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アクトレス*誉田哲也
- 2022/05/31(火) 07:07:17
人気女優が発表した小説をなぞるように「事件」が起こる。偶然とは思えないが、誰が何のために模倣したのかは見当もつかない。真相に近づこうとしたとき、ふたたび逃れられない悲劇が彼女たちに忍び寄る……。ドラマ化も話題となった『ボーダレス』に続く最新書下ろし長編!
「ボーダレス」その後、と言った物語だが、本作単独でも何の問題もなく読める。核になる事件そのものは、そこへ行きつくまでの当事者の心理は別として、さほど複雑なものではなく、筋は読めてしまうのだが、事件の核心に至るまでの外堀固めがいささか迂遠で、読者をどこへ連れて行きたいのかがなかなか見えてこなかった。ラストは、なんだかみんなすっかり仲良くなって、ハッピーな感じなので、よかったのだろう。彼女たちが前向きに生きていくことを願ってしまう一冊だった。
11の秘密 ラスト・メッセージ*アミの会(仮)
- 2022/05/27(金) 18:19:36
最後に届けたかったのは――。
隠された幻の家訓、ある一族の謎めいた掟、読まれるはずのなかった遺言……
さまざまな形で残された<ラスト・メッセージ>とは?
秘められた思いが届くとき、驚きの結末に心揺さぶられる……
各ジャンルで活躍する実力派女性作家11名による、豪華アンソロジー!
大崎梢/近藤史恵/篠田真由美/柴田よしき/永嶋恵美/新津きよみ/ 福田和代/松尾由美/松村比呂美/光原百合/矢崎存美
最後のメッセージと言ってもさまざまである。11名の女性作家それぞれのメッセージは、時にはやさしく、また時にはさらなる謎をもたらし、腑に落ちたり、驚かされたり、長年のもやもやが解消されたりと、それらがもたらす効果もさまざまである。ささやかな謎解きを楽しみながら、さまざまな人たちが最後に伝えたかった思いを愉しんだ一冊である。
おしゃべりな部屋*川村元気 近藤麻理恵
- 2022/05/24(火) 18:01:24
近藤麻理恵が片づけてきた1000以上の部屋にまつわる実話を基に、川村元気が紡ぐ7つの部屋の物語。
気鋭の絵本作家・大桃洋祐のカラーイラストを40点以上収載。読売新聞連載時から話題沸騰の小説がついに単行本化!
わたし、橙木ミコには、誰にも言えない秘密がある。
部屋にある、モノの声が聞こえてしまうのだ。服や靴、本や家具がみな、話しかけてくる。
わたしは、依頼された家の“片づけ"を手伝う仕事をしている。
今、わたしの隣にいる片づけの相棒はボクス。おしゃべりな小箱だ。
どうして、片づけが仕事になったのか? どうやって、モノの声が聞こえるのか?
そもそも小箱が相棒って、どういうこと?
きっとあなたは不思議に思うだろう。けれども、これはどれも本当の話。
わたしが片づけてきた部屋は、千を超えた。
服を手放せない主婦、本を捨てられない新聞記者、なんでも溜め込んでしまう夫婦、好きなものが見つけられない少女、死の間際に片づけを決意する老婦人……。
部屋の数だけ、そこに暮らす人と、おしゃべりなモノたちとの思い出がある。
今からすこしだけ、その話を聞いてもらえたらと思う。
これはわたしが実際に体験した、すこし不思議な七つの部屋にまつわる物語だ。
大桃洋祐さんのイラストが、とてもよく合っていて、魅力を引き立てている。
片付けのプロ近藤麻理恵さんの実体験をもとに描かれているので、身につまされる部分が多々ある。そして、片付けは、決して片手間やその場しのぎでできるものではないということがよくわかる。たっぷりの時間と、気持ちの余裕がなければ、手をつけてはいけない。我が身を振り返り、いざ片づけることを想像すると、あまりの途方もなさにくらくらする。とは言え、このやり方で片づけたら、リバウンドはしないだろうと納得もする。ときめきを感じたくなる一冊である。
絶対解答可能な理不尽すぎる謎*未須本有男
- 2022/05/23(月) 06:47:09
七人の素人探偵が、ともに日常の謎を解く! 現代における「謎」は複雑すぎて、天才探偵が、たった一人で解決できる時代ではない! 理系作家が新たに提案するのは、「特殊な専門性」を持つ七人の素人探偵たちが、「理不尽すぎる謎」を解き明かす「新感覚ミステリー」! ミステリー作家・高沢のりおの周囲には、「謎」に満ちた事件が起きる。
高沢は、自宅で何者かに殴られ、血を流して仰向けに倒れていた。相談があるといって呼び出されていたデザイナーや、ワイン評論家、編集者らが、「美人の罠に陥った」小説家殴打事件の謎を解く。知れば必ず人に話したくなる「うんちく」が満載のミステリー短篇を六話収録。 「大相撲殺人事件」の著者であり、ミステリー評論家 小森健太朗氏も「登場する作家・高沢のりお って、俺だよね!?この名探偵ものへの大胆な挑戦状を受けて立つ! 」と大絶賛!
日常の中にあるちょっとした謎を、複数人で解き明かすという趣向の連作短編集である。探偵役は、探偵としてのプロではなく、誰かのつてをたどって知恵を寄せ合うことになった、さまざまな分野でのプロたちなのである。ひとりでは解決できない事々も、それぞれの知識を持ち寄ることで、解決可能になる。一度その快感に味を占めた後は、七人が、次の機会にも自然に七人として行動するようになるのもおもしろい。人脈の妙も感じられるし、同じ場面を目にしたときのそれぞれの目のつけ所の興味深い。面白い趣向の一冊だった。
私の盲端*朝比奈秋
- 2022/05/20(金) 18:34:12
現役医師の著者によるデビュー作。大学生になった涼子は飲食店のアルバイトや学校生活を謳歌していたがある日、不幸が襲う。不自由な生活を強いられる中で、その意識と身体の変容を執拗に描く表題作に加え、第7回林芙美子文学賞受賞作「塩の道」も併録。
どちらの作品も、扱っている内容が重くて、ひとつひとつ噛みしめながら読みすすめ、読んでいないときにも、頭のなかをさまざまな思いが渦巻く。表題作は、オストメイトになった女性の物語、「塩の道」は看取りと土地柄と医師のかかわり方の物語。題材は重いのだが、語り口はどちらも淡々としていて、ことさら煽ることもなく、沈むこともないのが、却って胸に突き付けられるようでずしんとくる。描写がリアルで、知らないことが多く、揺さぶられるような一冊だった。
珈琲店タレーランの事件簿7 悲しみの底に角砂糖を沈めて*岡崎琢磨
- 2022/05/17(火) 16:40:15
累計235万部突破! 大人気喫茶店ミステリー
女性バリスタは安楽椅子探偵――
ビブリオバトル決勝大会で起きた実際の出来事をはじめ、
日常にさりげなく潜む謎のかけらを結晶化したミステリー短編集!
全国高校ビブリオバトルの決勝大会にて、プレゼンの順番決めの抽選でトラブルが発生。くじに細工をしたのはいったい誰か。
話を聞いていたバリスタの口から、思わぬ真実が告げられる。(「ビブリオバトルの波乱」)。
ほか、ハワイ旅行をめぐるオカルト譚「ハネムーンの悲劇」、幼少期の何気ない思い出に隠された秘密が暴かれる「ママとかくれんぼ」など、ショート・ショートも含む全7話を収録。
現実に体験したことをきっかけにした物語ということで、いままでの流れとはいささか趣が異なり、そのせいか、美星さんの活躍もいつもより抑えめな印象だったが、テイストの違うストーリーがいくつも愉しめたのはよかった。ただ、コーヒーはおいしそうだが、会話がすべて筒抜けになってしまう珈琲店では、あまりおしゃべりしたくはないな、とは思ってしまう。次回作はいつもの流れに戻って、アオヤマさんとも進展があるといいなと思うシリーズである。
一九六一東京ハウス+真梨幸子
- 2022/05/16(月) 06:35:26
六十年前の団地体験で賞金五百万円――って、これ現実!? 昭和と令和が交錯するイヤミス新次元! 賞金につられてリアリティショーに集まった二つの家族。古き佳き時代であるはずの昭和の生活は、楽じゃないどころか、令和の今より地獄の格差社会。お気楽バラエティのはずが、外野も巻き込みどんどん不穏になっていく現場は疑心暗鬼で大荒れの末、まさかまさかの超展開。次々と起こる惨劇は虚構か、現実か!?
1961年の団地生活を体験することで500万円の賞金がもらえるというリアリティショーに応募した二組の家族。個人的には昭和の暮らしを懐かしさとともに思い出すという楽しみもあったが、昭和を知らない世代でも、新鮮な驚きとともに楽しめるのではないかと思う。初めのうちは、当時憧れだった団地生活をのぞき見する感じで読み進めるが、途中で様相がガラッと変わり、さらに過去にさかのぼる事件につながっていくと、背筋が凍るような恐怖に陥れられる。一体だれが何のために企てたことなのか。犯人捜し、理由さがしに興味が向かうが、最後の最後までもやもやと消化しきれない思いが蓄積されていく。まさにイヤミス。入れ子構造がさらにイヤ度を増している一冊だった。
わたし、定時で帰ります。ライジング*朱野帰子
- 2022/05/14(土) 18:25:12
絶対に残業しない東山結衣vs.どうしても残業したい部下!? 真の敵は――。定時帰りをモットーとする結衣の前に現れた、何故か残業したがる若手社員。その理由を知った結衣は、給料アップを目指し、人事評価制度の改革を提案することに。しかし、様々な思惑に翻弄され、社内政治に巻き込まれてしまう。長期出張中の晃太郎との将来にも不安が募り……。新時代の働き方を問う、大人気シリーズ第三弾!
脳内ではすっかりドラマの配役で再生されてしまい、映像の力のすさまじさを思い知らされる。もう元には戻れない。とはいえ、出世欲がないまま、定時で帰るために効率よく仕事をこなし、何となく次世代のリーダーに祭り上げられてしまう結衣には、吉高由里子さん、ぴったりではないか。今回も、残業をしたがる部下や、事なかれ主義の創立メンバーとの関係に悶々とし、いつでも忙しすぎる晃太郎との将来にも不安を抱えて、それでも日々会社のために、部下たちのために、闘っているのである。新人プログラマーの八神の登場はいささか唐突なきがしなくもないが、彼女の力もずいぶん結衣の味方をしてくれたと思う。八神なくしてはこのストーリーは成り立たなかっただろう。晃太郎と二人、穏やかな時間が持てますようにと祈るが、この先もあまり望めそうな気はしない。ますます厄介事が舞い込みそうな予感を残してのラストである。次なるハードルは何だろう、と楽しみになるシリーズではある。
シャルロットのアルバイト*近藤史恵
- 2022/05/12(木) 19:02:26
シャルロットは七歳の雌のジャーマンシェパード。賢いけれど、普段はのんきな元警察犬。彼女と一緒にいると、いろんな事件に遭遇する。向かいの家には隠されたもう一人がいる? 偶然関わることとなったドッグスクールの不穏な噂とは? シャルロットとの日々は、いつもにぎやかで、時々不思議。謎に惑い、犬と暮らす喜びに満ちた極上のコージーミステリー!
共働き夫婦と、元警察犬のジャーマンシェパードのシャルロットとの日々に出会う、ちょっとした謎や疑問を、小気味よく解決していく物語。浩輔と真澄それぞれの考え方や思いやり方、犬に対する愛情のかけ方など、理想に近いように見えて好感が持てる。それは、著者ご自身の犬に対する考え方が色濃く反映されているのかもしれない。そして、シャルロットはもちろん、他の犬たちの描かれ方も、それぞれの個性が際立っていて、犬好きでないとできないのではないかと思われる。謎解きの過程にもやさしさと思いやりがあふれていて、不穏になりかける気持ちを穏やかにしてくれる。二人と一匹のこれからをもっと見たいシリーズである。
勿忘草の咲く町で ~安曇野診療記~*夏川草介
- 2022/05/09(月) 18:31:33
たとえ命を延ばせなくても、人間にはまだ、できることがある。
看護師の月岡美琴は松本市郊外にある梓川病院に勤めて3年目になる。この小規模病院は、高齢の患者が多い。 特に内科病棟は、半ば高齢者の介護施設のような状態だった。その内科へ、外科での研修期間を終えた研修医・桂正太郎がやってきた。くたびれた風貌、実家が花屋で花に詳しい──どこかつかみどころがないその研修医は、しかし患者に対して真摯に向き合い、まだ不慣れながらも懸命に診療をこなしていた。ある日、美琴は桂と共に、膵癌を患っていた長坂さんを看取る。妻子を遺して亡くなった長坂さんを思い「神様というのは、ひどいものです」と静かに気持ちを吐露する桂。一方で、誤嚥性肺炎で入院している88歳の新村さんの生きる姿に希望も見出す。患者の数だけある生と死の在り方に悩みながらも、まっすぐに歩みを進める2人。きれいごとでは済まされない、高齢者医療の現実を描き出した、感動の医療小説!
東京の花屋の息子・桂正太郎が、信濃大学進学を機にやってきた安曇野に魅せられ、小規模病院で研修医として勤める日々の物語である。三年目の看護師・月岡美琴と知り合い、忙しく気が抜けない日々のなかにも喜びやしあわせを感じる時間はあるが、高齢患者たちの病状や治療や看取りの方針、家族との関わり方など、学ぶべき、悩むべき事柄が多すぎる。それらひとつひとつに、生真面目に真摯に向き合う桂の姿に、思わず応援したい気持ちが湧いてくる。きっといい医者になるだろうと思われるが、本人にとっては気の休まるときがないだろうとも案ぜられる。美琴とふたりで、悩みながら乗り越えて行ってほしいものである。指導医の「小さな巨人」こと三崎先生も人間として格好いい。この先も見守りたくなる一冊である。
ランチ探偵 彼女は謎に恋をする*水生大海
- 2022/05/07(土) 06:52:28
すべての構図が、見えました――
美味しい謎を、いただきます!
ランチ合コンにいそしむ阿久津麗子と謎には目がない天野ゆいかの迷コンビには、
コロナ禍のなかでも新たな出会いが待っていた。
学校の廊下に置かれていたお稲荷さん、百貨店に届いた不穏な脅迫メール、
キッチンカーへの嫌がらせ…合コン相手が持ち込む謎に目を輝かせ推理するゆいかに、
麗子は天を仰ぎ…。
恋の行方も気になる本格グルメミステリー。 目次
MENU1 お稲荷さん、いまは消え
MENU2 アンモナイトは百貨店の夢を見るか
MENU3 ずっとお家で暮らしてる
MWNU4 五月はたそがれの国
MENU5 天の光は希望の星
解説/青木千恵
ランチ合コンも、コロナ禍の影響でままならないことが多い。それでも新作を出す著者の意気込みに拍手である。というか、出会いの探求者・麗子さんの意気込みに突き動かされた結果かもしれない。一方のゆいかはあまり気乗りしないようだが、そこは麗子さんの秘策で背中を押す場面も。ままならないとはいえ、おいしそうな料理の描写は相変わらずで、思わずのめり込んでしまう。今回も、ゆいかの観察眼と洞察力が冴えていて、オンライン上でもそれは変わらないようである。早く当たり前のランチ合コンができるようになることを祈りたくなるシリーズである。
月曜日は水玉の犬*恩田陸
- 2022/05/04(水) 17:59:17
「物語」は、決して尽きない。
この世に輝く数多のエンターテインメントを
小説家・恩田陸とともに味わい尽くす――。
『土曜日は灰色の馬』『日曜日は青い蜥蜴』に続く第3弾! 、強烈で贅沢な最新エッセイ集
――いろいろな意味ですごい世界になったものだが、逆にリアル書店で過ごす時間、リアルに対面で読んだ本や観た映画について語り合う時間、酒を酌み交わしつつとりとめのない雑談をする時間のありがたみと幸せを、しみじみと感じてしまう。
この本で、私のそんな雑談をひととき楽しんでいただければ幸甚である。
(「あとがき」より)
前の二作品は未読だが、エッセイ集という名の読書案内と言った趣である(非常に偏りはあるが)。著者が惹かれた箇所が、すでにマニアックで、紹介される作品と共に、恩田陸という人そのものを味わうような一冊である。
シェア*真梨幸子
- 2022/05/02(月) 16:48:22
そのシェアハウスは、いわくつき物件だったーー都心の古民家シェアハウス「さくら館」。あやしい六人の女性入居者たち、床下から発見されたとんでもないもの、この家の過去にまつわる奇妙な噂・・・・・・ワケあり女たちの入り乱れる思惑に翻弄される衝撃作!
その目的のために、そんなところから取り掛かるか、という疑問はとりあえず於くとして、キラキラネームの悲劇に目をつけた人集め、というのがまず斬新で、集められた年代も絶妙であり、それだけで「さくら館」という舞台設定は整ったと言えるような気がする。ネットの世界とリアルの世界の祖語や、不動産会社の黒い思惑が絡み合い、ストーリーはどんどん悲惨な方へとなだれ込んでいく。後の取材で、さまざまな裏話が明らかになり、見えていた以上の泥沼が露呈され、おぞましさはいや増す。首謀者のあの人や、取材する側のあの人たちが残っているので、事件が終わった気が全くしない。いつかどこかで同じようなことが繰り返されそうで、ぞっとする。抜け出せない泥沼に引き込まれそうな気分の一冊だった。
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