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狐闇*北森鴻

  • 2008/01/21(月) 13:54:22

狐闇狐闇
(2002/06)
北森 鴻

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「魔鏡」……か。
幻のコレクションを巡り、暗躍する古美術商たち。贋作作りの疑いをかけられ、苦境に立つ旗師・陶子。1枚の鏡に隠された謎。

「眼が開きやがったか」芦辺が無造作にいった。
「……眼……ですか」
「やれ古陶が専門だとか、浮世絵なら誰にも目利きは負けねえだとか、くちばしの青い連中が囀(さえず)っちゃあいるが、そんなものは正真の目利きでもなんでもねえ。この世界で本当に適用するのは、良い物と悪い物を見極める眼、ただそれ1つッきりしかねえのさ」――(本文より)


冬狐堂を名乗る古物商・宇佐見陶子のシリーズ二作目。
常連客からの依頼で競り落とした青銅鏡がなぜか三角縁神獣鏡に摩り替わっていたことから事件の波に呑まれていく。蓮丈那智フィールドファイルⅡとも連動しており、同じ時間軸を進む事件に別の角度からアクセスした物語でもあり、それぞれ独立しているのだが、両者を併せて初めて納得できることもたくさんあるのである。
蓮丈那智も香菜里屋も登場し、実際に存在する世界をのぞいているような錯覚さえ抱かされる。
しかし物語りのスケールは壮大であり隠密的であり、歴史を覆す可能性をも秘めて恐ろしくもある。歴史は苦手なので、実際にどれほど現実性があるのかは判断することができないが、想像力をかきたてられるのは事実である。




はじまり

       冬の狐

         Ⅰ


 ――冬狐堂さん。
 クリスマスソングが流れる町中で、不意に懐かしい名前で呼ばれた気がして、宇佐美陶子は振り返った。今はその名前で自分を呼ぶ人が、どこにもいないことを知りながら、夕暮れの人混みになにかを探そうとする目つきになる。呼び声が気のせいだとは思わない。懐かしい響きを持った名前を胸の奥深いところで聞くときは、我が身に迫る危険を本能が教えてくれるときでもある。振り返ったのは、それを教えてくれるかつての自分が、人混みのどこかにたたずんでいるような気がしてならないからだ。

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