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もしかしてひょっとして*大崎梢

  • 2021/02/27(土) 07:50:03


トラブルやたくらみに巻き込まれて、お人好しが右往左往。誤解も悪意も呑み込んで、奇妙な謎を解き明かせ!にぎやかでアイディアに満ちた、6つの短編ミステリ。大崎梢の傑作集!


「小暑」 「体育館フォーメーション」 「都忘れの理由」 「灰色のエルミー」 「かもしれない」 「山分けの夜」

テイストの違う物語たちだが、どれもにそこはかとない哀しみが紛れ込んでいるような気がして、胸がきゅんと切なくなる。ちょっとした違和感や、気持ちのすれ違い、そんなことは日常に数えきれないほどあるが、解きほぐそうとする思いは熱い。人と人とが関わり合うということの難しさと愛おしさがじんわりと感じられる一冊だった。

スキマワラシ*恩田陸

  • 2021/02/24(水) 18:29:57


白いワンピースに、麦わら帽子。廃ビルに現れる“少女”の都市伝説とは?物に触れると過去が見える、不思議な能力を持つ散多。彼は亡き両親の面影を追って、兄とともに古い「タイル」を探していた。取り壊し予定の建物を訪ねるうち、兄弟はさらなる謎に巻き込まれて―。消えゆく時代と新しい時代のはざまで巻き起こる、懐かしくて新しいエンタテインメント長編。再開発予定の地方都市を舞台にした、ファンタジックミステリー。


両親を事故で亡くした散多は、纐纈(こうけつ)散多(さんた)という自分の名前の由来を訊くこともできず、兄・太郎の名前との格差を不思議に思っていた。そして、以前から、ある種の物に触れたときに、残留思念とでもいうようなものが視えるという特質を持っていた。それは兄もよく理解して受け容れてくれている。ある日、古いタイルに触れて、瓦礫のような景色と若いころの両親のような男女を視てから、両親にも関係のありそうな、阿久津ホテルという取り壊されたホテルのタイルが、別の場所に転用されている事実に至り、古物商の仕事のついでに、そのタイルを探し、それとともに、古い建物が取り壊されるときに現れる、夏服の少女の謎も追うことになる。日常のさまざまなちいさなことにもヒントがあり、あちらとこちらをつなぐピースが埋め込まれている。どんなきっかけで、あちらとこちらがつながるのか、つながるとどうなってしまうのか、ドキドキわくわくが止まらなくなる。462ページというボリュームを感じさせないほど、ページを繰る手が止まらなかった。散多の名前の秘密も判り(鶏と卵のようだが)、怖いことが起こりそうでいて、最後はしあわせな気分に包み込まれるような読後感の、読み応えのある一冊だった。

フシギ*真梨幸子

  • 2021/02/21(日) 18:31:48


作家の私のもとに、死んだはずの担当編集者から不思議なメールが届いた。
意識不明の時に三人の女が“お迎え”に来たというもので、一人目と二人目は亡くなった親族、三人目は誰だか分からないという。
その後、「とんでもない正体が分かった」「三人目の女が、先生のところに現れませんように」という言葉を残して連絡は途切れ……。
三人目の女とは誰なのか? 連続する不審死は、その女が関わっているのか?
とてつもない絶望と衝撃に襲われるラストまでページを捲る手が止まらない、精緻にして大胆な長編ミステリ!


タイトル通り不思議な物語である。時間も空間も何重にも入れ子になっていて、いまここに立っていたと思ったら、いつの間にかまったく別の人物になって、まったく別の時空にいることに気づくような、狐に化かされたような心地に何度もさせられる。不思議極まりない出来事が、この入れ子構造に閉じ込められることによって、さらに不思議さが倍加され、眩暈がしてきそうになる。怖さと不思議さに惑わされながら一気に読み終えた一冊である。

ショートショートドロップス*新井素子編

  • 2021/02/20(土) 16:42:06


女性作家による珠玉のSSアンソロジー!
ほら、不思議な味がするでしょう?
新井素子が編む、短くて、ずっと心に残る15の物語
【収録作家および作品】(五十音順)
新井素子「のっく」  上田早夕里「石繭」  恩田陸「冷凍みかん」  図子慧「ダウンサイジング」  高野史緒「舟歌」  辻村深月「さくら日和」  新津きよみ「タクシーの中で」  萩尾望都「子供の時間」  堀真潮「トレインゲーム」  松崎有理「超耐水性日焼け止め開発の顛末」  三浦しをん「冬の一等星」  皆川博子「断章」  宮部みゆき「チヨ子」  村田沙耶香「余命」  矢崎存美「初恋」


編者も初めに言い訳しているが、ショートショート言うにはいささか長いものもある。だが、充分に愉しめるので吉、である。どれもが、短い時間で、いろんなテイストのワクワクドキドキを体験できるのは、まさに缶入りドロップを振って、次にどんな味のドロップが出てくるかを楽しみにするような気持を味わえる。味わっては満足し、また次が欲しくなる。病みつきになる一冊だった。

月下美人を待つ庭で 猫丸先輩の妄言*倉知淳

  • 2021/02/19(金) 07:15:17


猫丸という風変わりな名前の“先輩”は、妙な愛嬌と人柄のよさで、愉快なことには猫のごとき目聡さで首をつっこむ。そして、どうにも理屈の通らない出来事も彼にかかれば、ああだこうだと話すうちにあっという間に解き明かされていくから不思議だ。悪気なさそうな侵入者たちをめぐる推理が温かな読後感を残す表題作や、電光看板に貼りつけられた不規則な文字列が謎を呼ぶ「ねこちゃんパズル」など、五つの短編を収める。日常に潜む不可思議な謎を、軽妙な会話と推理で解き明かす連作短編集。


表題作のほか、「ねこちゃんパズル」 「恐怖の一枚」 「ついているきみへ」 「海の勇者」

偶然居合わせたり、通りかかったりして小耳にはさんだちょっとした謎を、猫丸先輩が豊かな洞察力と推理力、想像力をフル回転させて解き明かすという趣向である。とはいえ、サブタイトルにもあるように、すべては猫丸先輩の妄言であり、実際にどうなのかはほぼ謎のままなのだが、なぜか妙に納得させられてしまう。それにしても、猫丸先輩は相変わらず経験値が高いのか低いのかよくわからない。そこが魅力でもあるのが、近しい人たちの振り回され感はいや増している気がする。早く次が読みたいシリーズである。

ビブリア古書堂の事件手帖~扉子と空白の時~*三上延

  • 2021/02/17(水) 18:36:06


ビブリア古書堂に舞い込んだ新たな相談事。それは、この世に存在していないはずの本―横溝正史の幻の作品が何者かに盗まれたという奇妙なものだった。どこか様子がおかしい女店主と訪れたのは、元華族に連なる旧家の邸宅。老いた女主の死をきっかけに忽然と消えた古書。その謎に迫るうち、半世紀以上絡み合う一家の因縁が浮かび上がる。深まる疑念と迷宮入りする事件。ほどけなかった糸は、長い時を超え、やがて事の真相を紡ぎ始める―。


栞子と大輔の娘・扉子が祖母の智恵子に呼び出され、馴染みのカフェで頼まれて持ってきた本を読んでいるという設定。物語はほとんどその本の内容である、栞子と大輔が、消えた横溝正史作品を探し出すという依頼を解く物語、という入れ子構造の趣向である。サブタイトルに扉子が出ているのは、智恵子によって本好きの闇の世界に引きずり込まれそうな予感が色濃く漂っているからだろう。栞子と大輔の心配の種は尽きないのである。肝心の事件は、横溝の世界さながらに、親族の骨肉の争いやら、双子の入れ替わりやら、怪しげな気配に満ち満ちているのだが、九年越しで解いた謎の先に(というか大元に)いたのは智恵子だったという、歯噛みしたくなるような結末ではある。栞子・智恵子母子の確執極まれり、という感じである。今後は扉子も否応なく巻き込まれていくのだろう。次も愉しみなシリーズである。

境界線*中山七里

  • 2021/02/16(火) 09:38:27


2018年刊行の『護られなかった者たちへ』と同じく宮城県警捜査一課を舞台に、東日本大震災による行方不明者と個人情報ビジネスという復興の闇を照らし出していく。震災によって引かれてしまった“境界線”に翻弄される人々の行く末は、果たして。「どんでん返しの帝王」・中山七里が挑む、慟哭必至の骨太の社会派ヒューマンミステリー小説。


その場にいなかった者には、到底計り知れないダメージが、それを経験した人たちそれぞれに深く重く刻みつけられていることは想像できる。逆に言うと、想像することしかできない。だからこそ、本作で描かれている事々を、平時の常識に当てはめて考えることは難しい気がする。より深く昏い闇が、追われる者の心にも追う者の心にも沈んでいるのだろうと思われる。だからといって、犯罪を犯していいという理屈にはならないが、切なくやりきれない思いが拭いきれないのも確かである。永遠にすっきりすることはない気持ちなのだとは思う。それでも生きることの苦悩がにじみ出る一冊だった。

セカンドライフ*新津きよみ

  • 2021/02/13(土) 16:49:49


二十三年前に殺された父。母が殺人依頼したのかも…(「見知らぬ乗客」)。熟年離婚で手に入れたこの自由は手放したくない(「セカンドライフ」)。老後と呼ぶには若すぎる、寿命が延びた現代社会において第二の人生をどう生きるかは男も女も切実だ。そんなとき邪魔になるのは長年連れ添ったあの人―。定年世代の来し方行く末を七つの人生の情景で綴る、毒あり華あり上質のミステリー短篇集。


表題作のほか、「見知らぬ乗客」 「演じる人」 「誤算」 「三十一文字(みそひともじ)」 「雲の上の人」 「定年つながり」

人生百年時代、定年後のまだまだ長い人生をどのように過ごすか、それはひと昔前よりも切実な問題なのかもしれない。その時に、どんな行動を起こすのか。違う場所、違う立場の人たちの第二の人生をのぞき見するような物語と言えるのかもしれない。ブラックなテイストのものが多い気がするのは、夫と妻の思いの差、とも言えるのかもしれない。粒よりの一冊である。

玩具修理者*小林泰三

  • 2021/02/11(木) 07:18:02


その人は、何でも治してくれる。壊れた人形、死んだ猫、そしてあなただって。生と死を操る奇妙な修理者が誘う幻想の世界を描き、日本ホラー小説大賞選考委員会で絶賛を浴びた表題作ほか、書き下ろし1編を加えた作品集。


表題作のほか、「酔歩する男」

圧倒的に「酔歩する男」の分量が多いが、表題作のインパクトもとても強い。実際に目にしたら気を失いそうな事々が、淡々と平板なリズムで描かれているので、なおさら怖さが背筋を這い上がってくる心地がする。そして、次の物語は、施行を整理しようとすればするほど、混迷の螺旋階段を上へ下へと翻弄されるような、立っている場所が瞬時に消えてなくなるような気がして、眩暈がしそうである。考えるな、感じろ、ということだろう。まったく違うテイストが愉しめる(?)一冊である。

十の輪をくぐる*辻堂ゆめ

  • 2021/02/10(水) 09:50:08


スミダスポーツで働く泰介は、認知症を患う80歳の母・万津子を自宅で介護しながら、妻と、バレーボール部でエースとして活躍する高校2年生の娘とともに暮らしている。あるとき、万津子がテレビのオリンピック特集を見て「私は…東洋の魔女」「泰介には、秘密」と呟いた。泰介は、九州から東京へ出てきた母の過去を何も知らないことに気づく―。


東京で開催される二つのオリンピックを絡めた人間物語だと思った。一度目のオリンピックの時代、働いていた繊維工場でバレーボールをしていた晴れやかな記憶と育てにくい息子を抱えて苦労した記憶が、年月を経て認知症を発症した現在、二度目のオリンピックを前にして断片的によみがえり、万津子の心はふたつの時代を行き来している。息子の泰介は、母の特訓によりバレーボールにのめり込み、大学で同じクラブの由佳子と出会って結婚し、娘の萌子は、高校バレーで活躍し、オリンピック代表に選ばれることも夢ではない。オリンピックが重要なカギであることは間違いないが、佐藤家という家族、そのひとりひとりがどう生きるかを問いかける物語でもあるように思う。人間ってそんなに簡単に変われないよな、と思うところもあるが、全体的には充実したストーリーだった。自分の居場所を認められることの大切さを思わされる一冊でもあった。

銀齢探偵社 静かおばあちゃんと要介護探偵2*中山七里

  • 2021/02/07(日) 16:44:35


元裁判官で80歳を超えた今も信望が厚い高遠寺静と、中部経済界の重鎮にして車椅子の〝暴走老人〟香月玄太郎の老老コンビが難事件を解決する、人気シリーズ第2弾。
今回は舞台を東京に移し、玄太郎ががんを患った状況下で5つの事件に挑む!
静のかつての同僚たちが、次々と謎の死を遂げた。事件の背後の「悪意」の正体とは?


なんだかんだ言って、名コンビである。静の人徳はもちろんのこと、暴走老人・玄太郎も、根っこのところにあるのは誠実なのが折々に見て取れるので、ため息をつきながらも、安心して(というのは言い過ぎかもしれないが)任せられるところが大きい。それにしても、退官してずいぶん時が経つのに、これほど恨み続けられるとは、判事という仕事の大変さを思い知らされる気がする。孫の円も登場して、『静かおばあちゃんにおまかせ』へと続く布石にもなっている。ラストの一行からすると、もう続編はないのだろうか。もっと二人の活躍を観たいシリーズである。

濱地健三郎の幽れたる事件簿*有栖川有栖

  • 2021/02/06(土) 07:36:14


年齢不詳の探偵・濱地健三郎には、鋭い推理力だけでなく、幽霊を視る能力がある。新宿にある彼の事務所には、奇妙な現象に悩む依頼人のみならず、警視庁捜査一課の強面刑事も秘かに足を運ぶほどだ。助手の志摩ユリエは、得技を活かして、探偵が視たモノの特徴を絵に描きとめていく―。郊外で猫と2人暮らしをしていた姉の失踪の謎と、弟が見た奇妙な光景が意外な形でつながる(「姉は何処」)。資産家が溺死した事件の犯人は、若き妻か、懐具合が悪い弟か?人間の哀しい性が炙り出される(「浴槽の花婿」)など、驚きと謀みに満ちた7篇を収録。ミステリの名手が、満を持して生み出した名探偵。待望のシリーズ、第2弾!


霊的なものが視える心霊探偵・濱地健三郎と、助手の志摩ユリエが活躍するシリーズ第二弾である。年齢不詳の濱地の魅力は前作と変わらないが、ユリエの助手としての有能さは増している印象である。事件解決の助けとなっていることが多い。クライアントの現れ方からして、人知を超えた何かしらの力が働いているようにも思え、依頼を引き受ける必然性が感じられたりもするのである。依頼を受けた段階で、濱地には進むべき道が見えているようにも思われ、それを検証するのがストーリーの主な流れであることも多い。今回は、タイムリミットのある難しい案件もあったが、濱地ユリエコンビに加えて、ユリエの恋人叡二の存在も助けになった。次の活躍もぜひ見たいシリーズである。

新宿なぞとき不動産*内山純

  • 2021/02/04(木) 16:28:24


新宿の不動産会社で働く、知識はあるが駆け引きが苦手な賃貸営業マン・澤村聡志。ある日、優秀な後輩・神崎くららがパートナーになって以来、先輩使いが荒い彼女に振り回される毎日に。さらに担当する物件にはおかしな謎がつきまとって…新宿に住む人々の謎を二人の知識とひらめきで解決する、心あたたまる不動産ミステリ。


いささか駆け引きが苦手で真正直な不動産会社の先輩男性社員・澤村と、容姿端麗でパワフルな後輩女性社員・神崎という、絵にかいたような凸凹コンビに、ありがちだと思いつつも好感が持てる。澤村は、顧客に名前も覚えてもらえないような印象の薄さだが、気になるところは手を抜かずにきっちり調べ上げ、納得の上で動くのが、すぐに成果が目に見えなくても、いい仕事をしている。一方神崎は、直観力も洞察力も優れ、人たらし的魅力も駆け引き力も持ち合わせているので、あっという間に成果を出すのが頼もしい。澤村はどう思っているかなぞではあるが、これ以上ないコンビネーションではないだろうか。謎解きも、この二人だったからこそできたような気がする。人はうわべだけでは判らない、と改めて思わされる一冊でもあった。もっと続きが読みたい。

あきない世傳金と銀 九 淵泉篇*高田郁

  • 2021/02/02(火) 07:11:55


大坂から江戸に出店して四年目、まさにこれから、という矢先、呉服太物商の五鈴屋は、店主幸の妹、結により厳しい事態に追い込まれる。形彫師の機転によりその危機を脱したかと思いきや、今度は商いの存亡にかかわる最大の困難が待ち受けていた。だが、五鈴屋の主従は絶望の淵に突き落とされながらも、こんこんと湧き上がる泉のように知恵を絞り、新たなる夢を育んでいく。商道を究めることを縦糸に、折々の人間模様を緯糸に、織りなされていく江戸時代中期の商家の物語。話題沸騰の大人気シリーズ第九弾!!


どうしてこうも苦難に見舞われなくてはならないのだろう。五鈴屋は、今回もさまざまな苦境に立たされることになる。その最たるものは、幸の妹・結の行いであることは間違いないだろう。これでもかというほど、五鈴屋を追い詰めていくが、どこかで何か胸の内に秘めた企てがあるのではないかと、希望を探してしまうのも確かである。そうであってくれたらどれほどいいだろうか。とはいえ、幸も手をこまねいているだけではない。新しい商いのアイデアが形になりつつあり、明るい光も見えている。どうぞこのままうまくいきますように、と強く祈りたくなる一冊であり、さらに次が愉しみなシリーズである。