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平成大家族*中島京子

  • 2008/10/17(金) 18:33:55

平成大家族平成大家族
(2008/02/05)
中島 京子

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72歳の元歯科医・緋田龍太郎が妻の春子、妻の母のタケ、ひきこもりの長男克郎と暮らす家に、事業が失敗した長女逸子の一家3人、離婚した妊婦の次女友恵が同居することに。にわか大家族になった緋田家の明日は・・・!?家族それぞれの目線から語られる、それぞれの事情。くすりと笑って、ほっこり心が温かくなる、新家族小説が誕生!


歯科医を引退した緋田龍太郎・72歳。現在は、趣味で義歯を作り、妻と妻の母と引きこもりの長男と四人で、このままこともなく暮らしていくのだろうと思っていた。そんな矢先、出て行った家族が続々ともどってくることになったのだった。
あっという間に八人家族になった緋田家。その八人が、それぞれ現在の状況に至るまでの、そして現在の胸の内を語ったオムニバスである。ここに至るまでには、それぞれに理由があり、言いたいことも多々あるのだが、家族であるがゆえに言わなかったり言えなかったりするあれこれを、それぞれの視線でながめていると、これぞ家族だなぁ、という思いでいっぱいになる。勝手気ままにやっているわけではなく、家族のことを気にかけているのだが、わざわざ言葉にすることもないので伝わらなかったり、逆に心配のあまりつい言いすぎてみたり・・・。
昭和以前の大家族が順当な世代交代によって、入口(出生)も出口(独立、死亡)がはっきりしていたのに対し、平成の大家族は、出たり入ったりが忙しく、予測できない大家族なのである。
家族の距離感の描かれ方が絶妙で、ひとりひとりの思いがそれぞれよくわかり、結構悲惨な状況にもかかわらず、どこか楽天的にも見える緋田家の人々が好ましい一冊だった。




はじまり

       トロッポ・タルディ

 緋田家の当主、龍太郎は今朝、食後の薬を飲み終えて庭に視線を投げた。
 南向きの窓から射し込む陽光はリビングを暖め、一日のもっとも平和な時間を心地よく演出しようとしていた。
 庭には小鳥たちが集まってきた。益子焼の花器に水を入れて置いてやったからだ。朝食のトーストからこぼれおちたパンくずを毎朝撒くのも彼の仕事だった。大学の後輩と共同で経営していた歯科クリニックを、二年前に「勝手に定年退職」した彼はいま七十二歳で、ほとんど趣味の域に入っている「義歯の製作」を請け負う以外には、悠々自適の隠居生活を送っている。




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平成大家族 中島京子

装丁は大久保伸子。装画は曽根愛。初出「青春と読書」。 元歯科医の老夫婦・緋田龍太郎と妻春子にその母タケ、引きこもりの長男克郎の家に...

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  • 2008/10/19(日) 04:07:31

平成大家族 中島京子著。

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  • From: じゃじゃままブックレビュー |
  • 2008/10/28(火) 23:23:01

平成大家族  中島京子

平成大家族/中島 京子 中島京子 集英社 2008 STORY: 歯科医を引退した父と祖母の介護をする母。引きこもりの長男は悩みの種だが、2人の娘を嫁に出し、落ち着いた毎日を送っていた。しかし、長女の夫が失業し、長女一家が出戻ってくる。その上、次女が離婚し?...

  • From: 読書・映画・ドラマetc覚書(アメブロ版) |
  • 2009/07/29(水) 18:27:51

この記事に対するコメント

中島さん初読みでした。
テンポの良い語り口で読みやすかったです。
家族の繋がってる気配を感じられました。

  • 投稿者: 藍色
  • 2008/10/19(日) 04:07:05
  • [編集]

私も中島さん初読みだったんですけど、読み心地がとってもよかったです。
結構な問題を抱えてるのに、にんまりしちゃったり、嬉しくなっちゃったり。
引きこもりの克郎だけど、登場した人物に好感度つけるとしたら、結構上位です。
ほんと、大家族ですよね。

  • 投稿者: じゃじゃまま
  • 2008/10/28(火) 23:26:05
  • [編集]

藍色さんへ

>家族の繋がってる気配を感じられました

気配って言い得て妙ですね。
取り立てて形にしなくても気配を察しあうような
家族ってそんなものかもしれませんね。

  • 投稿者: ふらっと
  • 2008/10/29(水) 07:07:18
  • [編集]

じゃじゃままさんへ

扱っている題材は、ものすごくシリアスで悲惨ささえも感じさせられるものもあるのに、描き方がとても軽やかなので、胸の底にいやな澱がたまらないですね。

  • 投稿者: ふらっと
  • 2008/10/29(水) 07:09:38
  • [編集]

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