fc2ブログ

明日、月の上で*平安寿子

  • 2008/02/20(水) 17:32:05

明日、月の上で明日、月の上で
(2002/11)
平 安寿子

商品詳細を見る

ブンちゃんはずっと前から、あたしのたった一人の恋人だった。悲しいのは、それがひとり決めだということ。そして、あたしの人生はいつも、そこにはいないブンちゃんに支配されてしまうのだ。初恋がすべてになるなんて、あたしの人生は、そんなはずじゃなかったのに。あーあ、一途で健気で、ほとんど演歌。あたしも古い女です。―子供の頃から「とんがりトビ子」と呼ばれ、26歳になった今も、他人の物言いにいちいち喧嘩腰に反応してしまうとび子。恋するブンちゃんを捜し求めてたどり着いたひなびた温泉で、涼風、旋風、突風、いろんな風を巻き起こす。


何にでも突っかかってとんがるからとんがりトビ子と呼ばれている。若くして結婚し、離婚し、また年下の男と暮らしている姉の令子を「世間様に恥ずかしい」と言い、ああはなって欲しくないとトビ子を常識で縛る両親に反発し、家を飛び出して令子のところに押しかけた。そして、隣の部屋のブンちゃんに惚れこんでしまったのである。
年の離れたブンちゃんは、ひと所にじっとしていたり誰かの元に毎日帰るのが苦手な人で、あるときどこかへいなくなってしまい、トビ子はブンちゃんの姉の住む中国山地の温泉町霧舟にやってきたのだった。

トビ子の若さゆえのとんがりは、いじらしくも痛々しくもあったのだが、霧舟で都会とは違う時間の流れや人の交わりに身を浸し、少しだが歳を重ねていくうちに、そのとんがり方の質が少しずつ変わってきたように思われる。相変わらずあれこれにとんがりながらも場の空気を読んでいるというようなトビ子の姿が愛おしく感じられる。
ブンちゃんとの距離のとり方にも、ブンちゃんとトビ子だけの間合いのようなものがきっとあるのだろう。心の中にいつもブンちゃんが居ることで、トビ子は安定していられるのかもしれない。会いたいときにはいつでも会いにいけると思えば、会えなくて寂しくても包まれているような心持ちにきっとなれるのだろう。だってブンちゃんはトビ子のことを恋人だと言ってくれたのだから。





はじまり

       1 古い人たち

 わたしはストリッパーです。田舎の小さな温泉町で「見せても触らせない本格派」の矜持を貫き、過ぎしよき昭和の匂いを残す最後のストリッパーといわれています。生理が始まったばかりの子供が似合いもしないシャネルを買いたいがために身体を売る時代に、見せるだけで金を取るストリッパーは絶滅品種だ――と、あなたは思っているかもしれない。そればかりか、そんなもののどこがありがたいんだとうそぶく、タマはあってもアタマのない原生動物同然のクソッタレもいることでしょう。
 しかし、ストリップ小屋は不滅です。そして、タマもアタマもある男たちのために知恵を絞って身体を張るストリッパーという女のプロフェッショナルもまた、二十一世紀を生きていくのです。

この記事に対するトラックバック

この記事のトラックバックURL

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

この記事に対するコメント

この記事にコメントする

管理者にだけ表示を許可する