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無言の旅人*仙川環

  • 2008/08/22(金) 14:03:04

無言の旅人無言の旅人
(2008/01)
仙川 環

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交通事故で意識不明になった三島耕一の自宅から見つかった尊厳死の要望書。希望を叶えるべきか否か、婚約者、家族、医者は激しく動揺する。しかし…。元医学ジャーナリストによる慟哭のミステリー。


尊厳死を題材とし、しかもミステリに仕立てている。ただでさえ重い尊厳死というテーマを、善悪とか好悪とか、理論的に感情的に語るだけでなく、自分の最期をどう迎えるかということについて、どのように考え実行に移すのが最善なのか、というところまで踏み込んで、その部分をミステリにしたことで、熱くなった読者の頭をつかのま冷やす効果と、より客観的に考えるきっかけをもたらしているように思う。
おそらく読んでいる誰もが、我が身に引き比べて考えさせられるのではないだろうか。
可否の判断はとうてい簡単に出せるものではないが、ラストの耕一のPCに残されていたメールの下書きが、その判断の難しさを物語っていて、胸が苦しくなった。





はじまり

       一部
         1

今年の秋は、夏を引きずっていた。十月に入っても、日差しは相変わらず強い。今朝のニュースは日中の最高気温が二十五度になると言っていた。
 大木公子はうっすらと汗をかいていることに気付いた。トート-バッグからハンドタオルを出して額と鼻の周りを押さえながら、ホームをまたぐ駅舎の窓から新宿方面へと延びる線路を見た。

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