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五つ星をつけてよ*奥田亜希子

  • 2022/08/31(水) 17:50:05


既読スルーなんて、友達じゃないと思ってた。ディスプレイに輝く口コミの星に「いいね!」の親指。その光をたよりに、私は服や家電を、そして人を選ぶ。だけど誰かの意見で何でも決めてしまって、本当に大丈夫なんだろうか……? ブログ、SNS、写真共有サイト。手のひらサイズのインターネットで知らず知らずに伸び縮みする、心と心の距離に翻弄される人々を活写した連作集。


表題作のほか「キャンディ・イン・ポケット」 「ジャムの果て」 「空に根ざして」 「ウォーター・アンダー・ザ・ブリッジ」 「君に落ちる彗星」

果てしなく広いようで意外に狭いインターネットの世界に身を置いた主人公たちの、虚構と現実のはざまを見せつけられるようである。どうにもならない現実から逃れるためにネットを利用し始めたはずが、知らず知らずネットの裏側に潜む落とし穴や悪意に囚われていく様が、見ていてやるせない。どの物語も胸にずしんとくる要素があり、ネットのなかにいるのも外にいるのも同じ人間なのだということを考えさせられる。興味を惹きつけられるが、胸の痛みも感じずにはいられない一冊である。

喧騒の夜想曲

  • 2022/08/30(火) 06:50:48


ミステリーの協演を味わい尽くす!最旬15作家による魅惑のアンソロジー下巻。赤川次郎、芦沢央、天祢涼、太田忠司、恩田陸、呉勝浩、近藤史恵、知念実希人、長岡弘樹、新津きよみ、東川篤哉、東山彰良、深緑野分、前川裕、米澤穂信、全15名の作品を収録。


ひとつひとつは短いので、あっという間に読めてしまうのだが、それぞれにテーマも扱い方も違っていて、味わいながら愉しめる。そして、犯人の真意に気づいたときに、さらに背筋が寒くなる。贅沢な宝箱のような一冊である。

レンタルなんもしない人のなんもしなかった話*レンタルなんもしない人

  • 2022/08/27(土) 09:33:12


「ごく簡単な受け答え以外、できかねます」
twitter発、驚きのサービスの日々。

本当になんもしてないのに、次々に起こる
ちょっと不思議でこころ温まるエピソードの数々。

行列に並ぶ、ただ話を聞く、絵画のモデルになる、一人カラオケに付き合う、
掃除をしているのを見ている、ドラマに出演する、行けなかった舞台を代わりに見る、
カレーを一緒に食べる、ヘッドスパを受ける、裁判の傍聴席に坐る、映画を見る、
ボウリングに付き合う、ブランコをこぐのを見守る、ラーメンを食べる、深夜の徘徊に同行する、
言われたとおりのコメントをDMで返す、離婚届に同行する、なんもしないホストになる……etc

「なんもしない」というサービスが生み出す「なにか」とは。

2018年6月のサービススタートから、
2019年1月31日「スッキリ」(日本テレビ)出演まで、
半年間におこった出来事をほぼ時系列で
(だいたい)紹介するノンフィクション・エッセイ。


レンタルなんもしない人の存在は、ドラマで初めて知った。本書は、Twitterで日々つぶやかれる依頼内容や雑感などがまとめられ、時折O&Aが挿みこまれていて、一般的とは言えない彼の職業(?)に対する疑問も少しは解決するかもしれない。依頼者とともに行った場所や、見たもの、Twitterを通して寄せられたそもそもの依頼内容などの写真も載せられているが、よくある脚注という形ではなく、該当箇所から吹き出しを欄外まで引っ張るような形式になっているので、よりTwitterらしさと臨場感も味わえる。「なんもしない」ことの使われ方の多様性にも目を瞠るし、サービス開始初日はともかくとして、二日目から途切れずに依頼があることにも驚く。いまや、ある種のイベント的にもなっている印象もあるが、切羽詰まった悩みが解消されることもあるようで、なかなか奥が深い。レンタルなんもしない人ご自身も興味深いが、依頼される人たちの心理がまた興味深い。いままでになかった読書体験ができた一冊だった。

棘の家*中山七里

  • 2022/08/25(木) 07:01:40


家族全員が、容疑者だ。

穂刈は、クラスで起こるいじめに目を反らすような、事なかれ主義の中学教師だった。
しかし小6の娘がいじめで飛び降り自殺をはかり、被害者の親になってしまう。
加害児童への復讐を誓う妻。穂刈を責める息子。家庭は崩壊寸前だった。
そんな中、犯人と疑われていた少女の名前が何者かにインターネットに書き込まれてしまう。
追い込まれた穂刈は、教育者としての矜持と、父親としての責任のあいだで揺れ動く……。


いじめにまつわる物語。加害者、被害者、正義感、事なかれ主義、保身、悪意、憎悪、場当たり的行為、社会的抹殺、ネット社会の闇、などなど、いじめにまつわる、と言っても、あまりにもさまざまな要因と派生することごとがあり、読み終わった後でも、どこで対処を間違ったのか、どこでどうするのが正解だったのかがわからない。人は、自分の置かれた立場でしか判断できないものだということがよくわかる。立場を変えると、見える世界が変わり、どんな行動を起こすかも変わってくる。じわじわとしみ込んでくる現実的な恐ろしさもある一冊だった。

共犯関係

  • 2022/08/23(火) 07:17:36


わたしたちは永遠の共犯者。二度と離れることはない―(「Partners in Crime」)。夏祭りの日、少年は少女と町を出る(「Forever Friends」)。難病におかされた少年に起こった奇跡(「美しき余命」)。“交換殺人してみない?”冗談のはずが、事態は思わぬ方向に(「カフカ的」)。苦境の作家の会心作。だが酷似した作品がインターネット上に―(「代償」)。五人のミステリ作家が描く、共犯者たち。驚愕のアンソロジー。


秋吉理香子、友井羊、似鳥鶏、乾くるみ、芦沢央各氏が独自の共犯関係を描き出している。それぞれ趣が違い、そしてどれも怖い。合意の上での共犯関係、なし崩し的な共犯関係、慮りからの共犯関係、などなど、現実にも陥りそうで、一瞬ヒヤッとする。世の中にはこんなにも危うい共犯関係があふれているのかと思い知らされる一冊である。

人面島*中山七里

  • 2022/08/21(日) 06:35:22


隠れキリシタンの島で起きた、密室殺人の謎

相続鑑定士の三津木六兵の肩には人面瘡が寄生している。毒舌ながら頭脳明晰なその怪異を、六兵は「ジンさん」と呼び、頼れる友人としてきた。
ある日、六兵が派遣されたのは長崎にある島、通称「人面島」。村長の鴇川行平が死亡したため財産の鑑定を行う。島の歴史を聞いた六兵は驚く。ここには今も隠れキリシタンが住み、さらに平戸藩が溜め込んだ財宝が埋蔵されている伝説があるという。
一方、鴇川家にも複雑な事情があった。行平には前妻との間に長男・匠太郎と後妻との間に次男・範次郎がいる。だが二人には過去に女性をめぐる事件があり、今もいがみ合う仲。さらに前妻の父は島民が帰依する神社の宮司、後妻の父は主要産業を統べる漁業組合長である。
そんななか、宮司は孫の匠太郎に職を継ぐべく儀式を行う。深夜まで祝詞を上げる声が途切れたと思いきや、密室となった祈祷所で死んでいる匠太郎が発見された。ジンさんは言う。「家族間の争いは醜ければ醜いほど、派手なら派手なほど面白い。ああ、わくわくするなあ」戸惑いながらも六兵は調査を進めるが、第二の殺人事件が起きて――。
毒舌人面瘡のジンさん&ポンコツ相続鑑定士ヒョーロク、今度は孤島の密室殺人に挑む!


シリーズ二冊目である。今回の舞台は離島。しかも、隠れキリシタンの島で、そこの権力者の一族は、いがみ合いながらも同居している。そこへ、三津木が相続鑑定の依頼を受けて出向くのである。おりしも台風が接近し、船は出ず、停電し、と横溝ワールドさながらな状況になる中、殺人事件が起こる。今回も、ヒョーロクはジンさんに罵倒されながらも、特殊な人間関係や状況を把握しながら、真相に迫っていくのである。横溝的でありながらも、現代的な軽やかさもあり、物語の深刻さはともかく、二人の次の旅が愉しみなシリーズである。

マイクロスパイ・アンサンブル*伊坂幸太郎

  • 2022/08/18(木) 07:04:57


どこかの誰かが、幸せでありますように。
失恋したばかりの社会人と、元いじめられっこのスパイ。
知らないうちに誰かを助けていたり、誰かに助けられたり……。
ふたりの仕事が交錯する現代版おとぎ話。

付き合っていた彼女に振られた社会人一年生、
どこにも居場所がないいじめられっ子、
いつも謝ってばかりの頼りない上司……。

でも、今、見えていることだけが世界の全てじゃない。
優しさと驚きに満ちたエンターテイメント小説!

猪苗代湖の音楽フェス「オハラ☆ブレイク」でしか手に入らなかった
連作短編がついに書籍化!


あとがきを読んで、本作の作りに合点がいった。年に一度行われる音楽フェスで配られる読み物として始まったものだったのだ。それが、毎年続き、作品中の人々もひとつずつ年を取っていく。ストーリーの本体は、舞台が猪苗代湖という以外にはほぼ無関係だが、折々に挿みこまれる曲の歌詞は、フェスに参加するアーティストのものらしい。そして、猪苗代湖周辺では、社会人になりたての男が悩み、喜び、さまざまな体験をして歳を重ね、その足元には、男の知らない小さな世界で、スパイ戦争が繰り広げられている。二つの世界が、落とし物などで絶妙に交差するのが、価値観や見え方の違いもあって興味深く、ハラハラドキドキさせられる。どこで何が誰の役に立っているか判らない、そんなことをも思わされる。平凡でスペクタクルでやさしい一冊だった。

誰かがこの町で*佐野広実

  • 2022/08/17(水) 06:58:38


高級住宅街の恐ろしい秘密。住民たちが隠し続けてきた驚愕の真実とは?

人もうらやむ瀟洒な住宅街。その裏側は、忖度と同調圧力が渦巻いていた。
やがて誰も理由を知らない村八分が行われ、誰も指示していない犯罪が起きる。
外界から隔絶された町で、19年前に何が起きたのか。
いま日本中のあらゆる町で起きているかもしれない惨劇の根源を追うサスペンス!
江戸川乱歩賞受賞第一作。


町全体が何かに呑み込まれているような、言い知れぬ恐ろしさが漂ってくる。しかも、個々人の裡にも同じような感情がうずくまっていることに、関わる人たち自身が少しずつ気づいていき、葛藤を深めていくのがさらに恐ろしい。ただ単に同調圧力と言っていい限度を超え、もはや洗脳と言っても言い過ぎではないのかもしれない。洗脳が解けたときの町の住民たちの苦しみを想像するのも恐ろしい。この事件には一応の答えが出たが、ここではないどこかで、同じようなことが起こっているかもしれないと思うと、背筋がぞくっとする一冊である。

夏鳥たちのとまり木*奥田亜希子

  • 2022/08/14(日) 18:23:20


中学教師の葉奈子は中二の夏、ネットの掲示板で声をかけてきた男のもとに身を寄せた。
そこは、母親から放置されていた葉奈子が逃げ込んだ場所だった。
だが、教え子の女子生徒が抱える秘密と、15年前の夏の記憶が重なったとき、ひとつの真実が立ち上がる――。
心に傷を負ったまま生きる中年男性教師の再起を絡めて描く、希望と祈りの物語。


未成年者誘拐というひとつの要素を芯に据えて、そこに行きつくまでの現実的な心の問題や、誘拐した側とされた側の意味付け方、周囲の反応、渦中にある者と客観視する者とのギャップなどなど、ただひとつの正解などない問題を描き、さらには、過去にさまざまな体験をしてきたひとりの人間としての教師の在り方をも絡めて、物語が進んでいく。誰もが、自分が抱える問題で飽和状態になり、ひととき羽を休める場所を求める。それが良いことなのか悪いことなのかは、その時にはわからず、そこから逃げ出せて時が経ってからやっとわかることなのかもしれない。胸がぎゅっと締めつけられるような一冊だった。

ついでにジェントルメン*柚木麻子

  • 2022/08/13(土) 09:28:41


分かるし、刺さるし、救われる――自由になれる7つの物語。

編集者にダメ出しをされ続ける新人作家、女性専用車両に乗り込んでしまったびっくりするほど老けた四十五歳男性、男たちの意地悪にさらされないために美容整形をしようとする十九歳女性……などなど、なぜか微妙に社会と歯車の噛み合わない人々のもどかしさを、しなやかな筆致とユーモアで軽やかに飛び越えていく短編集。


それぞれの物語の主人公のように、実際に行動に移すかどうかはさておき、心のなかのこととしては共感できる部分が多いと思う。普段、胸にしまってあるモヤモヤを、ここまで解放して描き出し、さらには、コメディタッチでありながら、ふと切なさやるせなさを感じさせられるのは、芯がしっかりあるからだろう。さらっと読める風で、さまざま考えさせられる一冊でもある。

放課後レシピで謎解きを うつむきがちな探偵と駆け抜ける少女の秘密*友井羊

  • 2022/08/10(水) 18:08:19


凸凹女子高生コンビが事件を解決!
内気で人見知りの結×猪突猛進でトラブル多発の夏希
苦くて甘い、極上の料理×青春ミステリー いきなり文庫!

猪突猛進でトラブルを起こしがちな夏希は、高二になって調理部へ転部する。同じ時期に入部してきたのは、内気なクラスメイトの結。正反対の二人は部活で一緒にパンを焼くことに。でも、なぜか夏希たちの作ったパンだけが膨らまない! 原因を究明しようと奔走するうち、お互いのことを知っていく二人。やがて周囲との関係も変化して……。少女たちの友情がきらめく、極上の料理×青春ミステリー。


高校で起こる出来事の謎を推理し、実際に調理してみることで解き明かす。料理は化学、ということで、化学変化による料理の出来具合から、失敗の原因を突き止めたり、犯人を特定したりするのが興味深い。さらには、人間関係や、個々人の特性までをも織り交ぜ、さまざま考えさせられる内容になっている。結と夏希が周りを巻きこみながら、少しずつ成長していく姿を応援したくなる一冊だった。

剣持麗子のワンナイト推理*新川帆立

  • 2022/08/09(火) 07:14:44


亡くなった町弁のクライアントを引き継ぐことになってしまった剣持麗子。
都内の大手法律事務所で忙しく働くかたわら、業務の合間(主に深夜)に一般民事の相談にも乗る羽目になり……。
次々に舞い込む難題を、麗子は朝までに解決できるのか! ?

法律相談に運動会(?)に、剣持麗子は今日も眠れない!


不本意ながら、放っておけない巷の厄介事に毎回首を突っ込むことになる剣持麗子の物語である。事件がらみで知り合ったホスト・武田信玄(源氏名、本名は黒丑)をアルバイトの助手にして、少しは雑用を任せられるようにはなったが、今度は当の黒丑に不信感を抱くことになる。異なるいくつかの事案に、夜中に立ち会うことになるが、どの事案にも黒丑の影がつきまとうのである。麗子の夜は、さらに不穏なものになるのである。黒丑の件が回収されていないので、次があるのは確定と思われるが、先の展開が愉しみなシリーズになってきた。

嘘つきは殺人鬼の始まり*佐藤青南

  • 2022/08/07(日) 18:28:32


累計75万部突破「行動心理捜査官・楯岡絵麻」シリーズの著者が描く新作は、就職活動! ? SNSの裏アカウント特定を生業とする潮崎真人は採用面接中の学生のSNSの調査をする。アナウンサー志望の灰原茉百合は裏アカウントを持ち、そこでデリヘル嬢をしていたことが発覚し、不採用となった。茉百合に存在をつきとめられ責められた潮崎は、なんやかんやでバディを組むことに。潮崎たちは、あるSNSアカウント主が殺人犯ではないかと疑うも警察は証拠がないと動けないと言われ、ふたりは証拠集めに乗り出すことに。しかしその矢先、潮崎の裏アカ調査に利用していた本アカウントの人物が何者かに殺害される。責任感の強い茉百合に感化された潮崎は、絶対絶命の危機に陥りながらも、驚天動地の真相にたどり着く!


SNSの裏アカウントという、現代の吹き溜まりのような要素をメインに据えた物語。裏垢を悪用する人、それを暴く人、さらにそれを利用する人と、それぞれの思惑でさまざまな立場の人が登場する。みんな多かれ少なかれ嘘つきばかりなのだが、誰がいちばん嘘つきかというと、ラスト近くに潮崎が想像した通りなのかもしれない。それはそれとして、表裏に関わらず、SNSでの個人の特定があんなに簡単なものなのかと、そちらに驚愕する。恐ろしい世界である。あくまでも脇役である公文の男気が格好良かった。ラストはいささか救いがなかった気がしなくもないが、それだけ責任の重さを自覚するべきだということでもあるだろう。さまざま考えさせられる一冊でもあった。

天空の密室*未須本有生

  • 2022/08/06(土) 16:31:17


令和X年クルマが東京の空を飛ぶ!!
空飛ぶクルマ『エアモービル』研究開発の光と影をえぐる本格ミステリー
自動車部品メーカー・モービルリライアントは、さらなる発展を期して航空業界へと進出した。下請け体質からの脱却を図るべく新規事業を立ち上げ、1人乗り飛行体・エアモービルの開発に乗り出す。試行錯誤の末、試作3号機は公海上での飛行試験までこぎつけたが……
湾岸の高層オフィスビルの屋上にバラバラ死体が入ったスーツケースが置かれていた。その場所へは警備システムが完備した屋内非常階段を上がるか、ヘリコプターで空からアクセスするしか方法がない。だがいずれもその形跡がなく、死体がどうやって運ばれたか特定できないまま捜査は難航する。


空飛ぶ車の開発と実証実験への困難な道筋、中学時代のいじめとその後の関係、理不尽な対応に対する怒り、などなど、さまざまな要因が重なった末の殺人事件であるが、発見された場所が、ほとんど出入りのない高層ビルの屋上ということで、捜査は難航する。だが、ある時突然事態は急展開を迎えることになる。それがまさかこんなことだとは。いままでにない、謎解きで、新鮮ではあるものの、ミステリとしてはどうなのか、という気持ちもなくはない。とはいえ、現実的に車が空を飛ぶことが日常になったら、ミステリの在りようもいまとは変わってくるのかもしれないとも思わされた一冊だった。

時計や探偵の冒険 アリバイ崩し承ります2*大山誠一郎

  • 2022/08/03(水) 18:36:52


パーティ出席者500人
全員が証人!
時乃はアリバイを崩せるのか! ?

今、日本でもっとも愛される
本格ミステリ作家が贈る「至極の作品集」

時を戻すことができました。――アリバイは、崩れました。

難事件に頭を悩ませる新米刑事は、
美谷時計店の店主・時乃にアリバイ崩しを依頼する。
湖に沈められた車のアリバイ、
パーティ出席者500人が証人となった政治家のアリバイ、
容疑者の親族3人がもつ鉄壁のアリバイ……。
時乃の推理はいかに?
時乃が高校生時代に挑んだ
「夏休みのアリバイ」も特別収録。


時乃さんのアリバイ崩し、前作同様あっという間すぎないか、という気はするが、那野県警捜査一課の刑事の僕がついつい頼りたくなってしまうのも仕方がない。なんといってもその洞察力と着眼点がピンポイントで絶妙なのである。さらに今回は、時乃さんが中学生の頃の初めての実際の事件のアリバイ崩しの顛末も語られ、いまに至る成長ぶりも垣間見ることができてお得である。次の展開も愉しみなシリーズである。

古本食堂*原田ひ香

  • 2022/08/01(月) 07:00:54


かけがえのない人生と愛しい物語が出会う!
神保町の小さな古書店が舞台の
絶品グルメ×優しい人間ドラマ
大ベストセラー『三千円の使いかた』『ランチ酒』の著者による熱望の長篇小説

美希喜(みきき)は、国文科の学生。本が好きだという想いだけは強いものの、進路に悩んでいた。そんな時、神保町で小さな古書店を営んでいた大叔父の滋郎さんが、独身のまま急逝した。大叔父の妹・珊瑚(さんご)さんが上京して、そのお店を継ぐことに。滋郎さんの元に通っていた美希喜は、いつのまにか珊瑚さんのお手伝いをするようになり……。カレーや中華やお鮨など、神保町の美味しい食と心温まる人情と本の魅力が一杯つまった幸せな物語。


神保町の古書店が舞台。それだけでわくわくするが、そこに神保町グルメが加わって、お腹もぐうぐう反応する。国文科の院生の美希喜(みきき)と大叔母の珊瑚さんの視点が入れ替わりながら物語は進んでいくが、圧倒的な存在感なのは、もちろん、ここ鷹島古書店の元店主で故人の滋郎大叔父である。お店の先行きがまだ曖昧なのもあって、滋郎さんの尺度がまだまだ生きていて、ご近所さんたちも含めて、その人となりを慈しんでいたりする。踏み込み過ぎず、突き放し過ぎない絶妙な人間関係が心地好い。それぞれに、悩みや不安を抱えながら、何かによりどころを求めて日々生きる人たちの、やさしさにあふれた一冊だった。