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卵のふわふわ*宇江佐真理

  • 2008/09/07(日) 21:03:51

卵のふわふわ 八丁堀喰い物草紙・江戸前でもなし (講談社文庫)卵のふわふわ 八丁堀喰い物草紙・江戸前でもなし (講談社文庫)
(2007/07/14)
宇江佐 真理

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煮炊きの煙は、人の心を暖める。「のぶちゃん、何かうまいもん作っておくれよ」。夫との心の行き違いは、食い道楽で心優しい舅にいつも扶けられる。喰い物覚え帖に映し出された心模様。


「秘伝 黄身返し卵」 「美艶 淡雪豆腐」 「酔余 水雑炊」 「涼味 心太」 「安堵 卵のふわふわ」 「珍味 ちょろぎ」という、食べものをキーにした連作物語。

食べものにはそれぞれ教訓的ともいえる意味があり、
黄身返し卵・・・・・蓋を開けりゃ、埒もないことの方が多い。
淡雪豆腐・・・・・はかない色と味。
水雑炊・・・・・別れ。
心太・・・・・走りの食べ物としても乙。
卵のふわふわ・・・・・一個ずつしかできない。
ちょろぎ・・・・・無用の用。
という具合である。

実の親と同じように大切に思う舅・姑とは裏腹に、夫・正一郎とは溝が深まるばかりと思い、椙田の家を出ようと決意するおのぶである。
優秀だがちょっと変わったところのある舅・忠右衛門が食べたがる食べものにまつわるあれこれや、舅と一緒に食べたときのことなどを思うにつけ、その情に背くことになるのが心苦しくもあるのだった。
複雑な心うちで暮らす日々に、北町奉行所に奉仕する夫の仕事柄知った事件について、ふと漏らしたひと言が解決のヒントになったり、ときには下手人を見つけたりして、夫の役に立ったりもするのだが、疎まれているという思いは消えず、悶々とした毎日を過ごしているのであった。
正一郎と心を通わせることさえできれば、それ以外はとても恵まれていると言ってもいいほどなのだが、肝心なところがなぜか上手くいかない。読者には、正一郎の不器用さとおのぶの思い込みがもどかしくもある。
心のこもった食べものと、人の心のあたたかさ、夫婦の微妙なすれ違いが絶妙に描かれていて気を逸らさない。
ラストの忠右衛門の不在は、見事な親心、と思いたい。そうでなければ切な過ぎる。





はじまり

       「秘伝 黄身返し卵」
         一

 八丁堀と言えば、奉行所の役人が居住するところとして江戸の人々は誰でも知っている。
 江戸幕府開闢以来、市街は開発がめまぐるしく、物資の輸送のために多くの堀が作られた。八丁堀もその一つで、河口から八町あったことから、この名がついたという。
 もともとは寺社地であったが、埋め立てなどの開発が進むにつれ寺社はほかの地域に移転され、変わって奉行所の与力、同心の組屋敷が建てられるようになった。

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