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造花の蜜*連城三紀彦

  • 2009/04/23(木) 09:02:10

造花の蜜造花の蜜
(2008/11)
連城 三紀彦

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造花の蜜はどんな妖しい香りを放つのだろうか…その二月末日に発生した誘拐事件で、香奈子が一番大きな恐怖に駆られたのは、それより数十分前、八王子に向かう車の中で事件を察知した瞬間でもなければ、二時間後犯人からの最初の連絡を家の電話で受けとった時でもなく、幼稚園の玄関前で担任の高橋がこう言いだした瞬間だった。高橋は開き直ったような落ち着いた声で、「だって、私、お母さんに…あなたにちゃんと圭太クン渡したじゃないですか」。それは、この誘拐事件のほんの序幕にすぎなかった―。


一体何度クライマックスに近づく興奮を味わわせれば気が済むのだろう。登りつめたと思えば、更にその先に登るべき道が続いている。そして、とうとうほんとうに登りきり、頂上に立って再び下りてきたと思えば、気を抜くまもなく、まるでデジャブのように同じ登り道を登っていることに気づかされるのである。
単純な誘拐事件の様相ではじまった物語は、誰もが真実を語っていないような不穏さで満ちみち、最初から最後まで不協和音を奏でながら、しかし終わってみれば見事な協奏曲になっている。
ページを繰る手を止められない一冊だった。

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