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ジバク*山田宗樹

  • 2008/04/12(土) 16:22:51

ジバクジバク
(2008/02/22)
山田 宗樹

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女は哀しくも恐ろしく、 男はどこまでも愚かだった。 押し寄せる衝撃と感動。 残酷なまでに転落し続ける人生を描く、書き下ろし長編小説。

外資系投資会社のファンドマネージャー、麻生貴志は42歳。年収2千万を稼ぎ、美しい妻・志緒理と1億4千万のマンションを購入する予定を立てていた。自らを“人生の勝ち組”と自認する貴志は、郷里で行われた同窓会でかつて憧れた女性ミチルに再会する。ミチルに振られた苦い過去を持つ貴志は、「現在の自分の力を誇示したい」という思いだけから、彼女にインサイダー行為を持ちかける。大金を手にしたミチルを見て、鋭い快感に似た征服感を味わう貴志。だがそれが、地獄への第一歩だった……不倫、脅迫、解雇、離婚。 勝ち組から滑り落ちた男は、 未公開株詐欺に手を染め、 保険金目的で殺されかけ、 事故で片脚を切断される。 それでも、かすかな光が残っていた――。


坂道を転げ落ちるように加速度的に転落していく人生が描かれているので、『嫌われ松子』の男性版、とも言われる本作であるが、暗さ・惨めさ・悲惨さで言えば、圧倒的に松子に軍配が上がるだろう。というのも、松子の転落が、男に頼ったがためという要素が強かったのに比べて、本作の麻生の場合は、すべて身から出た錆であるというのが大きいからではないだろうか。
それでも、はじめのほんの小さな躓きが、こうも加速度的な悪循環を引き起こすきっかけになるのだということは、面白いようによく判って、一気に読み終えた。
物語の筋には直接関係のない細部まで――たとえば、交通誘導員の仕事の難しさとか、人間が歩くことができる機能の複雑さなど――丁寧に書かれていて、それもとても興味深かった。

タイトルの「ジバク」は冒頭に登場する核爆弾としてのラジカセが象徴するように「自爆」であり、またプライドに囚われたゆえの「自縛」でもあるのだろう。





はじまり

 馬場先濠の黒い水面に、光の紋様が乱れ舞う。車の甲高いエンジン音が、日比谷通りを駆け抜けていく。クラクションが鳴り響く。
 男は立ち止まって、丸の内のオフィスビル郡を見上げた。

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