- | こんな一冊 トップへ |
求めよ、さらば*奥田亜希子
- 2022/04/29(金) 18:12:08
あなたの「愛」は、本当にあなたが感じたものですか? 令和最強の恋愛小説
理想の夫だったあの人は、私を、愛してはいなかった――。
三十四歳、結婚して七年、子供なし。夫には、誰にも言えない秘密がある。
===
翻訳家として働く辻原志織は、三十四歳。五年の交際を経て、結婚をした夫の誠太は、友人から「理想の旦那」と言われ、
夫婦生活は安定した温かさに満ちていた。ただひとつ、二人の間に子どもがいないことをのぞいては。あるとき、志織は誠太のSNSに送られた衝撃的な投稿を見つける。
自分の人生に奥さんを利用しているんですね。こんなのは本当の愛じゃないです。
二週間後、夫は失踪した。残された手紙には「自分は志織にひどいことをした、裏切り者だ」と書かれていて――。
上記紹介文の冒頭の帯の言葉は、いささか煽りすぎな気がするが、夫・誠太にとってはそのくらいの気持ちだったのかもしれない、とは思う。置手紙を残して出ていかれた妻・志織にとっては、寝耳に水以外の何物でもなく、上手くいっているとしか思っていなかった、これまでの結婚生活のすべてが信じられなくなったことだろう。初めの章は、志織の視点で描かれ、次に誠太の視点で描かれる同じ時期の物語は、同じものを見ていたとしても、当たり前だが、それぞれに見えているものは少しずつ違い、併せて読むことによって、ひとつの景色が見えてくる。あたたかい気持ちに満たされた景色である。それがどうして――、と思うが、誠太にとってはいたたまれなかったのかもしれない。最後の章があってよかった。本音で話し合うことの大切さを、改めて思わされる。この二人なら、これから先もずっと大丈夫だと満たされた気持ちで読み終えられた一冊である。
少女を埋める*桜庭一樹
- 2022/04/27(水) 16:47:32
2021年2月、7年ぶりに声を聞く母からの電話で父の危篤を知らされた小説家の「わたし」は、最期を看取るために、コロナ禍下の鳥取に帰省する。なぜ、わたしの家族は解体したのだろうか?――長年のわだかまりを抱えながら母を支えて父を弔う日々を通じて、わたしは母と父のあいだに確実にあった愛情に初めて気づく。しかし、故郷には長くは留まれない。そう、ここは「りこうに生まれてしまった」少女にとっては、複雑で難しい、因習的な不文律に縛られた土地だ。異端分子として、何度地中に埋められようとしても、理屈と正論を命綱になんとかして穴から這い上がり続けた少女は東京に逃れ、そこで小説家になったのだ――。
「文學界」掲載時から話題を呼んだ自伝的小説「少女を埋める」と、発表後の激動の日々を描いた続篇「キメラ」、書き下ろし「夏の終わり」の3篇を収録。
近しい人間の死を経験したことのあるすべての読者の心にそっと語りかけると同時に、「出ていけ、もしくは従え」と迫る理不尽な共同体に抗う「少女」たちに切実に寄り添う、希望の小説。
コロナ禍の中で父を見送る娘の心情は、身につまされるものがあり、このことに限っては故郷に帰ってよかったのだと思えるが、いまだ家父長制が色濃く残り、女は「従うか出ていけ」という不文律がまかり通っている場所に、長くとどまることがどれほどのストレスになるかは想像に難くない。埋められないように、必死で抗う姿には共感も多いと思われる。だが、その後の批評をめぐる騒動に、果たしてどれほどの共感が得られるだろうか。個々の家族や、特定の地域の事情がわからないので、なんとも言えないが、そもそも著者が最初にひっかかったのは、小説に書かれていないことを、あたかもあらすじのように記述され、その上で論評されるという理不尽と、それによって故郷の母が受けるだろう故なき仕打ちを心配してのことだったと承知する。とは言え、作品には、母の実際行ったことの数々が書かれているのである。自分が書いたことに関する母への誹謗中傷はかまわないが、書いていないことを取り沙汰されるのは許せない、ということなのだろうか。その辺りが、よくわからないのも事実である。何となくもやもやとすっきりしない一冊になってしまったのは、いささか残念である。
壊れる心*堂場瞬一
- 2022/04/26(火) 16:41:51
私は今、刑事ではない。被害者の心に寄り添い、傷が癒えるのを助ける。正解も終わりもない仕事。だが、私だからこそしなければならない仕事――。月曜日の朝、通学児童の列に暴走車が突っこんだ。死傷者多数、残された家族たち。犯人確保もつかのま、事件は思いもかけない様相を見せ始める。-文庫書下ろし-
警察官が主人公の物語である。とは言っても、刑事ではなく、犯罪被害者支援課という部署にスポットが当てられている。捜査はせず、被害者の気持ちに寄り添い、心の傷を少しでも癒して立ち直らせるための部署である。主人公の村野は、自らも事件の被害に遭って怪我を負い、捜査一課から志願して転課してきたという経緯があり、他の課員とは心構えからしていささか違っているせいか、マニュアル以上の対応をしがちではある。それがいいことなのかそうでないのかは、案件にもよるが、今回は、被害者家族にとっても、村野にとっても、他の課員たちにとっても、かなりきつい結果になったのは間違いない。被害者家族の身になってみれば、心情的には判らなくもないので、やりきれないことこの上ない。刑事課や交通課とのせめぎあいにももどかしさを感じる。正解がひとつではないだけに、さまざま考えさせられる一冊だった。
紙鑑定士の事件ファイル 偽りの刃の断罪*歌田年
- 2022/04/24(日) 16:37:02
野良猫虐待事件をフィギュア造形の蘊蓄で解決し、父を喪った少年の心を印刷業界の蘊蓄で開く。さらに、凶器が消えた奇妙な殺人事件の謎を、コスプレの知識で暴く! ? 新たな相棒・フィギュア作家の團(だん)と共に、紙鑑定士・渡部がさまざまな事件に挑む。3つの紙の蘊蓄が楽しめる連作短編! 『このミス』大賞シリーズ。
FILE:01 猫と子供の円舞曲
FILE:02 誰が為の英雄
FILE:03 偽りの刃の断罪
エピローグ
前回の経験のせいか、紙鑑定士である渡部の捜査へのハードルが下がっているような気がする。今回も、事務所に持ち込まれた依頼から派生したとはいえ、事件の捜査まがいのことに手を出すことになる。プロモデラーの土生井にアドバイスをもらい、捜査の過程で新たに知り合ったフィギュア作家の團の協力も得て、謎を解く手掛りを見つけ出していく。本業の合間とは言え、すっかり捜査にのめり込んでいる印象である。いつか探偵に職業替えするのではないかと思うほどである。といっても、やはりそこは紙鑑定士、紙に関するマニアックな知識を駆使してヒントを見つけるセンスはさすがである。次はどんな謎が飛び込んでくるのか、楽しみなシリーズである。
ペッパーズ・ゴースト*伊坂幸太郎
- 2022/04/22(金) 07:05:56
少しだけ不思議な力を持つ、中学校の国語教師・檀(だん)と、女子生徒の書いている風変わりな小説原稿。
生徒の些細な校則違反をきっかけに、檀先生は思わぬ出来事に巻き込まれていく。
伊坂作品の魅力が惜しげもなくすべて詰めこまれた、作家生活20年超の集大成!
ニーチェの思想が下敷きになった物語である。ペッパーズ・ゴーストとは、劇場や映像の技術のひとつで、別の場所に存在するものを、観客の目の前に映し出す手法のことだそうである。それがわかると、物語の構成が見えてくる。中学教師・檀、教え子の書いた小説、別の教え子の校則違反から派生するその父親、という三つの視点でストーリーが進んでいくのだが、あるところで、現実が小説に取り込まれるように、三者が入り交じって、より複雑な展開になっていく。一瞬でも目を離せば、まったく別の場所に連れて行かれてしまうような心地である。まるで小説の登場人物になったようである。そもそも、檀のちょっと変わった――誰かの飛沫を浴びると、その人が見ている未来を束の間見ることができる――体質が、現実離れしているので、なおさら効果的になっている。描かれている問題は、どれもシリアス極まりないのだが、コメディを見ているような心が弾むような気持ちになるのはなぜだろうか。ペッパーズ・ゴースト効果と言えるのかもしれない。はらはらどきどきと深い悲しみを同時に体験できる一冊でもあった。
倒産続きの彼女*新川帆立
- 2022/04/19(火) 16:44:15
『このミステリーがすごい! 』大賞 大賞受賞作&シリーズ累計48万部突破
『元彼の遺言状』続編!
彼女が転職するたび、その企業は必ず倒産する――
婚活に励むぶりっ子弁護士・美馬玉子と、高飛車な弁護士・剣持麗子がタッグを組み、謎の連続殺「法人」事件に挑む!
(あらすじ)
山田川村・津々井法律事務所に勤める美馬玉子。事務所の一年先輩である剣持麗子に苦手意識をもちながらも、
ボス弁護士・津々井の差配で麗子とコンビを組むことになってしまう。
二人は、「会社を倒産に導く女」と内部通報されたゴーラム商会経理部・近藤まりあの身辺調査を行なうことになった。
ブランド品に身を包み、身の丈にあわない生活をSNSに投稿している近藤は、会社の金を横領しているのではないか? しかしその手口とは?
ところが調査を進める中、ゴーラム商会のリストラ勧告で使われてきた「首切り部屋」で、本当に死体を発見することになった彼女たちは、予想外の事件に巻き込まれて……。
前作で、剣持麗子の独特のキャラの印象が強いのに、敢えての主人公交代である。とは言え、剣持麗子あっての美馬玉子という印象は拭えない。だが、玉子もなかなか鋭い調査をし、身体を張った仕事をしているところは、この弁護士事務所の女性陣の特徴ということか。弁護士とはなんと危ない仕事であることか。上からのお達しに唯々諾々と従うだけではなく、自分の良心と探求心を抑え込まずに行動を起こすところは、何かあったら弁護を依頼したい、と思わされる頼もしさがある。人助けもしたが、失われた命もあり、その辺りは胸が痛む。長く続くシリーズになるといいな、と思う一冊だった。
琥珀の夏*辻村深月
- 2022/04/18(月) 06:43:15
大人になる途中で、私たちが取りこぼし、忘れてしまったものは、どうなるんだろう――。封じられた時間のなかに取り残されたあの子は、どこへ行ってしまったんだろう。
かつてカルトと批判された〈ミライの学校〉の敷地から発見された子どもの白骨死体。弁護士の法子は、遺体が自分の知る少女のものではないかと胸騒ぎをおぼえる。小学生の頃に参加した〈ミライの学校〉の夏合宿。そこには自主性を育てるために親と離れて共同生活を送る子どもたちがいて、学校ではうまくやれない法子も、合宿では「ずっと友達」と言ってくれる少女に出会えたのだった。もし、あの子が死んでいたのだとしたら……。
30年前の記憶の扉が開き、幼い日の友情と罪があふれだす。
圧巻の最終章に涙が込み上げる、辻村深月の新たなる代表作。
ミステリ要素もあるが、それよりも大事にされているのは、心理面だという印象である。特定の思想に呑み込まれていく心の動きや、人間関係における力関係や忖度、本音と建て前。さまざまな形での心の動きが、とても丁寧に描かれていて、思わず自分自身もその流れに呑み込まれてしまいそうになり、その危うさにどきっとさせられる。結果的に何を信じればいいのかを見失っても、人が人を想う真心からの気持ちは、必ず届くのだと思わせてくれる。根っからの悪人がいないことが、却って背筋がうっすらと寒くなる歪みを感じさせる一冊でもあった。
スープ屋しずくの謎解き朝ごはん 朝食フェスと決意のグヤーシュ*友井羊
- 2022/04/16(土) 07:07:48
シリーズ累計52万部突破! 謎も心もほっこりほぐす、美味しいスープミステリー、最新刊です。
会社主催の朝食フェスの運営に急遽理恵が加わることに。理恵は麻野に声をかけ、スープ屋しずくも出店することになる。
けれど突如、目玉の朝食店ブーランジェリー・キヌムラが出店を考え直したいと言い出す。
説得に行くと、店主の絹村はとある悩みを抱えていて……。
ほか、朝活トークショーに出演予定の人気ブロガーの謎の体調不良や、
開催予定地が使用禁止になるほどトラブルが続く。
理恵たちは無事に当日を迎えることができるのか!?
相変わらず麻野さんの洞察力がお見事過ぎて、ミステリの謎解き披露としてはあっけなさすぎる気もするが、料理や人とのつながりといった別の要素が充実しているので、愉しめることは請け合いである。ただ一点、麻野と理恵の関係だけがこれと言った進展を見せず、もどかしいままなので、次作では一気に詰めてほしいと願ってしまう。ついお腹が鳴りそうなシリーズである。
鑑定人氏家京太郎*中山七里
- 2022/04/15(金) 18:14:47
民間の科学捜査鑑定所〈氏家鑑定センター〉。
所長の氏家は、女子大生3人を惨殺したとされる猟奇殺人犯の弁護士から再鑑定の依頼を受ける。
容疑者の男は、2人の殺害は認めるが、もう1人への犯行は否認している。
相対する警視庁科捜研との火花が散る中、裁判の行く末は——
驚愕の結末が待ち受ける、圧巻の鑑定サスペンス!
科捜研の体質に合わずに退職し、自らが起こした氏家鑑定センターに持ち込まれた猟奇殺人事件の再鑑定が主軸の物語である。「自分の仕事は分析であって、裁くことでも罰することでもない」という自らの心情に従って、課せられた仕事を進めていくのだが、あるところから、科捜研の鑑定結果に疑いを抱き始め、ブラック企業さながらの集中力で、スタッフたちと共に新たな目で証拠集めから取り組むことになる。そして判明した事実は、あまりに衝撃的である。真犯人はある程度のところで予想できてしまうのだが、それをどう扱うかというところに氏家の心情が生かされ、人柄もうかがい知れて好感度が上がるが、内心を慮ると忸怩たるものがある。派手さはなく、縁の下の力持ち的な仕事ではあるが、ぜひシリーズ化してほしいと思わされる一冊である。
五つの季節に探偵は*逸木裕
- 2022/04/13(水) 18:18:10
“人の本性を暴かずにはいられない”探偵が出会った、魅惑的な5つの謎。
人の心の奥底を覗き見たい。暴かずにはいられない。わたしは、そんな厄介な性質を抱えている。
高校二年生の榊原みどりは、同級生から「担任の弱みを握ってほしい」と依頼される。担任を尾行したみどりはやがて、隠された“人の本性”を見ることに喜びを覚え――。(「イミテーション・ガールズ」)
探偵事務所に就職したみどりは、旅先である女性から〈指揮者〉と〈ピアノ売り〉の逸話を聞かされる。そこに贖罪の意識を感じ取ったみどりは、彼女の話に含まれた秘密に気づいてしまい――。(「スケーターズ・ワルツ」)
精緻なミステリ×重厚な人間ドラマ。じんわりほろ苦い連作短編集。
みどりは、いままでにいなかったタイプの探偵かもしれない。謎を解く動機が、依頼人のためでも事務所のためでもなく、ただただ人間の本質を知りたいという欲求だというのである。だから、謎が解けたあげくの調査結果が、依頼人を苦しめたり悲しませたりしても、躊躇なく報告する。その人間味がないとも見える対応は自覚していて、それでもやめることはできないのだった。そんな彼女が解いた謎の物語たちである。最後の章での出会いが、みどりにとっても、要にとっても、これからのためになることを祈らずにはいられない。この先の彼女たちをもっと知りたくなる一冊だった。
捜査線上の夕映え*有栖川有栖
- 2022/04/11(月) 18:25:17
「臨床犯罪学者 火村英生シリーズ」誕生から30年! 最新長編は、圧倒的にエモーショナルな本格ミステリ。
一見ありふれた殺人事件のはずだった。火村の登場で、この物語は「ファンタジー」となる。
大阪の場末のマンションの一室で、男が鈍器で殴り殺された。金銭の貸し借りや異性関係のトラブルで、容疑者が浮上するも……。
「俺が名探偵の役目を果たせるかどうか、今回は怪しい」
火村を追い詰めた、不気味なジョーカーの存在とは――。
コロナ禍を生きる火村と推理作家アリスが、ある場所で直面した夕景は、佳き日の終わりか、明日への希望か――。
コロナ禍で自由に出歩けないから、ちょっと気分転換に、というわけではないだろうが、本作はいつもといささか趣が違い、火村とアリスが捜査協力をお休みして旅に出かける場面がある。とはいえ、そこは火村アリスコンビ、ただの物見遊山であるわけがない。この旅で思わぬ収穫があるのだから、転んでもただでは起きない二人である。謎解き自体は、いささかトリッキーだと思える部分もないわけではないが、心情的には理解できる行動なので、よしとする。犯行動機も、ごく早い段階で、もしかすると・・・、と思わされるような描写もあって、やはりそうだったか、と納得させられた。子ども時代を過ごした場所の影響や、人間関係の複雑さを改めて思わされる一冊でもあった。
楽園ジューシー*坂木司
- 2022/04/09(土) 06:51:39
南国青春ミステリ。あのホテルにまた会える!
ここは楽園じゃないけど、面白いところではある。
「残念なパーマの、残念なハーフ。人呼んでザンパ」。不名誉なあだ名とともに暗黒の少年時代を過ごした青年ザッくん。どん底から救ってくれた親友たちに背中を押されて、沖縄の安宿・ホテルジューシーでバイトをすることに。そこで待ち受けていたのは、おいしい沖縄料理の数々に超アバウトなオーナー代理、そしてやたらと癖のある宿泊客たち。困難に立ち向かいながら、諦めムードだったザッくんの人生が、南風とともに変わっていく……?
初めは、主人公・ザッくんのミックスという見た目での先入観による差別と偏見に苦しむ境遇に同情的で、何とかいじめた人たちの鼻を明かしてやりたい、くらいの気持ちだった。しかし、何となく成り行きで応募してしまった沖縄のホテルジューシーでアルバイトをすることになる中、個性的すぎるホテルの面々や、癖のある宿泊客、と日々接し、それぞれが、傍からはうかがい知れない屈託を抱えながらも懸命に生きているのを目の当たりにし、振り返って自分自身の偏見にも気づかされると、少しずつ見え方が変わってくる。自分の世界にこもって、自分だけの基準や価値観で物事を見ているだけでは、世界のほんとうの姿は見えては来ないのだ。世の中は広くて多様なのだ。他と違うのは自分だけではないのだ。沖縄という、独自の文化と、日米に翻弄される場所だからこそのジレンマも伝わってくる。タイトルや装丁のお気楽さとは裏腹に、さまざま考えさせられる一冊でもあった。シリーズなのだが、単独でも楽しめる。
またあおう しゃばけ外伝*畠中恵
- 2022/04/06(水) 18:01:12
祝、しゃばけ20周年! 累計940万部突破!
文庫でしか読めない、7年ぶりのしゃばけ外伝!
お江戸は日本橋。長崎屋の跡取り息子、若だんなこと一太郎の周りには、愉快な妖たちが沢山。そんな仲間を紹介しようとして楽しい騒動が起きる「長崎屋あれこれ」や、屏風のぞきや金次らが『桃太郎』の世界に迷い込む「またあおう」、若だんなが長崎屋を継いだ後のお話で、妖退治の高僧・寛朝の形見をめぐる波乱を描く「かたみわけ」など豪華5編を収録した、文庫でしか読めない待望のシリーズ外伝。
今回、若だんな・一太郎は、具合が悪くないのに病扱いされて布団に押しつぶされていたり、相変わらず寝付いていたり、時が経って店を継ぎ、商いに出かけていたりと、事件の解決に直接力を貸すことはない。解決に奔走するのはもっぱら妖たちである。だが、みんな、若だんなならこんなときどうするだろうかと考え、若だんなにほんの少しでも害が及ばないようにと慮り、解決の暁には若だんなと一緒に祝うことを楽しみにしたりと、片時も若だんなのことを忘れることはない。そして、いつもに増して厄介なあれこれを、苦労の果てに、若だんなに頼ることなくで解決してしまうのである。お見事。一太郎の活躍が視られないのは、ちょっぴり寂しくもあるが、妖たちが頼もしく見えてくるシリーズ外伝である。
おはようおかえり*近藤史恵
- 2022/04/04(月) 06:38:04
真面目な姉と自由奔放な妹。二人の姉妹に訪れる思いがけない出来事とは――
北大阪で70年続く和菓子屋「凍滝」の二人姉妹、小梅とつぐみ。姉の小梅は家業を継ぐため進学せず、毎日店に出て和菓子作りに励む働き者。 妹のつぐみは自由奔放。和菓子屋を「古臭い」と嫌い、大学で演劇にのめり込みながら、中東の国に留学したいと言って母とよく喧嘩をしている。
そんなある日、43年前に亡くなった曾祖母の魂が、何故かつぐみの身体に乗り移ってしまう。凍滝の創業者だった曾祖母は、戸惑う小梅に 「ある手紙をお父ちゃん(曾祖父)の浮気相手から取り戻してほしい」と頼んできた。
手紙の行方を辿る中で、少しずつ明らかになる曾祖母の謎や、「凍滝」創業時の想い。姉妹は出会った人々に影響されながら、自分の将来や、家族と向き合っていく。
大阪の和菓子屋とその家族の物語である。祖母は引退し、母が店を切り盛りし、父は東京に単身赴任している。長女の小梅は、保守的で真面目、妹のつぐみは、自由奔放。そんな姉妹それぞれの生き方と、突然つぐみの身体に降臨した曾祖母の秘密がリンクして、自らの出自を考えたり、家族の在り方や、生き方を考え直すようになる。ひとつの家族の物語ではあるが、それぞれが我が身に引き寄せて考えさせられる一冊でもあるように思う。
若旦那のひざまくら*坂井希久子
- 2022/04/02(土) 05:35:25
長谷川芹は百貨店に勤めるアラフォー。
彼女が惚れたのは、一回りも下の、京都老舗の御曹司だった!
結婚を目指すも、両親に拒まれ、若く美しきライバルに翻弄される。
それでも彼と一緒になるため、イケズなあいつらになんて負けないと誓うが――
人情小説の名手がおくる、西陣を舞台に織りなされる愛と着物の感動物語!
東京から京都の老舗に嫁ぐ難しさ、しかも夫になる充は11歳も年下となると、一筋縄ではいかない。京都西陣で、理不尽に耐えながら老舗を守り、家の裡を守ってきた彼の母にしてみれば、何も知らずにぽっとやってきた嫁候補・芹が、著しく場違いに見えたことだろう。ことあるごとにイケズをされ、しかも若く美しく、京都を知り抜いているライバルまでいるのである。それでも、芹と充の絆は強く、充が全面的に芹の味方でいてくれることが何より心強い。織物のことに関しても、向かう目的はひとつでも、あれこれ食い違う考え方の溝をひとつずつ埋め、新しい風を吹き込んでいく様子が、心を湧き立たせてくれる。キルト作家の芹の母の力も借りて、未来が見えてくる。できれば渦中には巻きこまれたくない物語ではあるが、人間としての資質が大切だと思わせてくれる一冊でもある。
- | こんな一冊 トップへ |