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カルトローレ*長野まゆみ

  • 2008/05/23(金) 17:12:20

カルトローレカルトローレ
(2008/04)
長野 まゆみ

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謎の航海日誌カルトローレ。キビ色の沙地の白い家で暮す私の仕事は、「船」にあった109冊の日誌を解読することだった…。作家生活20周年の新境地が白い世界に拓かれる記念碑的作品。


過去なのか未来なのか、どこの国のどこの場所なのか、特定することはとても難しく、そして特定することに意味はない。
「船」を降りて適応化のために、沙獏のとある自治区で航海日誌の解読という仕事を与えられたタフィの語る物語。夢のなかの出来事のような、はるか昔の昔語りを聞かされているような、それでいてなにか未来の鍵を握る大切なことを仄めかされているような、不思議な心地のする物語である。
著者の言葉の選び方や、文字の表記の仕方にたいするこだわりや丁寧さが、物語の雰囲気をいっそう懐かしさあふれるものにし、それでいて焦がれるように追い求めさせもするのである。
ひとりのエトランゼとして、物語のなかに紛れ込んだような心地にしてくれる一冊である。





はじまり

       1 給水塔

 キィルル・・・・・、キィ、キュルル・・・・・、ギィ・・・・・、

 翼のひろい鳥が三、四羽、上空を旋回する。逆光のため翼から尾羽までが面となり、黒い信号凧のようでもある。だが動きはきまぐれで、なんの伝言も読みとれない。彼らが仲間と啼きかわす声は、空き家の屋根でさびついた風向計のきしみに似ている。とうの昔にやくわりをおえた矢印は、いまやほんの五度ていどしか動かない。そこへ鳥がまいおりた。つる草のようにのびきった鉄くずとひとつの影をなし、時間のネジを巻きもどそうとする。

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