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すべて神様の十月 2*小路幸也
- 2021/11/28(日) 13:22:54
シリーズ累計10万部突破!
死神、九十九神、福の神……
現代社会に溶け込むように存在している八百万の神々と、人間達とのちょっと不思議なふれあいを描いた、切なくも心温まる連作短篇シリーズ第二弾。
【内容例】
●ある消防士が出動すると、勝手に火が消えてしまう。その意外な理由とは?(「天狗さまのもとに」)
●銃で撃たれた女子高生が、死の淵で恋をした男の正体は……(「死神に恋」)
●夢遊病に悩む漫画家は、コインランドリーで美しい女性と出会うが(「眠れぬ夜の神様」)。
――など、全10篇を収録。
文庫オリジナル。
戌の日に
お稲荷さんをよろしく
天狗さまのもとに
死神に恋
眠れぬ夜の神様
笑う門には福来る
落とした物を探しています
引きこもりにおじさん
子供は風の子
七回目の神様
ちょっとだけ不思議なものが視える資質を備えもった主人公が、何気ない日々のなかで、ちょっとだけ不思議な出来事と人に出会う。そして、そのことをごく自然に受け入れて、その先も生きていく物語である。これほどあからさまに、存在として目に見える形でなくとも、生きていると、何か見えない力に守られているような気がすることは、存外あるように思う。それを意識するか、無意識のうちに何となくやり過ごしてしまうかというだけで、誰もが何者かにたぶん守られているのだろう。そんな思いを強くしてくれ、ほんの少し心強くさせてくれる一冊である。
月下のサクラ*柚木裕子
- 2021/11/22(月) 13:30:05
私は前に、前に進む――。
組織に巣くう不条理な倫理。
刑事・森口泉が闇に挑む。
事件現場で収集した情報を解析・プロファイリングをし、解決へと導く機動分析係。
森口泉は機動分析係を志望していたものの、実技試験に失敗。しかし、係長・黒瀬の強い推薦により、無事配属されることになった。鍛えて取得した優れた記憶力を買われたものだったが、特別扱い「スペカン」だとメンバーからは揶揄されてしまう。
自分の能力を最大限に発揮し、事件を解決に導く――。
泉は早速当て逃げ事件の捜査を始める。そんな折、会計課の金庫から約一億円が盗まれていることが発覚した。メンバー総出で捜査を開始するが、犯行は内部の者である線が濃厚で、やがて殺人事件へと発展してしまう……。
一広報課員だった森口泉が、刑事になってからの物語である。機動分析係に配属された途端のとんでもない事件に、身体を張り、命がけで臨む泉に、初めは冷ややかだった課員たちも、徐々に心を開き、信頼されるまでになる様子も見て取れて、泉をますます応援したくなる。一本筋が通った覚悟が、何事にも負けない力になるのだろう。「機動」と名のつく通り、初動捜査のすぴーと感には目を瞠るものがあり、それ故に見逃さなかった手掛かりも多々ある。第三弾にも期待したいシリーズである。
たまごの旅人*近藤史恵
- 2021/11/21(日) 16:16:33
地球の裏側で遭遇する“日常の謎"
未知の世界へ一歩踏み出す勇気がわいてくる物語
念願かなって、海外旅行の添乗員になった遥。
アイスランドを皮切りに、スロベニア、パリ、西安で、
ツアー参加客それぞれの特別な瞬間に寄り添い、ときに悩みながらも旅を続ける。
ところが2020年、予想外の事態が訪れて――
海外旅行の添乗員さんの見えないご苦労が偲ばれるお仕事物語としても読めるし、旅行参加者たちそれぞれが抱える問題に、ほんのひととき寄り添い、人生の一ページに、ほんのわずか関わる人間ドラマとしても読め、そしてなにより、遥自身の成長物語でもあって、いろんな楽しみ方ができる。登場人物たちが、互いに影響しあって、いい方向に一歩踏み出した様子なのもうれしい。胸のなかがあたたかくなる一冊である。
雷神*道尾秀介
- 2021/11/19(金) 16:14:31
埼玉で小料理屋を営む藤原幸人のもとにかかってきた一本の脅迫電話。それが惨劇の始まりだった。
昭和の終わり、藤原家に降りかかった「母の不審死」と「毒殺事件」。
真相を解き明かすべく、幸人は姉の亜沙実らとともに、30年の時を経て、因習残る故郷へと潜入調査を試みる。
すべては、19歳の一人娘・夕見を守るために……。
なぜ、母は死んだのか。父は本当に「罪」を犯したのか。
村の伝統祭〈神鳴講〉が行われたあの日、事件の発端となった一筋の雷撃。後に世間を震撼させる一通の手紙。父が生涯隠し続けた一枚の写真。そして、現代で繰り広げられる新たな悲劇――。
ささいな善意と隠された悪意。決して交わるはずのなかった運命が交錯するとき、怒涛のクライマックスが訪れる。
あの四人さえいなければ、これほど悲惨で後々まで哀しみを引きずる出来事にはならなかったのではないか。そう思うと、男たちの身勝手さが心底恨めしい。そして、胸の裡に渦巻く不安と、罪の意識などによる思いこみと勘違いによって、さらに事態は悪い方に転がってしまう。誰もが大切な人を思いやり、互いに大事なことを隠し合ったがための悲劇もある。それらがすべて白日の下にさらされた時、哀しみはさらに募り、胸が締めつけられる。できれば、三十一年前の宵宮の前日に時を戻したいものである。何とか前を向いて生きてほしいと祈る思いにさせられる一冊である。
隠れの子 東京バンドワゴン零*小路幸也
- 2021/11/17(水) 16:12:17
「東京バンドワゴン」シリーズのルーツは江戸時代にあった!?
この出会いは、愛(LOVE)を生む。
累計165万部突破! シリーズ初の傑作時代小説 いきなり文庫!
江戸北町奉行所定廻り同心の堀田州次郎と、植木屋を営む神楽屋で子守をしながら暮らしている少女・るうは、ともに「隠れ」と呼ばれる力を持つ者だった。州次郎はたぐいまれな嗅覚を、るうは隠れの能力を消す力を……。州次郎の養父を殺した者を探すべく、ふたりは江戸中を駆け巡る。それはまた隠れが平穏に暮らすための闘いだった。「東京バンドワゴン」シリーズのルーツとなる傑作時代長編小説。
著者初の時代小説とは思えないほどしっくりくる。語り口調がなんとはなしに東京バンドワゴンと通じるところがあるからだろうか。堀田家のルーツということなので、サチさんの不思議な力とは関係ないのだろうけれど、堀田の系譜も不思議な力を秘めているからこその、あの一家なのだろうと腑に落ちる。ただ、現在の堀田家にどうつながるか具体的に描かれているわけではなく、これはこれで続編がありそうな気配もなくはない。というか、ぜひ読みたい。おるうちゃんが、まだまだ活躍しそうな気がする一冊である。
行動心理捜査官・楯岡絵麻 vs ミステリー作家・佐藤青南*佐藤青南
- 2021/11/15(月) 16:27:43
累計72万部突破の大人気シリーズ最新刊!
刃物でめった刺しにした殺人事件の容疑者の男は、犯行は認めたが、なぜか被害者を認識していなかった。その後も酷似した殺害方法が続き、やがて被害者は皆、SNS上でミステリー作家・佐藤青南を批判していたことがわかる。佐藤は心理学を駆使する警察官が主人公のミステリーで人気を獲得。オンラインサロンを運営しており、多くの会員をもつ。佐藤に疑念を抱いた取調官の楯岡絵麻だが、佐藤は行動心理学に精通しており、絵麻に隙を見せない。さらに行動心理学で見破った事実は証拠にならないと豪語する佐藤。はたして佐藤青南の殺人教唆は成立するのか?
小説のなかで、作家本人と主人公が戦うという奇を衒った設定である。しかも、作家自身も、絵麻と同様マイクロジェスチャーが判るという特性を持っており、しかも、読み取られたからなんだと開き直るので、取り調べも厄介なことこの上ない。こんなときには、地道な捜査がものを言うのである。筒井・綿貫コンビの活躍があればこその解決だろう。現実と虚構が入れ子のようになった物語であり、ミステリー作家・佐藤青南は散々な扱われようだが、かえって作家自身に関する興味は募るかもしれない。いろんな意味で愉しい一冊だった。
バスクル新宿*大崎梢
- 2021/11/13(土) 16:28:46
たくさんの人々が行き交うバスターミナル「バスクル新宿」。
それぞれの目的地を持つ人々がひととき同じ時間を過ごし、同じ事件に巻き込まれてーー
「メフィスト」掲載の連作短編集が待望の書籍化!
1 バスターミナルでコーヒーを
2 チケットの向こうに
3 犬と猫と鹿
4 パーキングエリアの夜は更けて
5 君を運ぶ
全国のあちこちへ人を運んでくれる高速バスと、バスタ新宿を思わせるターミナルが舞台である。ひとりの男の子をキーとして、全体がゆるく繋がる連作でもあり、最終話で、それまでの各話を振り返りながら、もう一度味わえる。往く人、帰る人、さまざまな事情を抱えた人たちが一時集まり、その事情と共にそれぞれのバスに乗り込んで、到着までの時間を過ごす。当たり前のようだが、考えてみると不思議な空気感が漂うような気がする。そんなバスの中で生まれた小さな連帯感や、ターミナルでの出会いや会話。そんなひとつひとつが、かけがえなく愛おしいものに感じられる読後である。何かと物騒な世の中ではあるが、高速バスの旅をしてみたくなる一冊でもある。
能面検事の奮迅*中山七里
- 2021/11/12(金) 13:35:31
忖度しない! 空気を読まない! 完全無欠の司法マシン、再臨。大阪地検一級検事・不破俊太郎、政治とカネの闇にかき消された真実を暴く。"どんでん返しの帝王"が描く、人気検察ミステリーシリーズ第2弾。
また不破検事と惣領美晴事務官の仕事を見られて喜んでいる。相変わらず表情筋を1㎜も動かさない不破であり、重々承知しているにもかかわらず、つい胸の裡を口にしてしまって撃沈する美晴のやり取りが、(本人に言ったら叱られそうだが)コントめいて見えてしまって頬が緩む。ただ、不破から返される言葉のひとつひとつに確たる理由があるので、反論は無論できない。今回は、日本中が知っているあの事件がモチーフになっていて、どこまで事実をなぞって進むのかと思っていたら、後半とんでもない展開になって、さすが、と唸った。そうきたか、という感じである。そして更なるどんでん返しである。不破の頭のなかを覗いてみたい。今回は、東京から岬検事も来ていて、こちらも先を読む力に長けているので、読んでいて嬉しくなる。せめて事務官とはもう少しコミュニケーションをとってほしいな、と思ってしまうのはわたしだけだろうか。美晴負けるな、と応援したくなる。その後の仕事もぜひ書いていただきたいと思う一冊である。
神様の罠
- 2021/11/09(火) 18:01:44
人気作家6人の新作ミステリーがいきなり文庫で登場!
現在のミステリー界をリードする6人の作家による豪華すぎるアンソロジー。
最愛のひととの別れ、過去がふいに招く破綻、思いがけず露呈するほころび、
知的遊戯の結実、そして、コロナ禍でくるった当たり前の日常……。
読み解き方も楽しみ方も六人六様の、文庫オリジナルの超絶おすすめ本です。
【収録作品】
乾くるみ『夫の余命』
余命わずかと知りながら、愛を誓ったふたりは……
米澤穂信『崖の下』
スキー場で遭難した4人。1人が他殺体で見つかり……
芦沢央『投了図』
地元でタイトル戦が開かれる。将棋ファンの夫は……
大山誠一郎『孤独な容疑者』
23年前、私はある男を殺したのだ……
有栖川有栖『推理研VSパズル研』
江神二郎シリーズ待望の新作!
辻村深月『2020年のロマンス詐欺』
大学生になったけれど、コロナ禍で……
それぞれ、違った趣向で愉しめたが、なんといっても最後を飾る辻村作品が面白かった。まず冒頭に事件の新聞記事が置かれ、その後にそこに至る顛末が描かれるという趣向である。記事を見ただけのときは、「あぁ堪え性のない若者が困ったものだなぁ」くらいの、よくある事件の記事を読んだ感じだったのが、顛末を詳しく知ると、まったく印象が変わってくる。起こった事件そのものは全く変わっていないのに、不思議なものである。どんな事件にも、そこに至る事情があるのだろうと想像すると、事件そのものは容認できるものでないとしても、景色はずいぶんと変わってくるのかもしれない。裁判員裁判の参考資料がこんな風だったら、判断が大きく変わるかもしれないとも思ったりする。それにしても、悪意に呑み込まれていく過程は、引き返そうとしても引き返せない心理状態に引きずり込まれるもので、恐ろしすぎる。愉しい読書タイムを過ごせる一冊だった。
六人の嘘つきな大学生*浅倉秋成
- 2021/11/07(日) 16:38:17
「犯人」が死んだ時、すべての動機が明かされる――新世代の青春ミステリ!
ここにいる六人全員、とんでもないクズだった。
成長著しいIT企業「スピラリンクス」が初めて行う新卒採用。最終選考に残った六人の就活生に与えられた課題は、一カ月後までにチームを作り上げ、ディスカッションをするというものだった。全員で内定を
得るため、波多野祥吾は五人の学生と交流を深めていくが、本番直前に課題の変更が通達される。それは、「六人の中から一人の内定者を決める」こと。仲間だったはずの六人は、ひとつの席を奪い合うライバルになった。内定を賭けた議論が進む中、六通の封筒が発見される。個人名が書かれた封筒を空けると「●●は人殺し」だという告発文が入っていた。彼ら六人の嘘と罪とは。そして「犯人」の目的とは――。
『教室が、ひとりになるまで』でミステリ界の話題をさらった浅倉秋成が仕掛ける、究極の心理戦。
日本の就活の過酷さとミステリをうまくマッチングさせた物語だと思う。現実の就活中は、自分をアピールすることに懸命で、相手を陥れるためにここまでする余裕はおそらくないだろうと思うが、リクルートスーツに包まれた表面だけでは計り知れないものを、それぞれが隠し持っていることは確かなことで、それは何ら不思議ではない。人事担当者さえ、ひとりひとりの人間性を的確に読み取れるわけではないのに、大学生にそれができるとはまず思えない。とは言え、小説なので、これもありである。初めは、与えられた課題に向けて、サークル活動的なノリで前向きに取り組んでいた六人が、あることを境に、互いに疑心暗鬼に陥り、じりじりと追い詰め合っていく様子に手に汗握る緊張感が漂う。何度も何度も優位が変わり、互いを見る目が変わり、本心を探り合うさまは、息ができなくなりそうであり、一瞬先にはまた展開が変わるのではないかという恐怖に似た心持ちにもさせられる。誰がいちばん鋭い剃刀を持っているのか。知りたいようで最後まで知りたくないような、不思議な気持ちにもなる。読み応えのある一冊だった。
君が護りたい人は*石持浅海
- 2021/11/05(金) 16:42:15
周到な計画。何重もの罠。
強固な殺意を阻むのは、故意か、偶然か。
容赦なき読み――名探偵・碓氷優佳。ベストセラーシリーズ最新刊!
成富歩夏が両親を亡くして十年、後見人だった二十も年上の奥津悠斗と婚約した。高校時代から関係を迫られていたらしい。歩夏に想いを寄せる三原一輝は、奥津を殺して彼女を救い出すことを決意。三原は自らの意思を、奥津の友人で弁護士の芳野友晴に明かす。犯行の舞台は皆で行くキャンプ場。毒草、崖、焚き火、暗闇……三原は周到な罠を仕掛けていく。しかし完璧に見えた彼の計画は、ゲストとして参加した碓氷優佳によって狂い始める。見届け人を依頼された芳野の前で、二人の戦いが繰り広げられる――。
碓氷優佳、今回もさりげなく怖い。バーベキューに参加した彼女が何をしたのか、わかる人にしかわからない。わからない人にとっては、単なるメンバーの知り合いで今回だけ参加した人ということになる。それなのに、しっかり殺人を阻止してしまう。とは言え、誰も死ななかったかと言えばさにあらず。まさかそこまでタイミングを計ったとは思えないが、ぜっていにないとは言い切れないところが、敵に回したくない所以である。相変わらず、計り知れない女性である。そして、それこそが彼女の魅力でもある。ただ、今回の殺人計画者が、彼女と対決するには力不足だった気がしてしまうのは、わたしだけだろうか。ハラハラドキドキそしてほっと息をつくという目まぐるしい一冊だった。
嗤う淑女二人*中山七里
- 2021/11/04(木) 16:07:08
最恐悪女が最凶タッグ!これはテロか、怨恨か?
真相は悪女のみぞ知る――。
戦慄のダークヒロイン・ミステリー、衝撃の最新刊!
高級ホテル宴会場で17名が毒殺される事件が発生。
犠牲者の一人、国会議員・日坂浩一は〈1〉と記された紙片を握りしめていた。
防犯カメラの映像解析で、衝撃の事実が判明する。
世間を震撼させた連続猟奇殺人に関与、
医療刑務所を脱走し指名手配中の「有働さゆり」が映っていたのだ。
さらに、大型バス爆破、中学校舎放火殺人……と、新たな事件が続発!
犯行現場には必ず、謎の番号札と、有働さゆりの痕跡が残されている。
さゆりは「ある女」に指示された手段で凶行に及んでいたが、
捜査本部はそのことを知る由もなく、死者は増え続ける一方で、
犠牲者は49人を数えるのだった……。
デビュー11年目、どんでん返しの筆がますます冴える人気作家が放つダークヒロイン・ミステリー第3弾、ついに刊行!
二人の悪女の出会い方が偶然過ぎて、かえって怖い。方向性の違う悪女ではあるものの、どこかで引き合ってしまうのだろうか。そして、操る方も操られる方も、互いを全く信じておらず、最後の最後まで気を許してはいないところも恐ろしい。事件は凄惨を極め、巻きこまれた人たちや遺族は怒りの持っていき場がないだろう。だがこの二人はそんなことには一点の興味もないのである。もう理解しようとすることはあきらめたが、動機にしっかりとした理由があったことで、ほんのわずか、気持ちの落としどころが見つかった心地ではある。決して良かったということはできないが。さらには二人のラストシーンが、ショッキング過ぎて、絶対にこのままでは終わらない予感に震えるしかない。次を知りたいが知りたくない一冊である。
連弾*佐藤青南
- 2021/11/03(水) 16:46:43
都内の小さな公園で死体が発見された。警察は殺人事件と判断し、特別捜査本部を設置。捜査一課の音喜多弦は、音楽隊志望という少し変わった所轄署の刑事・鳴海桜子と捜査を開始した。遺留品にクラッシクコンサートのチケットがあったことから、関係者を訪れる二人だが……。時を超えた愛憎と狂気が渦巻く、慟哭の傑作ミステリ。
殺人事件の大元となった過去の出来事と、事件を捜査する現在の状況が交互に描かれる。過去にはディスレクシアでありながら、たぐいまれなる音楽性を持った少年と、自分のピアノの才能に限界を見てしまった少女との出会いがあり、現在では、ちょっと変わった警察音楽隊志望の女性刑事と捜査一課の刑事のコンビが捜査に当たるなかで、どうやら彼女が相貌失認ではないかとわかってくる。人とは違う特性を持ちつつ日々を過ごす人たちの苦悩をもう少し掘り下げてほしかった気もする。ミステリとしは、犯人当ての醍醐味は少ないが、執念のような強い気持ちが伝わってきて、こういう犯罪者がいちばん怖いのではないかとも思わされる。ほんの少し踏み出す方向が違っていたら、まったく別の物語になったかもしれないというやりきれなさに満ちた一冊でもあった。
黒牢城*米澤穂信
- 2021/11/01(月) 18:06:21
信長を裏切った荒木村重と囚われの黒田官兵衛。二人の推理が歴史を動かす。
本能寺の変より四年前、天正六年の冬。織田信長に叛旗を翻して有岡城に立て籠った荒木村重は、城内で起きる難事件に翻弄される。動揺する人心を落ち着かせるため、村重は、土牢の囚人にして織田方の軍師・黒田官兵衛に謎を解くよう求めた。事件の裏には何が潜むのか。戦と推理の果てに村重は、官兵衛は何を企む。デビュー20周年の到達点。『満願』『王とサーカス』の著者が挑む戦国×ミステリの新王道。
歴史は苦手なので、それとミステリがどう結びつくのか興味があった。命のやり取りをする現場であるにもかかわらず、いわゆる安楽椅子探偵ものの設定であり、しかも探偵と助手が敵同士というとんでもない設定である。にもかかわらず、この魅力は何だろう。互いに敵なのか味方なのかも計り知れず、城内にあっても、心底安心することはない日々のなかで、地下の土牢の前で、官兵衛と向き合う時だけが村重の心を満足させるとは、何たる皮肉であろうか。ひとえに、官兵衛の知略の故であろう。だが、その目的は決して村重を心安くするものではないのが、切ないところである。しかも、そもそもの目的のもとになった出来事が最後の最後に覆るとは。戦国の世のすさまじさを見せつけられるようでもあり、真に分かり合えるふたりであることの喜びもあったのではないかとも思わされる。息もつけない一冊だった。
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