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ロズウェルなんか知らない*篠田節子
- 2008/06/27(金) 20:45:08
![]() | ロズウェルなんか知らない (2005/07/06) 篠田 節子 商品詳細を見る |
ときに愚かしくも愛しい“人間”を描く、胸に迫る長編
地方の未来を真面目にわらう!!
過疎の町を再生しようと悪戦苦闘する元若者たちが仕掛けた策とは……?
UFOで町おこし!?
「俺のところの民宿は、つぶれる。うちに田畑はない。あるのは今更だれも見向きもしないテニスコートだけだ。客は来る。公共工事の作業員だ。下請けの下請け、そのまた下請けの建設会社が、宿泊費を叩きに叩く。お袋は去年からこの先の工業団地にパートに出てる。それで過労から腎炎を起こして倒れた。倒れるほど働いたところで、食ってはいけない。俺はまたここを出ていって、東京で職を探すだろう。しかし学部卒の技術屋に職はない。ビル清掃か、キャバレーの呼び込みか、仕事があれば御の字だ。残ったおふくろは、民宿村と心中する……」(中略)「売るか、日本の四次元地帯で」孝一が手の中のショットグラスをカウンターに静かに置いた。「格好つけちゃいられねえってことだ」<本文より>
温泉が出るわけでも古代遺跡があるわけでもなく、スキー場やゴルフ場や大きなテーマパークがあるわけでもない過疎の町・駒木野の青年クラブ――といってもメンバーはもはやみな中年である――の面々と、ふらりとやってきた(元?)コピーライターの町おこし奮戦記である。
大カラオケ大会で優勝し、廃屋同然の一軒家を賞品としてもらった、東京から来たコピーライター・鏑木は、大方の予想に反してそこに住み着いてしまった。そして、村おこしに知恵を絞る青年クラブの会合になんとなく首を突っ込み、口を出したりするようになる。お調子者だが、着眼もセンスもなかなかのもので、行動力もあり、青年クラブの面々も引っ張られるように動き始めるのだが・・・・・。
ひとつのことにのめりこんだときの人間の心の動きが手に取るようにわかって、陥りがちなループに嵌っていくのを見ると切なささえ覚える。口コミやマスコミの諸刃の剣のような危うさにも歯軋りしたくなるようなもどかしさを感じた。それを乗り越え、突き抜けたとき目の前に現れたのは・・・・・。
思わず笑ってしまうような町おこし騒動なのだが、ただ無邪気に笑うだけではいられないさまざまな問題を内包してもいて、胸の奥がずきんとするような切なさも感じさせられる一冊だった。
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はじまり
1章 2030年人口0
ギリシャの円形劇場を模した舞台で、男はマイクを両手で握り締め、搾り出すような高音で歌っていた。
黒のメッシュに包まれた長身のしなやかな体を傾け、次第にクレシェンドをかけていく。
朗々と歌い上げたそのとき、首筋の後ろで一つに結った艶やかな髪が風に巻き上がった。
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じゃじゃままブックレビュー
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ロズウェルなんか知らない 篠田節子著。
≪★★★★★≫ ずっと篠田節子氏を、津田節子氏と勘違いしてました。そのわりに、随分新しいタイトルだな、こんなのも書くの?と信じられない思いで読んでみたら・・・。 まったくの別人。篠田氏ってこういうの書くんだね、初めて読んだのだけど、他のも読みたくなりまし...
- From: じゃじゃままブックレビュー |
- 2008/07/02(水) 16:24:09
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この記事に対するコメント
篠田ファンです
篠田さんの作品の中ではめずらしい部類の話です。
笑いの中に必ず刃を突きつける鋭さは相変わらず、というか、むしろ笑いやおかしさのなかにほんとうのものがあるような、なかなかいいお手前でした。
篠田さん、あまりたくさん読んでいないのですけれど
もっと別のものも読んでみたいと思わされました。
私この作品大好きなんですよ~。篠田デビューがこの作品だったので、これまたちょっと勘違いしてたんですけど、「ロズウェル~」が異色なんですよね。他の作品数冊読んで、よ~く分かりました。(苦笑)
これは、楽しいだけじゃもちろんないんですけど、でもやっぱり楽しかった、というのが一番の印象でした。
久々に手にした篠田作品だったのだけれど
ほんとうに愉しませていただきました。
鏑木は、企画力も着眼も行動力も並以上のものを持っているのに
どうして、こんなところに落ちぶれてやってきたのでしょうね。
途中からは、あのおちゃらけぶりもすっかり受け入れてしまいました。