喋々喃々*小川糸

  • 2010/03/28(日) 08:38:30

喋々喃々喋々喃々
(2009/02/03)
小川 糸

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東京・谷中でアンティークきもの店「ひめまつ屋」を営む栞(しおり)。きものを求めるお客ばかりでなく、ご近所さんもふらりと訪れては腰を落ち着ける、小さなこの店に、ある日、父とそっくりの声をした男性客がやってくる。その人は、栞の心のなかで次第に存在感を増していき――人を大切に思う気持ち、日々の細やかな暮らしが、東京・下町の季節の移ろいとともに描き出される、きらめくような物語。
谷中・根津・千駄木近辺に実在するお店や場所も多数登場し、街歩き気分も楽しめる作品。『食堂かたつむり』で鮮烈なデビューを果たした小川糸の第二作。

【喋々喃々(ちょうちょうなんなん)】男女がうちとけて小声で楽しげに語りあう様子。


谷中辺りの歳時記をも思わせる物語である。静かに穏やかに、寺町特有であろう季節の風物と、日々のお菜やときどき食べる贅沢な食べ物、そして、その場所で暮らす人々のあたたかな心持ちが、趣ゆたかに丁寧に描かれていて、読者も豊かな心地になれる。
だが、描かれている恋はいかんせん道ならぬ恋である。その一点が誠に残念である。未来が明るい恋だとしたら、乞ういうしっとりとした風情はだせなかったのかもしれないが、それにしても残念である。栞と春一郎さんが、こんな風に豊かな時を過ごしているときも、妻と10歳の小春ちゃんは家で夫の、父の帰りを待っているのである。知っているのだとしても、知らないのだとしても、その残酷さがどうしても透けて見えてしまうので、二人の過ごす時の波には胸が騒いでしまうのだった。

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