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店じまい*石田千

  • 2008/11/23(日) 16:42:56

店じまい店じまい
(2008/09)
石田 千

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どこにでもあった、あの風景
 手芸屋、文房具店、銭湯、自転車屋......あなたの町にもきっとあった、あの店この店。本書は、日常のふとした瞬間に顔を出す懐かしい不在の光景を、瑞々しい感性と言葉でつづったエッセイ集。
 「聖橋口の改札を出てすぐ、立ち食いそばやからの店つづきあたりで、待ちあわせることが多い。ここのマスターのハイボールは、天下一品だぜ。そう誘われ、連れていってもらったバーも、そのならびにあった。[......]一階はカウンターだけ、天井のひくい二階にはテーブルがあった。顔なじみのひとと行くときは、一階に肩をならべ、そうでないときは、注文してからあがった。のぼる手間を遠慮して、コップ持って行きますというと、いいからあがってな。あごをしゃくりあげられた。」
 個性的な店主たちとのやりとりや、おっかない店番の犬、店に着くまでの散歩道--それぞれが短編小説さながらの記憶のかけらたちは、気がつけば、読者にとってもまた、何度も立ち返ることのできる場所となる。「ひとそろいの湯」「ふとんやの犬」「われない割れもの」「願かけどうふ」「提灯千秋楽」「あかい鼻緒」他、全二十七編。


さりげない日常語りに織り込まれた「店じまい」のうちそとの景色のあれこれである。もちろん仕舞われるのだからさみしさはあるのだが、しんみり振り返って思いを致すというよりも、「店じまい」の顛末やその後に励まされるように見つめる著者の目が感じられて、清々しい。
出会ったばかりの店じまいは残念でもあるが、仕舞われる前に出会えたしあわせでもあるのかもしれない。

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