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街のアラベスク*阿刀田高

  • 2008/04/27(日) 16:52:44

街のアラベスク街のアラベスク
(2007/12)
阿刀田 高

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闇を縫う怪しい香り、ふと甦る背徳の思い出、生まれては消え、消えては浮かびあがってくるうたかたのような恋の記憶。井の頭公園、神楽坂、浅草、銀座、江戸川など、様々な貌を持つ12の街を舞台に描く、大人の恋の物語。


「黒地に赤く」 「ほくろ慕情」 「美しい人」 「暗闇坂」 「真面目な関係」 「左手のひらの記憶」 「喋らない女」 「六郷橋まで」 「銀座の敵」 「美人の住む町」 「公平さの研究」 「夜に飛ぶ」

ふとしたなにかに誘われるように過去のいつかに帰っていく思考。現在にさほどの憂いがあるわけではなく、過去を取り戻したいわけでもない。そんな大人の心の片隅をふわりと掠める甘いようなほろ苦いような通い合いの記憶が、街の思い出にからめて語られる大人の一冊である。





はじまり

       「黒地に赤く」

 闇の中に匂いを感じた。
 昌子が寝返りを打ったからだろう。少し前に、はっきりと嗅いだ匂いだ。
 「和美さんが香水をくれたの」
 と湯上りの妻は言っていた。
 「へえー」
 あのとき精二はビールの残りを飲み干しながらテレビのプロ野球中継を見ていた。もうシーズンの終わりも近い。

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