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深泥丘奇談(みどろがおかきだん)*綾辻行人

  • 2008/09/24(水) 17:03:11

深泥丘奇談 (幽BOOKS)深泥丘奇談 (幽BOOKS)
(2008/02/27)
綾辻行人

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誰も見たことのない「綾辻行人の世界」
京都の奥には、何かが潜んでいる・・・。深泥丘病院の屋上で見た幻鳥、病院の地下へと続く階段、痛む歯、薄れゆく街の記憶・・・作家である「私」がみた日常が一瞬にして怪談に変わるとき、世界は裏の顔を表す!
物語の舞台は、作者が生まれ育ち、現在も居を構える古都・京都を彷彿させる町。語り手である「私」の家は「町の東地区、北寄りの山ぎわ」「紅叡山の麓のあたり」にある。物語の始まりは、晩春の黄昏時。自宅から少し離れた「深泥丘」周辺を散策していた語り手は、突如烈しい眩暈に襲われ、行く手に見かけた「医療法人再生会 深泥丘病院」を訪れる。そこは入院設備も整った、古びた四階建ての小病院だった。一話目の「顔」は、精密検査を勧められ短期入院することになった語り手が、病院内で奇怪なモノを目撃する話。「ちちち……と、最初はそう聞こえた。――ような気がした」という特徴的な冒頭の一節といい、妖しげな病院が舞台となっている点といい、主人公を見舞う記憶の混濁といい、綾辻行人版『ドグラマグラ』。 ところが二話目の「丘の向こう」に至って、物語のパースペクティヴは俄然、一挙に拡がりを見せる。深泥丘の向こう側に散策の足を伸ばした語り手は、そこに鉄道の線路が走っていることを知り愕然とする。帰宅後、妻にその話をすると、それは「Q電鉄の如呂塚線」であり、終点にある如呂塚遺蹟を見物に、二人で出かけたこともあると指摘され、語り手の困惑はさらに深まってゆくのだ。いにしえの水都の幻影が顕ちあらわれる「長びく雨」、歯科治療をめぐり作者一流の生理的恐怖描写が冴える「サムザムシ」、微妙にクトゥルー神話を彷彿させて心弾ませる「開けるな」、京都名物・五山の送り火が、シュルレアリスム絵画さながらの幻視の光景へ一変する傑作「六山の夜」、秋祭りの夜に病院で開催される奇術ショーの奇怪な顛末を描く「深泥丘魔術団」、語り手の自宅周辺に謎の生き物が出没する「声」……自宅と病院を楕円の両極とする語り手の散策=夢幻彷徨が、驚異と幻想の地誌学とでも称すべき光景を開示し、謎めいた世界観の全貌が、精妙な手つきで明らかにされてゆく――本連作に秘められた奇計は、未だその片鱗を覗かせたばかり。(推薦文・・東雅夫)


著者初の怪談集、ということである。が、そこは綾辻行人である。著者のテイストがたっぷり行き渡った綾辻流怪談とでも言ったらいいのではないかと思う。
語り口は妖しさ満載のミステリと同じく、思わせぶりで、時空を自在に行きつ戻りつする感じであり、それが一層、現実ならざる浮遊感を物語りに与えている。
眩暈に悩まされる作家の主人公の、自らが立っている場が根底から揺らぐ不安と心許なさが、そのまま物語の雰囲気になっているのも巧みである。
このあとつづく、綾辻流怪談にも期待したい。





はじまり

       顔
       1

 ちちち・・・・・と、最初はそう聞こえた。――ような気がした。
 ちちち、ちっ、ちち・・・・・という、何だか虫の鳴き声めいた妙な音。直後にはしかし、それはちちではなく、区くくであったりじじじであったり、さらにはがぁとかきぃとかずぅとか、そんなふうにも聞こえはじめて、私をひどく戸惑わせた。
 何だろう、これは。ち、ちち・・・・・この妙な音は。

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