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九つの、物語*橋本紡

  • 2008/10/18(土) 21:26:08

九つの、物語九つの、物語
(2008/03)
橋本 紡

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大切な人を、自分の心を取り戻す再生の物語
大学生のゆきなのもとに突然現われた、もういるはずのない兄。奇妙で心地よい二人の生活は、しかし永遠には続かなかった。母からの手紙が失われた記憶を蘇らせ、ゆきなの心は壊れていく…。


 

 第一話・・・・・「縷紅新草」(泉鏡花著)
 第二話・・・・・「待つ」(『女生徒』太宰治著)
 第三話・・・・・「蒲団」(田山花袋著)
 第四話・・・・・「あぢさゐ」(永井荷風著)
 第五話・・・・・「ノラや」(内田百著)
 第六話・・・・・「山椒魚(改変前)」(井伏鱒二著)
 第七話・・・・・「山椒魚(改変後)」(井伏鱒二著)
 第八話・・・・・「わかれ道」(樋口一葉著)
 第九話・・・・・「コネティカットのひょこひょこおじさん」・・・・・(J・D・サリンジャー著)


傷ついたゆきなの心の再生の物語である。
兄の部屋の本棚から選んだ一冊の本。それがそれぞれの物語の核になっていて趣き深い。ゆきなが手に取った本が絶妙に物語の展開を暗示したり、ときどきの悩みにヒントを与えたり、自分の心の動きを気づかせてくれたりもする大事なキーにもなっている。
そして、兄が作ってくれる食事のあたたかさも、物語の魅力になっている。特性トマトスパゲティ、ご飯を詰めた丸鶏、クロックマダム、パエリアなどなど・・・・・。妹・ゆきなへの思いがぎゅっと詰まったあたたかな食事である。
どの物語もやさしく、あたたかく、そしてあまりに切ない。気づかないうちに頬を涙があたたかく濡らすような一冊だった。




はじまり

       第一話 縷紅新草

 泉鏡花の『縷紅新草』を読んでいたら、お兄ちゃんが部屋に入ってきた。びっくりした。思わず何度も瞬きを繰り返してしまったくらいだ。お兄ちゃんは以前とまったく変わらぬ様子でわたしを見て、それからため息を吐いた。
 「あのさ、ゆきな、前から言ってるだろう。俺の部屋に入るなよ。」
 いささか呆れた様子で言いながら室内を見まわした。

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