fc2ブログ

天久鷹央の事件カルテ 久遠の檻*知念実希人

  • 2022/03/30(水) 18:17:14


美しいままの少女。
不老不死の謎に、挑む。

かつてアイドルとして芸能活動をしていた少女、楯石希津奈。十五年以上の時を経て、彼女がまったく同じ容姿で現れたことに驚いた精神科部長の墨田淳子は、統括診断部の天久鷹央に診察を依頼する。だが、検査をしようとした矢先、父親が現れ、希津奈は連れ去られてしまう……。ミイラ化した遺体。自殺からの復活。相次ぐ不可思議な現象の真実は?


タカタカコンビ+鴻ノ池舞(もはやトリオ)の息は、ますますぴったりである。今回は、不老不死の少女を崇める新興宗教さながらの集まりを実効支配する少女の父と、鷹央たちの対決という構図である。最後の最後の謎解きは、相変わらず素人には無理なのだが、それでも、鷹央の推理の過程を聴いているだけで、すとんと腑に落ちる。胎児に歯があるというのは、ちょっと疑問にも思ったが、それ以外は、ラストの鷹央の見事過ぎるライブ中継まで、お見事、と言っていいだろう。飲み過ぎはよくないよ、と言ってあげたいシリーズでもある。

桜風堂夢ものがたり*村山早紀

  • 2022/03/28(月) 18:42:44


「会いたかったひとに会える奇跡」があるなら、あなたは誰に会いたいですか?
小さな町の書店と、そこに関わる優しいひとびとの姿を描く、本屋大賞ノミネート『桜風堂ものがたり』最新作!

月原一整がいる桜風堂へ向かう道。
それは「会いたい人に会える」、という奇跡の起こる道。
今回も「温かい涙」が流れます!

第一話「秋の怪談」
桜風堂に月原一整がやってきたことで救われた少年・透。彼は友人たちと、町外れにある「幽霊屋敷」に冒険に出かけるのだが……

第二話「夏の迷子」
一整のかつての上司、銀河堂書店の優しい店長・柳田。彼は桜風堂書店を訪ねた帰り道で迷子になる。不安に襲われた彼に語り掛けてきた声とは。

第三話「子狐の手紙」
一整のかつての同僚、三神渚砂は桜風堂へ向かう途中、両親の離婚でもう何年も会っておらず、今は病床にいるはずの父と出会う。

第四話「灯台守」
かつて家族と哀しい別れをして天涯孤独の一整。しかし、彼と暮らす猫は、ずっと一整のことを見守っている人物の気配に気づいていた。


いつもと変わらず、やさしくあたたかい心もちにさせてくれる物語である。ファンタジー性が強いストーリーではあるのだが、それが、とても自然に日常に溶け込んでいて、桜野町の人たちも、ごく当たり前のこととして受け入れ、共に過ごしているのが、ほほえましい。現実の世界でも、姿かたちは見えなくとも、何かの気配を感じることがあったりもするので、そんなときにはきっと、会いたくて逢えない人が会いに来てくれているのかもしれない、とふと思う。猫から鸚鵡から、光から風から、空気から人まで、すべてがやさしい一冊である。

フェイクフィクション*誉田哲也

  • 2022/03/26(土) 18:34:19


首なし死体がすべての始まりだった。
警察組織vs悪魔と呼ばれる男vsカルト教団vs元キックボクサー。
囚われた“彼女”の奪還。愛する人を失った者たちの復讐劇――。
疑いなき信仰心に警鐘を鳴らすセンセーショナルな最新長編。

東京・五日市署管内の路上で、男性の首なし死体が発見された。刑事の鵜飼は現場へ急行し、地取り捜査を開始する。死体を司法解剖した結果、死因は頸椎断裂。「斬首」によって殺害されていたことが判明した。一方、プロのキックボクサーだった河野潤平は引退後、都内にある製餡所で従業員として働いていた。ある日、同じ職場に入ってきた有川美祈に一目惚れするが、美祈が新興宗教「サダイの家」に関係していることを知ってしまい……。


著者流のグロテスクな殺人現場はあまり見たくないが、基本的な人間関係は愛にあふれていて――だからこそのストーリー展開でもあるのだが――あたたかい心もちにさせてくれる。とはいえ、一般人にはあまりにも無謀な試みであり、思わず目を閉じたくなる。さらには、刑事と昔の事件とのつながりが明らかになり、警察内部の愚かすぎる腐敗の図式も暴き出され、なんともやりきれない思いにさせられる。ラストに希望の光が見えたのが救いになった。何を信じればいいのか判らなくなりそうな一冊でもあった。

異常心理犯罪捜査官・氷膳莉花 嗜虐の拷問官*久住四季

  • 2022/03/23(水) 16:44:47


人気シリーズ! 拷問は至高の刑罰だ──快楽殺人者“拷問官”を追え!

ついに本庁捜査一課に異動となった莉花は、念願であった殺人犯捜査第四係の仙波班に配属される。だが、功名心にはやる規則破りの刑事という悪評は拭えず、ここでも孤立していた。
そんな中、都内で異様な死体が発見される。それは車により執拗に手足だけを轢き潰されていた。被害者が半グレの構成員だったことから、内部抗争による私刑と見られた。
だが天才的な犯罪心理学者・阿良谷の助言は違った。目に釘を刺す別の殺人事件を挙げ、同一犯による快楽殺人だと指摘する。
殺害方法に共通項がない快楽殺人者。この不可解なプロファイルは、後に始まる恐怖の深淵への序章だった!


拷問の描写は、思わず目をそむけたくなるが、犯罪の異常性により目を向けることとなる。警視庁捜査一課に移動になった氷膳莉花は、相変わらずつきまとう悪評もあって、仙波班のほかの刑事たちになかなか馴染めないでいるせいもあり、またまた単独捜査に出てしまう。それはもちろん、収監中の阿良谷博士のアドバイスのせいでもあるのだが、それを明かすわけにはいかない。さらには、監察官から密命を受け、班の仲間を監視することにもなり、もやもやを抱えたままで捜査に当たることになる。一歩間違えば、命を失うことにもなるような単独捜査はいただけない気はするが、仲間たちには一応受け入れられたので、よしとする。だが、ラストで阿良谷博士の二審の公判開始が決まり、接見が叶わなくなる。彼のアドバイスがないままで、莉花はこれからどうするのか、一抹の不安が立ちこめる一冊でもあった。

愚かな薔薇*恩田陸

  • 2022/03/22(火) 16:29:52


吸血鬼ってなんなんだろう、
と子供の頃からずっと考えていた。
人類の進化の記憶の発露なんじゃないか、
とどこかで感じていた。
一方で、うんと狭いところで
うんと大きい話を書いてみたいと思っていた。
昨今言われる「グローカル」というのが
念頭にあったのかもしれない。
またしても、
ものすごく時間が掛かってしまったが、
この二つの課題をやり遂げられたのかどうかは、
今はまだ自分でもよく分からない。 恩田陸


磐座(いわくら)では、14歳になると、選ばれた素質を持った少年少女たちが集められ、外海を旅する虚ろ船乗りになるためのキャンプに参加し、自身を変質させて立派な虚ろ船乗りを目指すという伝統が、昔から続いている。今年の参加者、高田奈智は、何も知らずに参加し、磐座で起こる出来事や、キャンプに参加する同年代の者たちの変化に戸惑い、その意味を考えるようになる。それまで考えもしなかった自分の生い立ちや、亡くなった母や、行方不明の父のことも少しずつ考えるようになっていく。地球の滅亡や、地球人の移住、吸血鬼、などさまざまな要素を織り込みながら壮大なSFファンタジーという設えになってはいるが、大きなところに目を向けるほどに、ひとりひとりの裡側に切り込んでいくような印象も生まれてくる。読むたびに違った感情が立ち現われそうな一冊でもある。

真夜中のマリオネット*知念実希人

  • 2022/03/19(土) 18:41:40


私が救ったのは、天使か、悪魔か――。
殺した後、一晩かけて遺体をバラバラにする殺人鬼――通称「真夜中の解体魔」。
婚約者を殺された救急医の秋穂は、深い悲しみを抱えながらもなんとか職場に復帰をしたところだった。
そこに運ばれてきたのは、交通事故で重傷を負った美少年・涼介。
無事、命を救うことができたが、手術室を出た秋穂に刑事が告げる。
「彼は『真夜中の解体魔』だ」と――。
涼介に復讐しようとする秋穂に、涼介は綺麗な涙を流しながら訴える。
「僕は罠にかけられただけなんです」と――。
無実に思える証拠を見せられた秋穂は、ためらいながらも涼介と真犯人を探すことになるが……。
涼介は真犯人に操られた哀れな人形(マリオネット)なのか、それとも周囲を操る冷酷な人形遣いなのか。
衝撃のクライマックスに、きっとあなたは絶叫する。
知念実希人が贈る、究極のクライムサスペンス。


誰が本当の悪なのか。読み進むほどに、あっちへこっちへと揺れ動き、なかなか的を絞って感情移入できない。さまざまな形で、人に、気持ちに操られる者たち。マリオネットの供宴とでもいった趣である。真実に向かって大逆転、と思うも束の間、最後の最後に、最悪の裏切りを見せられ、(信じ切っていたわけではないにもかかわらず)ダメージから立ち直れない。野放しにしては絶対にダメな人間である。著者には珍しく、後味の悪すぎる一冊だった。

もう別れてもいいですか*垣谷美雨

  • 2022/03/17(木) 16:39:00


58歳の主婦・澄子は、横暴な夫・孝男との生活に苦しんでいた。田舎の狭いコミュニティ、ギスギスした友人グループ、モラハラ夫に従うしかない澄子を変えたのは、離婚して自分らしく生きる元同級生との再会だった。勇気を振り絞って離婚を決意するも、財産分与の難航、経済力の不安、娘夫婦の不和など、困難が山積。澄子は人生を取り戻せるのか?平凡な主婦による不屈の離婚達成物語


モラハラ夫にうんざりしていた澄子に届いた、高校の同級生からの喪中はがき。亡くなったのは彼女の夫だった。そこから澄子の夫への嫌悪が加速していく。さらには、やはり高校の同級生が離婚したといううわさを聞き、揺れ動きながらも離婚への心づもりを固めていくことになる。全面的に共感できるわけではないが、うなずける部分もあり、澄子の気持ちに加速度がつくのはよくわかる。実家の母や弟夫婦、娘たちの事情も絡めながら、澄子が晴れやかな自分を取り戻していく様子は、陰ながら応援したくなる。離婚後の夫の心情には全く触れられてはいないが、そこも知りたい気がする。結婚はあっという間だが、離婚には並々ならぬエネルギーがいることを改めて思い知らされる一冊でもある。

ひとりでカラカサさしてゆく*江國香織

  • 2022/03/15(火) 11:19:27


ほしいものも、会いたい人も、ここにはもうなんにもないの――。
大晦日の夜、ホテルに集まった八十歳過ぎの三人の男女。彼らは酒を飲んで共に過ごした過去を懐かしみ、そして一緒に命を絶った。三人にいったい何があったのか――。
妻でも、子どもでも、親友でも、理解できないことはある。唐突な死をきっかけに絡み合う、残された者たちの日常。人生におけるいくつもの喪失、いくつもの終焉を描き、胸に沁みる長篇小説。


大晦日の夜、都心のホテルで、80歳過ぎの男女三人が猟銃で自ら命を絶った。
そこから始まる、彼ら三人に連なる、関係性や親密度のそれぞれ違う人たちに、じわじわと広がる波紋のような心の動きが、淡々と昂ることなく描かれていて、同じ時空に共に生きていたということの大きさを、それぞれがそれぞれなりに受け止めているさまが愛おしくさえ思えてくる。近しい人の死によって、自らの生を改めて思う時、どこにもない答えを突き付けられるような困惑と、もどかしさを覚えるのではないかという印象を受ける。人には、その人にしかわからない何かが確かにあって、それは他人がどうこう言えるものではないのだと改めて思わされる。一般的に見ればセンセーショナルな事件ではあるが、当人たちの心はいたって静かで満たされており、この時しかないと思い決めてのことだったのだと、読み終えてすとんと胸に落ちる心地がする一冊だった。

おわかれはモーツァルト*中山七里

  • 2022/03/13(日) 16:40:59


2016年11月。盲目ながら2010年のショパンコンクールで2位を受賞したピアニスト・榊場隆平はクラシック界の話題を独占し人気を集めていた。しかし、「榊場の盲目は、自身の付加価値を上げるための芝居ではないか」と絡んでいたフリーライターが銃殺され、榊場が犯人として疑われてしまう。事件は深夜、照明の落ちた室内で起きた。そんな状況下で殺人ができるのは、容疑者のうち、生来暗闇の中で暮らしてきた榊場だけだと警察は言うのだ。窮地に追いやられた榊場だったが、そんな彼のもとに、榊場と同様ショパンコンクールのファイナルに名を連ねたあの男が駆けつける――! 累計160万部突破の『さよならドビュッシー』シリーズ最新刊。


現実の事件や人物も要素として絡めつつ、殺人事件に展開させていくのは著者の技だろう。目を閉じては本を読めないのだが、瞼を閉じて頭の中に音楽を響かせながら読みたい心地にさせられる。無粋極まりない警察の捜査との対比も際立つ。そして、いわずもがなではあるが、岬洋介が登場すると、いやがうえにも期待が高まる。一切気負うことなく、誰に対しても丁寧さを崩すこともなく、それでいて、有無を言わせぬ説得力があって、誰もが話を聴かずにはいられなくなる。音楽の素養だけでなく、幅広い懐の深さが、魅力的すぎる。実際に榊場と岬の供宴を聴いてみたいものである。何度でも読みたいシリーズである。

ヴィンテージガール 仕立屋探偵 桐ケ谷京介*川瀬七緒

  • 2022/03/11(金) 18:19:57


東京の高円寺南商店街で小さな仕立て屋を営む桐ヶ谷京介は、美術解剖学と服飾の深い知識によって、服を見ればその人の受けた暴力や病気などまでわかる特殊な能力を身につけていた。そんな京介が偶然テレビの公開捜査番組を目にする。10年前に起きた少女殺害事件で、犯人はおろか少女の身元さえわかっていないという。さらに、遺留品として映し出された奇妙な柄のワンピースが京介の心を捉える。10年前とは言え、あまりにデザインが時代遅れ過ぎるのだ。京介は翌日、同じ商店街にあるヴィンテージショップを尋ねる。1人で店を切り盛りする水森小春に公開捜査の動画を見せて、ワンピースのことを確かめるために。そして事件解明に繋がりそうな事実がわかり、京介は警察への接触を試みるが……。


美術解剖学に精通した仕立屋の桐ケ谷が、未解決事件の公開捜査のテレビ番組に映った、被害者が着ていたワンピースに目を止め、しわの寄り方や摩耗具合から、死因を推測し、情報提供したところから物語が始まる。商店街の店主仲間でもあるヴィンテージショップの小春の知恵も借りながら、10年も進展がなかった殺人事件が、いままでになかった視点からの情報によって、少しずつ真相に近づいていく。初めはうさん臭く思っていた警察も、次第に注目するようになり、少しずつ暗黙の協力体制ができていく感じが、好ましい。一着のワンピースや、釦などから、さまざまなことが判るというのが新しく興味深い。彼らが関わる別の事件の顛末も、もっと知りたくなる一冊である。

ムゲンのi 下*知念実希人

  • 2022/03/09(水) 07:20:39


愛衣は魂の分身〈ククル〉と夢幻の世界に飛び込み、眠りから醒めない奇病・イレスに罹った患者のマブイグミ〈魂の救済〉に次々と成功する。
やがて、患者の心の傷が、23 年前の通り魔殺人と、頻発する猟奇殺人に繫がっていることがわかる。
感動と驚きのフィナーレが待ち受ける超大作ミステリー、ここに完結。


上巻を読み終えた時点での想像を超える展開が待っていた。そうきたか、という印象とともに、なるほど、と腑に落ちる部分も多くあり、伏線はきちんと張られていたのだと納得させられる。愛衣のあまりにも大きな喪失感と、それを補って余りある満たされ感が、ほっとさせてくれはするが、果たして現実的にあの境地に達することができるかと問われたら、個人的にはうなずくことはできそうにない。それを含めて、強くなり成長した愛衣を応援したくなる一冊だった。

ムゲンのi 上*知念実希人

  • 2022/03/08(火) 16:30:36


若き女医・識名愛衣は不思議な出会いに導かれ、人智を超える事件と難病に挑む。
眠りから覚めない四人の患者、猟奇的連続殺人、魂の救済〈マグイグミ〉――すべては繫がり、世界は一変する。

予測不可能な超大作ミステリー、2020年の本屋大賞ノミネート作が待望の文庫化!


ミステリと医療とファンタジーとイタコの不思議な力が混然一体となった物語である。個人的にはファンタジーには苦手意識があるので、夢幻の世界に飛び込んだ時には、先が思いやられる気分ではあったのだが、同時多発的に発症したと思われる、原因不明の昏睡を続ける難病・イレス患者の治療と、彼らのつながり、引いては主治医である愛衣自身に関わる問題にまでつながりそうな展開で、興味をそそられる。下巻を読むのが愉しみな一冊である。

闇祓(ヤミハラ)*辻村深月

  • 2022/03/07(月) 18:13:59


あいつらが来ると、人が死ぬ。 辻村深月、初の本格ホラーミステリ長編!

「うちのクラスの転校生は何かがおかしい――」
クラスになじめない転校生・要に、親切に接する委員長・澪。
しかし、そんな彼女に要は不審な態度で迫る。
唐突に「今日、家に行っていい?」と尋ねたり、家の周りに出没したり……。
ヤバい行動を繰り返す要に恐怖を覚えた澪は憧れの先輩・神原に助けを求めるが――。
身近にある名前を持たない悪意が増殖し、迫ってくる。一気読みエンタテインメント!


ホラーは苦手だが、本作のような心理的ホラーとでもいうような趣のものは興味深い。心の隙間にいつの間にかするりと忍び込まれ、抜き差しならない状況に誘導されていく過程は、客観的に見ると、なんて馬鹿なと思うが、実際渦中にいると、負のスパイラルのようなものに絡めとられて、抜け出せなくなるのかもしれない。架空の事象なので過大に表現されているが、もっと些細なことなら、いつ自分の身に起こってもおかしくないようにも思われて、背筋がぞくっとする。怖いもの見たさで、ページを繰る手が止まらなくなる一冊である。

みんなのふこう 葉崎は今夜も眠れない*若竹七海

  • 2022/03/06(日) 16:24:13


ベストセラー「葉村晶」シリーズ著者の、
もうひとつの人気シリーズ!
葉崎市の超個性豊かな面々と、
最高に不運な17歳のココロちゃんが織りなす、
一気読み必至のコージーミステリー!

葉崎FMで放送される「みんなの不幸」は、リスナーの赤裸々な不幸自慢が人気のコーナーだ。そこに届いた一通の投書。「聞いてください、わたしの友だち、こんなにも不幸なんです……」。
海辺の田舎町・葉崎市を舞台に、疫病神がついていると噂されながら、
どんなことにもめげない17歳のココロちゃんと、彼女を見守る女子高生ペンペン草ちゃん、周囲の人々が繰り広げる、泣き笑い必至の極上コージーミステリー!


読めば読むほどココロちゃんのことが心配になる。周りの心配をよそに、本人はいたって平常心(?)なのが、なおさら心配である。そんな風だから、ラジオの「みんなの不幸」コーナーに投稿したくもなるというものである。ココロちゃんは、もはや葉崎の心配の種であると言っても過言ではないだろう。ココロちゃんに害悪を成す原因が取り除かれて安心するも、ココロちゃん自身がまったく変わることなくココロちゃんなので、葉崎と読者の心配の種も尽きそうもない。周りに心配されながら、健気に生き続けるのだろうなと苦笑を禁じ得ない一冊である。

六つの村を越えて髭をなびかせる者*西條奈加

  • 2022/03/05(土) 07:05:11


直木賞作家の新たな到達点! 江戸時代に九度蝦夷地に渡った実在の冒険家・最上徳内を描いた、壮大な歴史小説。
本当のアイヌの姿を、世に知らしめたい―― 時は江戸中期、老中・田沼意次が実権を握り、改革を進めていた頃。幕府ではロシアの南下に対する備えや交易の促進などを目的に、蝦夷地開発が計画されていた。 出羽国の貧しい農家に生まれながら、算学の才能に恵まれた最上徳内は、師の本多利明の計らいで蝦夷地見分隊に随行する。そこで徳内が目にしたのは厳しくも美しい北の大地と、和人とは異なる文化の中で逞しく生きるアイヌの姿だった。イタクニップ、少年フルウらとの出会いを通して、いつしか徳内の胸にはアイヌへの尊敬と友愛が生まれていく……。 松前藩との確執、幕府の思惑、自然の脅威、様々な困難にぶつかりながら、それでも北の大地へと向かった男を描いた著者渾身の長編小説!


史実に基づいた歴史物、しかも、題材が江戸中期の蝦夷のアイヌ、ということで、読み始めてすぐは、とっつきにくいのでは、と思ったが、そんなことは全くなかった。幼いころの元治(のちの最上徳内)の健気さと、知識欲の強さはみているだけで頼もしく、応援したくなる。そんな息子を大きな目で見守る父の存在も、とても好ましく、後の徳内の人物形成に大きな影響を与えているのだろうと思える。どこにいても、徳内は人に恵まれ、彼らとの縁をないがしろにしないから、さらに良い縁につながっていくのだろう。、絶えず湧き出す知識欲と、誰もが幸せに生きてほしいと願う真心に突き動かされた一生だったのだろう。読み応えがあり、胸の奥があたたかいもので満たされる一冊だった。

新しい世界で 座間味くんの推理*石持浅海

  • 2022/03/01(火) 18:03:49


大学生の玉城聖子、警視庁の幹部、会社員の座間味くん。世代も性別もバラバラだが、不可解な話を肴に酌み交わす仲だ。杯が進むほど推理は冴えていく。極上の酒。かけがえのない友。不可解な謎。鮮やかな反転。2021年の掉尾を飾る、短編本格ミステリの精華!


新宿東口の書店で待ち合わせて飲みに行き、警視庁幹部の大迫が提供した話題に、座間味くんと聖子があれこれコメントし、最後は座間味くんがぽつりとつぶやくひとことから始まる謎解きのような見解にうならされる、という定型と言ってもいい趣向の物語である。なので、座間味くんがどう解明するかと、考えながら読み進めるのだが、いつも目を開かされる心持ちになるのである。相変わらず頭が切れる座間味くんである。そして、このラストはなんてしあわせなのだろう。これ以上ない展開ではないか。座間味くんシリーズは終わってしまうの?新しい世界でまだまだ続いてほしいシリーズである。