えて行こうという試みである。極個人的には、この雑誌的な作りは、何となく集中できない気がして苦手ではあるのだが、内容自体は興味深く読める一冊ではあった。

イマジン?*有川ひろ

  • 2020/11/04(水) 13:36:26


想像力は、あるかい?
憧れの映像制作の現場に飛び込んだ、良井良助(27歳)。
聞き慣れない業界用語が飛び交う現場に戸惑う日々だが、
そこは現実と物語を繋げる、魔法の世界だった。

「必死で知恵絞って想像すんのが俺たちの仕事だ」

やがて良助は、仲間たちが作品に傾ける熱意に、
焦がれるような思いを募らせていく——。

走るしか能のない新米、突っ走る!
行き先は、たぶん未来。


「有川浩」改め「有川ひろ」の、
お仕事小説&ベタ甘ラブコメ。
涙と笑顔と元気が湧いてくる、待望の最新小説!


映画やドラマなど、映像を創る仕事場が舞台である。主人公は、映像制作会社・殿村イマジンの頼まれ助っ人(のちにスタッフ)の良井(いい)良助。彼の成長物語でもある。これまで映像化された作品を思わせるような撮影現場もあり、懐かしさも感じられて、なおさら想像力が広がる。強面の殿村や、先輩たちの、格好つけたり何気なかったりするひとことが、なんとも胸に沁みて、何度うるっとさせられたことか。この現場に限らず、人生なにごとも想像力が大切だなぁ、と改めて実感させられる。文句なく愉しめる一冊だった。

汚れた手をそこで拭かない*芦沢央

  • 2020/11/01(日) 16:17:13


平穏に夏休みを終えたい小学校教諭、認知症の妻を傷つけたくない夫。元不倫相手を見返したい料理研究家…始まりは、ささやかな秘密。気付かぬうちにじわりじわりと「お金」の魔の手はやってきて、見逃したはずの小さな綻びは、彼ら自身を絡め取り、蝕んでいく。取り扱い注意!研ぎ澄まされたミステリ5篇。


「ただ、運が悪かっただけ」 「埋め合わせ」 「忘却」 「お蔵入り」 「ミモザ」

初めはほんの小さな出来心、保身、思いやり、といった小さなほころびだった。それが、もがけばもがくほど広がり、とうとう修復不可能なところまでいってしまう。その家庭の心象風景や、自身で感じられる周囲の景色の変化が恐ろしくて、興味深い。思わず次の展開を待ち望んで引き込まれてしまう。こんなはずじゃなかったが、これはすべて自分の罪なのだろうか、と自問するとき、人は、本性をさらけ出すのかもしれない。他人事ではない恐ろしさをはらんだ一冊だった。