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絶叫城殺人事件*有栖川有栖

  • 2008/10/11(土) 16:53:59

絶叫城殺人事件 (新潮エンターテインメント倶楽部SS)絶叫城殺人事件 (新潮エンターテインメント倶楽部SS)
(2001/10)
有栖川 有栖

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黒鳥亭、それがすべての始まりだった。壷中庵、月宮殿、雪華楼、紅雨荘…。殺人事件の現場はそれぞれ、独特のアウラを放つ館であった。臨床犯罪学者・火村英生と作家・有栖川有栖のふたりが突きとめた、真相とは。そして、大都市を恐怖で覆い尽くした、猟奇的な連続殺人!影なき殺人鬼=ナイト・プローラーは、あの“絶叫城”の住人なのか!?本格推理小説の旗手が、存分に腕を振るった、傑作短編集。


表題作のほか、「黒鳥亭殺人事件」 「壺中庵殺人事件」 「月宮殿殺人事件」 「雪華楼殺人事件」 「紅雨荘殺人事件」

あとがきによると、各作品のタイトル「~~殺人事件」の~~の部分に建物の名を入れることと、殺人事件が夜起きること、というふたつのことを決めて書かれたそうである。
犯罪社会学者・火村英生とミステリ作家・有栖川有栖の立ち位置もいつもながら味わい深い。
そして、『絶叫城殺人事件』のなかで、有栖が火村を評して言う言葉に深くうなずかされるのだった。
 

・・・・・まだ抗弁する余地がありそうな犯人が、彼に推理をぶつけられてにわかに崩れ落ちてしまうこと。いくら火村の指摘に理があろうと、死に物狂いでもがきそうな場面でも、犯人たちの多くは思いがけず脆かった。何故ああなるのか?――拠り所を突かれたからだ。どんな犯罪にも、そこさえ見逃してくれたら、と犯人が祈っている急所があるのではないか。火村の目はそこで焦点を結び、「お前が嫌なのは、こうされることだろう」とばかりに光を当てて犯罪者を射ち落とす。私にはそう思えるのだが。





はじまり

       「黒鳥亭殺人事件」

 影絵になった烏が数羽。ねぐらへ帰っていくところだろう。
 日はすでにとっぷりと暮れ、空のどの方角にも青みは残っていなかった。京都を出るのが遅くなりすぎたためだ。途中のドライブインで夕食をすませた後、食事はすませた、と天濃電話を入れてあるものの、ステアリングを握った私は、いささか気が急いている。助手席の友人はというと、ラジオから流れてくるショパンのノクターンに耳を傾けているのか、腕を組んで瞑目していた。

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