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償い*矢口敦子

  • 2008/10/21(火) 18:21:44

償い償い
(2001/07)
矢口 敦子

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「あの人は死んでよかったんだと思うよ」私が救った子供は、15歳の殺人鬼に成長していた? 36歳の日高は子供の病死と妻の自殺で絶望し、エリート医師からホームレスになった。流れ着いた東京のベッド・タウン光市で、高齢者、障害者など社会的弱者ばかりが殺される連続ナイフ殺人事件が起き、日高は知り合った刑事の依頼で「探偵」となる。やがて彼は、かつて誘拐犯から命を救った15歳の少年・真人が犯人ではないかと疑い始める。「人の心の泣き声が聞こえる」という真人は、「不幸な人は死んでしまえば、もう不幸は感じずにすむ」と言う。自分が救った子供が殺人鬼になったのか―日高は悩み、真相を探るうち、真人の心の深い闇にたどり着く。感動のミステリ長篇。


殺人事件があり、警察が捜査していて、探偵役となる人物も登場するが、これがミステリか、と問われると、全面的にはうなずけない気もするのである。ミステリと言うよりも、タイトルが表わすように、心のドラマという趣が強い一冊だと思う。

人の肉体を殺したら罰せられるけれど、人の心を殺しても罰せられないんだとしたら、あまりに不公平です。


という本文中の一節に象徴される罪の意識に、探偵役である野宿者・日高も、かつて彼に命を助けられた真人(マコト)も囚われているのである。
連続殺人事件は一応の解決を見るが、彼らは、自らが囚われた心の枷から抜け出すことはおそらくできないのではないかと思われる。この物語のラストその後には、まだまだ苦しみが待ち構えているように思えてならない。日高にも、真人にも・・・・・。





はじまり

       プロローグ

 そのころ、男は羽をもがれた蝿のように地べたを這いずりまわっていた。
 埼玉県光市、新宿から東武線の快速電車で三十分のベッド・タウン。男がいつこの土地に足を踏み入れたのか定かではない。そもそもここが埼玉県の光市だということを、男は認識していない。東京のベッド・タウンというと、どこも同じだ。駅周辺に市の施設と繁華街が集中し、そこから少し離れると大手デベロッパーが開発した大規模なものから地元の建設業者がつくった小規模なものまで、建売住宅が雑多な景観を形づくる。

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