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宣告*加賀乙彦

  • 2010/03/12(金) 19:09:34

宣告 (上巻) (新潮文庫)宣告 (上巻) (新潮文庫)
(2003/03)
加賀 乙彦

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「あす、きみとお別れしなければならなくなりました」死刑囚楠本他家雄は、四十歳の誕生日を目前にしたある朝、所長から刑の執行宣告を受ける。最後の夜、彼は祈り、母と恋人へ手紙を書く。死を受容する平安を得て、彼は翌朝、刑場に立つ…。想像を絶する死刑囚の心理と生活を描き、死に直面した人間はいかに生きるか、人間は結局何によって生きるのかを問いかける。


#画像は文庫の上巻ですが、実際に読んだのは、単行本である。

796ページ、二段組、厚さ5cmの超大作である。主役は「ゼロ番囚」と呼ばれる死刑確定者。彼らの獄中での日々と精神状態が描かれ。彼らを診察し治療する若い精神科の医師の目で観察される。この若い医師の目が、すなわち自らも精神科医であった著者の目、ということなのだろう。
囚人たちはそれぞれの理由で殺人を犯し、死刑判決を受けてここにいるわけだが、罪を悔いる思いよりも、被害者や遺族に詫びる思いよりも、最後の最後には自分(の魂)が如何にして救われるかということが意識の大半であるように見受けられる。もちろん、本作に描写されている囚人たちの胸のうちが、彼らの思考のすべてであるわけはないが、それを差し引いたとしても、被害者遺族からみたら歯がゆい思いがするのではないかと思われる。
そう考えると、死刑とはなんだろうという思いに至るのだが、無期懲役とは確実に違うものであり、無期――例えばそれが終身刑であるとしても――と死刑の間の隔たりは絶対的に越えようのないものであるということは実感できるのである。重すぎるテーマであり、人の命とはなにか、死刑とは、罪の償いとは、と考えることは多いのだが、割り切れなさも残る一冊だった。

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