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カナリヤは眠れない*近藤史恵

  • 2008/06/19(木) 17:18:12

カナリヤは眠れない (ノン・ポシェット)カナリヤは眠れない (ノン・ポシェット)
(1999/07)
近藤 史恵

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変わり者の整体師合田力は、“身体の声を聞く”能力に長けている。助手を務める屈託のない美人姉妹も、一皮剥くと何がしかの依存症に罹っていた。新婚七カ月目の墨田茜を初めて看たとき、力は底知れぬ暗い影を感じた。彼を驚愕させたその影とは?やがて不安が現実に茜を襲うとき、力は決死の救出作戦に出た!蔓延する現代病理をミステリアスに描く傑作、誕生。


整体師・合田力シリーズ一作目。

本作では、恵・歩姉妹の病のことにも、それゆえの彼女らの確執のことにも、突っ込んでは触れられていないので、読者は小松崎雄大と一緒に推測するしかない。そのもどかしさもなかなか興味をそそる点ではあるが、三作目で経緯を知って読むと、また違った感慨もあってそれもまたいい。
今回の主人公――というか謎解きの対象――は、買い物依存症の墨田茜。まだまだ新婚の妻である。ひょんなことから合田接骨院に来ることになった茜を診た合田は、彼女のただならぬ歪みに気づくのである。そしてその墨田茜が、雄大の仕事ともリンクしてくる辺りから、物語は意外な展開を見せはじめる。
探偵役が整体師というのも珍しいのではないだろうか。しかし、そのからだに触れるだけで日常生活の習慣から心の歪みまで判ってしまう合田には、まさにうってつけの役回りとも言えそうである。やはりぜひお世話になりたい合田整骨院であるが、なにもかも見透かされそうで怖い気もしないではない。
そして茜は、自分の買い物依存症の裏にひそむ企みを知ったとき、ほんとうの意味で自分と真っ直ぐ向き合えたのである。合田の元に通う必要がなくなることがほんとうのしあわせなのかもしれない。それでは合田整骨院はいつまで経っても繁盛とは程遠いのだが。





はじまり

       一目覚める

 鏡の中のわたしは笑っていた。
 深いブルーグレーのワンピース。通した袖が分厚いタグと値札に引っかかる。九万八千円。目がその数字の上を泳ぐ。
 一瞬、躊躇した。入らなかった。そう言って脱げば間に合うのではないか。だが、その考えは女店員の華やかな声にかき消される。
「よろしいですか?」
 返事を迷う間に、彼女は試着室のカーテンをずらして中に入ってきた。

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