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甦る殺人者 天久鷹央の事件カルテ*知念実希人

  • 2021/07/31(土) 07:32:25


殺人鬼は、何者なのか。戦慄の医療ミステリー! 都内近郊で若い女性が次々と首を絞められ、惨殺された。警察は現場に残された血痕のDNA鑑定を行い、容疑者を割り出すが、それは四年前に死んだ男だった……。止まない殺人劇。メディアに送りつけられる犯行声明文。これは死者の復活か。あるいは、真犯人のトリックか。天医会総合病院の天才女医・天久鷹央は事件の裏に潜む“病”を解き明かし、シリアルキラーに“診断”を下す。


今回は、いままさに続いている連続殺人事件の謎解きで、しかも、鷹央が死亡診断をした男のDNAが現場に残されていたことで、自分の診断ミスが生んだ事件なのでは、という責任感もあり、鷹央ののめり込み方も普段に増して激しかった印象である。さらに言えば、普通に考えを巡らせていては永遠に真実にはたどり着けない設定でもあるので、焦燥感はさらに増す。ただ、途中からは、理由はともかく、何となくの印象で怪しい人物が浮かび上がってくるので、そこからは、理由を知りたい欲求がむくむくと頭をもたげてくる。そう頻繁にはない事案だとは思うが、最後はさすがお見事、という展開である。小鳥先生とのコンビもさらに絶妙になり、次が愉しみなシリーズである。

カケラ*湊かなえ

  • 2021/07/29(木) 16:24:41


美容クリニックに勤める医師の橘久乃は、久しぶりに訪ねてきた幼なじみから「やせたい」という相談を受ける。カウンセリングをしていると、小学校時代の同級生・横網八重子の思い出話になった。幼なじみいわく、八重子には娘がいて、その娘は、高校二年から徐々に学校に行かなくなり、卒業後、ドーナツがばらまかれた部屋で亡くなっているのが見つかったという。母が揚げるドーナツが大好物で、それが激太りの原因とも言われていた。もともと明るく運動神経もよかったというその少女は、なぜ死を選んだのか――?
「美容整形」をテーマに、外見にまつわる固定観念や、人の幸せのありかを見つめる、心理ミステリ長編。


美容整形外科医の橘久乃のクリニックを訪れ、痩せたいと訴えるかつての同級生から話を聴くうちに、太っていたほかの同級生のことに話が及び、その娘の自殺のことにも触れられる。その真実を知るため、久乃は関係者に話を聴くのだが、ひとつの章が、ひとりの語りになっていて、少しずつ積み重なって次第に真実があぶり出されるのかと期待が膨らむ。美容整形の場が舞台になっていて、美しさの基準や価値について考えさせられる物語ではあるのだが、謎解きの本筋はそこではない気がする。愛情とか、信頼とか、承認欲求とか、無条件に安心していられる場所への希求とか。それらを失ったとわかった時に、人は想像以上に脆くなるのではないだろうか。提示されたものと結末の落としどころに、多少の違和感を覚えた一冊でもあった。

ドキュメント*湊かなえ

  • 2021/07/27(火) 18:45:51


湊かなえ最新刊! 興奮と感動の高校部活小説!

人と人。対面でのコミュニケーションがむずかしくなった今だからこそ、
「”伝える”って何だ?」ということを、青海学院放送部のみんなと、真剣に考えてみました。 ――湊かなえ

中学時代に陸上で全国大会を目指していた町田圭祐は、交通事故に遭い高校では放送部に入ることに。圭祐を誘った正也、久米さんたちと放送コンテストのラジオドラマ部門で全国大会準決勝まで進むも、惜しくも決勝には行けなかった。三年生引退後、圭祐らは新たにテレビドキュメント部門の題材としてドローンを駆使して陸上部を撮影していく。やがて映像の中に、煙草を持って陸上部の部室から出てくる同級生の良太の姿が発見された。圭祐が真実を探っていくと、計画を企てた意外な人物が明らかになって……。


著者のイヤミスを期待して読むと、肩透かし気分になるかもしれない。まったく趣の違う物語である。舞台は高校の部活、しかも放送部である。「伝える」ということに焦点を当てて、部員たちそれぞれの、これまでの人生や、取材対象の人間関係まで絡めて、何を伝えたいか、どう伝えたいか、さらには、伝わらないもどかしさと、俯瞰して眺めること、その先を見据える大切さなどを、成功体験や失敗体験を通して、ひとつずつ納得し、成長していく過程が描かれている。自分のふがいなさに地団太を踏みたくなる姿は、胸に迫ってきて、何とかしてやりたくなるし、先輩たちの考え方の大きさには拍手を送りたくなる。部員たちそれぞれに寄り添って、一度にいくつもの人生を生きた心地にもなれる一冊と言えるかもしれない。

オムニバス*誉田哲也

  • 2021/07/25(日) 07:09:46


警視庁刑事部捜査一課殺人班捜査第十一係姫川班の刑事たち、総登場! 捜査は続く。人の悪意はなくらない。激務の中、事件に挑む玲子の集中力と行動が、被疑者を特定し、読む者の感動を呼ぶ。刑事たちの個性豊かな横顔も楽しい、超人気シリーズ最第10弾!


「それが嫌なら無人島」 「六法全書」 「正しいストーカー殺人」 「赤い靴」 「青い腕」 「根腐れ」 「それって読唇術?」

姫川シリーズ、もう10作目になるのかと感慨深い。他者の目から見た姫川玲子、という視点でも興味深い。ただ、期せずして今回も竹内結子さんのイメージに引きずられて読むことになり、作品とは関係ない別の感慨もある。短編なので、ストーリーひとつひとつは軽めの仕上がりだが、今後につながりそうな要素もあり、期待が膨らむ。今回、姫川との心の距離を縮めた登場人物もいたが、なんにせよ、そこに至るまでに時間がかかりすぎるのである。姫川の壁恐るべし。本人にあまり自覚がないのも一因かもしれないが、それで不自由を感じないのも姫川玲子であろう。次回作が愉しみなシリーズである。

死神さん*大倉崇裕

  • 2021/07/23(金) 07:24:39


無罪判決が出た事件を再び調べるのが職務の警部補、儀藤堅忍。警察の失態をほじくり返す行為ゆえ、指名された相棒刑事の出世の道を閉ざす「死神」と呼ばれている。だが"逃げ得"は許さないと誓う儀藤の執念と型破りな捜査に相棒は徐々に心動かされ……。冤罪だった強盗殺人やひき逃げ、痴漢事件の真相は? 現代の暗部を抉るバディ・ミステリー。


名前とは裏腹に冴えない小太りの中年男である儀藤は、独自に無罪判決が出た事件の再捜査をする、どこにも所属しない警察官である。捜査の相棒に指名されたら、問答無用で従わなければならない成り行きになる。相棒のことは相当詳しく調べ上げているにもかかわらず、無罪判決が出ると間を置かずに現れるのが不思議でもある。それがまた適切過ぎる人選なので、舌を巻く。捜査手法も、決して強引ではないのに、どういうわけか大切な供述を引き出してしまう魔力(?)のようなものがあり、事件そのものへの興味はもちろん、儀藤本人への興味が尽きないのだが、その辺りが謎に包まれているのも惹き込まれる要因のひとつかもしれない。儀藤の活躍をもっと見たくなる一冊である。

上流階級 冨久丸百貨店外商部 其の三*高殿円

  • 2021/07/21(水) 07:28:58


ドラマ化大ヒット作、待望の書き下ろし続編

神戸の老舗、富久丸百貨店芦屋川店で敏腕外商員として働く鮫島静緒。日本一の高級住宅地のセレブ相手に、きょうも奔走する。
美容整形に興味があり静緒に試させる女性投資家、息子の中学受験に静緒を巻き込む元CAセレブ主婦。「強い」宝石を集めるイラストレーターの訴訟事件……。そして、プライベートも落ち着かない日々の静緒にヘッドハンティングの話が。同居するゲイの同僚・桝家修平の反応は?

ドラマ化もされた話題作の続編を、「トッカン」「シャーリーホームズ」シリーズ、『政略結婚』など大ヒット作連発の著者が書き下ろしたハイクラスエンタメ!

解説は、読書家で書評エッセイの連載や、新聞の書評委員もつとめる、女優の南沢奈央!


相変わらず日々大忙しの静緒である。(どうしても頭のなかは竹内結子さんに変換されるので、複雑な思いにはなるが)物語のなかでは、一日24時間では足りなそうなほどパワフルである。外商部のお得意様に、ここまで深く寄り添う必要があるのか、とも思うが、だからこそ、新しい企画も生まれてくるのだろう。プライベートでも揺れ動く年代であり、親のこと、自身の行く末、立場、などなど、惑うことばかりなのが悩ましい。そして、それを隠さないのも静緒に人間味を感じ、親しみを感じる所以だろう。桝家との関係も、名前がないだけで、極めて良好で、出会ったころとは全く違って、ベストな状態に見える。これからどんな風に走り続けるのか、まだまだ見守りたいシリーズである。

ヒポクラテスの悔恨*中山七里

  • 2021/07/19(月) 13:45:56


これから一人だけ誰かを殺す。
自然死にしか見えないかたちで――。
斯界の権威・光崎に宛てた犯行予告。
悪意に潜む因縁とは!?

斯界の権威・浦和医大法医学教室の光崎藤次郎教授がテレビ番組に出演した。日本の司法解剖の問題点を厳しく指摘し、「世の中の問題の九割はカネで解決できる」と言い放つ。翌朝、放送局のホームページに『親愛なる光崎教授殿』で始まる奇妙な書き込みが。それは、自然死に見せかけた殺人の犯行予告だった。
早速、埼玉県警捜査一課の古手川刑事とともに管内の異状死体を調べることになった助教の栂野真琴は、メスを握る光崎がこれまでにない言動を見せたことに驚く。光崎は犯人を知っているのか!?やがて浮かび上がる哀しき〝過ち〟とは……?
死者の声なき声を聞く法医学ミステリー「ヒポクラテス」シリーズ慟哭の第四弾!


第四弾は、老人・異邦人・息子・妊婦・子供のご遺体の声を聴く物語である。そこに、光崎教授の過去にかかわりのありそうな脅迫文書が絡み、話をややこしくしているが、これらの事件のどれもが、もし脅迫文書がなければただの事故として片付けられていたのでは?と思えてしまうのが恐ろしくもある。筋書きは、死亡事件発生→遺族が解剖を拒否→何とか説得→光崎の見事な手腕で真相を暴く、という水戸黄門ばりの定型と言ってもいい印象ではあるが、それはそれでありだと思う。ただ、光崎に関わる要素が強いにもかかわらず、当の光崎が、あまりに淡々と描かれていて、その心の奥底を覗くことができなかったのが残念な気もしてしまう。ちらっと人間味を見せてほしかったかも。とは言え、今回もお見事でした、というシリーズである。

天久鷹央の事件カルテ スフィアの死天使*知念実希人

  • 2021/07/16(金) 18:52:35


外科医を辞め、内科医としての修業を積むべく、天医会総合病院の門を叩いた小鳥遊優は、そこで運命的な出会いを果たす。天久鷹央。空気を読めず、人とのコミュニケーションに難がある彼女は、しかし日本最高峰の頭脳を持つ天才女医だった―。宇宙人による洗脳を訴える患者。謎の宗教団体。そして、院内での殺人。鷹央と小鳥、二人の出会いを描いた長編メディカル・ミステリー。


鷹央&小鳥コンビ結成の経緯を解き明かす物語である。ほぼわかっていたとはいえ、いろいろ腑に落ちるところも多く、さらに二人の結びつきの強さが理解できた気がする。今回のストーリーの鍵は「宇宙人」怪しげな新興宗教の欺瞞を暴くことで決着するかと思いきや……。それだけで終わらないのがミソである。実は怪しげな新興宗教のトリップなど序の口の、身の毛もよだつ恐ろしさを見せつけられることになる。小鳥遊は一生鷹央先生から離れられないだろうな、と実感させられる一冊でもあった。

スープ屋しずくの謎解き朝ごはん まだ見ぬ場所のブイヤベース*友井羊

  • 2021/07/14(水) 18:27:35


累計33万部突破の人気シリーズ第4弾!
早朝にひっそりと営業しているスープ屋「しずく」には、今日もさまざまな悩みや謎が舞い込んでくる。
店主の娘・露の同級生が金縛りに遭い、さらには母親に幽霊が憑いている!?「おばけがきえたあとにおやすみ」。
カルガモのジビエをなぜか食べられない「野鳥の記憶は水の底に」。
亡くなった大叔父が隠したらしいお宝を探す「大叔父の宝探し」。
調理実習中に起きたスープ事件「まじわれば赤くなる」。
理恵に転職の話が舞い込む!? 「私の選ぶ白い道」など、全5話。


今回は、麻野の娘・露ちゃんがらみの物語もあって、露ちゃんの存在感もさらに増していてうれしい。いずれ父と協力して謎を解いたりしたらうれしいな、なんて妄想してみる。そして理恵は、自らのこれからを考える事態に直面し、しずくに足を運ぶ頻度もおのずと増している。周りのやきもきする気持ちをよそに、なかなか進展しない麻野と理恵の関係も、相変わらず亀の歩みではあるものの、確実に進んでいるように思えて、次はきっともう少し進展するだろうと期待させられる。次も愉しみなシリーズである。

流れ星と遊んだころ*連城三紀彦

  • 2021/07/12(月) 16:10:57


傲岸不遜な大スター「花ジン」こと花村陣四郎のパワハラに苦しむマネージャーの北上梁一は、ある夜、一組の男女と出会う。
秋場という男の放つ危険な魅力に惚れこんだ梁一は、彼をスターにすることを決意。
その恋人である鈴子も巻きこみ、花ジンから大作映画の主役を奪い取ろうと画策する。
芸能界の裏側を搔い潜りながら着実に階段を上る三人だが、やがてそれぞれの思惑と愛憎が絡みあい、事態は思わぬ展開をみせる――。

虚々実々の駆け引きと二重三重の嘘、二転三転のどんでん返しが、
めくるめく騙しの迷宮に読者を誘う技巧派ミステリの傑作。

「このミステリーがすごい! 2004年版」第9位。
「おすすめ文庫王国2015」第1位。


一人称がさらりと入れ替わり、時間軸が前触れもなく移動し、知らず知らずのうちに、頭も心も遠い所へと連れ去られていたような印象の物語である。一体誰が騙し、誰が騙されたふりをし、騙されたふりを信じたふりをしているのか。誰もがみな騙し、騙され、騙されたふりをし、騙す演技をしているようである。それなのに、読んでいる間中、深いところでは完全に理解している気持ちになっている。終始騙され続けているのに、いたって心地好い一冊とも言える。

終活の準備はお済みですか?*桂望実

  • 2021/07/08(木) 18:28:12


後悔せずに死ねますか? 終活サロン――そこは、人生最後の駆け込み寺。

『県庁の星』の著者が贈る、超高齢化時代に必読の¨エンディング¨小説!

◆終わりに直面した人々の、それぞれの「終活」

1.鷹野亮子 五十五歳……独身・子無し・仕事一筋で生きてきたキャリアウーマンの「終活」
2.森本喜三夫 六十八歳……憧れの長兄が認知症になった後期高齢者三兄弟の三男の「終活」
3.神田 美紀 三十二歳……仕事と育児に母親の介護が重なり絶望するシングルマザーの「終活」
4.原優吾 三十三歳……突然のガン宣告で人生が一変した若き天才シェフの「終活」
5.三崎清 五十三歳……七十歳で貯金ゼロの未来予想図を突き付けられた終活相談員の「終活」


終活と聞くと、とかく後ろ向きなイメージであるが、これは、これまでの人生を振り返りつつ、その時点から最期までの自分の人生設計を見つめ直し、充実した日々を過ごせるようにするという前向きな物語なのである。残りの人生をどう生き切るか、残される人に何を伝えるか、過去の、未来の、そして何より現在の自分と真剣に向き合わなければできないことだというのが、しみじみと伝わってくる。どこから手をつけたらいいかわからない時に、満風ノートのようなものがあると、指針になっていいな、と思う。いろいろ考えさせられる一冊だった。

スープ屋しずくの謎解き朝ごはん 想いを伝えるシチュー*友井羊

  • 2021/07/07(水) 07:31:42


シェフ・麻野の日替わりスープが評判のスープ屋「しずく」は、早朝にひっそり営業している。調理器具の購入のため麻野と出掛けた理恵は、店の常連カップルと遭遇。結婚式を控え、仲睦まじく見えた二人だが、突如彼氏が式を延期したいと願い出る。その原因は、ゴボウ?亡き妻・静句を思う麻野への、理恵の恋も動き出す!?美味しいスープと謎に溢れた全5話収録。心温まる連作ミステリー。


今回は、シチューのように、じんわりとお腹の底からあたたかくなっていくようなテイストの物語が多かった。なかなか縮まらない麻野と理恵の距離も、ほんのちょっぴりではあるが、縮まったかな、という感もあるが、麻野の亡くなった妻・静句の存在感が増したこともあり、焦りすぎなくてもいいのかもしれないと思えるようにもなった。人は、何か自分の手に負えないことに直面し、どうしたらいいか判らなくなった時でも、一杯の心のこもったスープを食べられれば大丈夫なのかもしれないと、あたたかい気持ちにさせられる。スープ屋しずくに何度も足を運びたくなってしまう気持ちがよくわかる。次も愉しみなシリーズである。

傷痕のメッセージ*知念実希人

  • 2021/07/04(日) 16:20:16


息をのむ展開と瞠目のラスト! 医療×警察ミステリの新地平!!

「死んだらすぐに遺体を解剖して欲しい――」医師の千早が父の遺言に従い遺体を解剖すると胃の内壁に暗号が見つかった。28年前、連続殺人事件の犯人を追うため父が警察をやめたことを知った千早は、病理医の友人・紫織と協力して、胃に刻まれた暗号を読み解こうとする。時を同じくして28年前の事件と酷似した殺人事件が発生。現在と過去で絡み合う謎を、千早と紫織の医師コンビが解き明かす!


胃壁に暗号とは、凡人には思いつくことのできない設定である。遺族が断固として解剖を拒んだら、物語はまったく成立しなくなってしまうが、そこは小説なので、病理解剖医の熱意と、遺族としての真実を知りたい欲求で乗り切ったわけである。医大時代の同級生で現在の指導医である紫織への屈折した思いがあった千早だったが、亡き父の心の声を必死に聞き出そうとする紫織の姿を見、また、28年前の事件と絡めて、自分たちに寄り添って捜査をしている桜井刑事との連携もあり、最後にはベストバディといった感じになっている。あまりにも重い題材だったが、千早と紫織のキャラと、桜井刑事の独特の捜査のせいか、重たくなり過ぎることなく、前向きな気分になれる一冊でもあった気がする。

白バイガール フルスロットル*佐藤青南

  • 2021/07/02(金) 07:44:29


神奈川県の白バイ隊員、本田木乃美は、全国の精鋭が集まる白バイ競技会への出場が決定。練習に励むうち、優勝候補と目された他県の女性白バイ隊員たちが続けざまに事故に遭遇し負傷。横浜市内では銃撃事件も発生、緊張が走るなか本番が近づいて――木乃美は憧れの箱根駅伝先導の座をつかめるか?

疾風怒濤の人気青春ミステリーシリーズ完結編!


完結編なんだー、と残念な気持ちが先に立つ。もっとカッコいい彼女たちを見ていたかった。物語自体は今回もかなりハードである。なにしろ、各県の優秀な白バイ隊員が狙われるという由々しき事態なのである。それと並行して、川崎潤の目線で反社会的勢力と韓国マフィアの対決、に巻き込まれていく一人の男性の事情が描かれる。そしてそれがなんと――、という切なく重いストーリーなのだ。出来事の重さと、木乃美の天然さ、白バイ隊員の女性たちの結束力、さらには、木乃美の上司や同僚たちの連携にうっとりさせられる。本当に終わってしまうのが残念でならないシリーズである。