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食堂かたつむり*小川糸

  • 2008/06/18(水) 13:27:12

食堂かたつむり食堂かたつむり
(2008/01)
小川 糸

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失ったもの:恋、家財道具一式、声
残ったもの:ぬか床

ふるさとに戻り、メニューのない食堂をはじめた倫子。
お客は一日一組だけ。
そこでの出会いが、徐々にすべてを変えていく。


きっかけはインド人の恋人に、家財道具一式を持ち逃げされて捨てられたこと。でもそれは、前々からずっとやりたかったことだった。料理を作ること、その料理を食べた人のしあわせな顔を見ること。倫子は、ふるさとの村で「食堂かたつむり」という名の小さいけれど、自分の夢のなにもかもが詰まった食堂をひらいたのだった。
痛みを抱えて不本意ながらふるさとに戻り、気の合わない母に厄介になりながら、夢だった料理を作る仕事をはじめるという、切実ながらメルヘンチックな物語である。倫子が作る料理はどれも食材を無駄にせず真心こめて大切に扱われ、食べる人のことも丁寧に考えて作られるので、食べた人をしあわせにする。読んでいて安らげる設定・・・・・のはずなのだが、なぜかこの世界にどっぷりと浸ることができずに読み終えてしまった。
すでにあるあの人やこの人のあれやこれを集めて混ぜ合わせたような感じがしてしまったからかもしれない。今回は、ちょっと素直ではない読者なのだった。




はじまり

       
 トルコ料理店でのアルバイトを終えて家に戻ると、部屋の中が空っぽになっていた。もぬけの殻だった。テレビも洗濯機も冷蔵庫も、蛍光灯もカーテンも玄関マットも、あらゆるものが消えている。
 一瞬、部屋を間違えたのかと思った。けれどいくら確認しても、そこは、インド人の恋人と同棲していた愛の巣に間違いない。天井に置き去りになっていたハート型のしみが、動かざる証拠だった。

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