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丘の上の赤い屋根*青井夏海

  • 2010/07/08(木) 13:41:12

丘の上の赤い屋根丘の上の赤い屋根
(2010/06/17)
青井 夏海

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波多野真希の心には「赤い屋根」の映像が残っていた。
幼い時の記憶かどうか定かではないが、時折ふっと、それが浮かんでくるのだ。
亡くなった父の遺産をもらい受け、30代を前にして、東京近郊の都市へと移った真希。
父は、屋敷と呼べるほどの大きな家と、広い敷地、そして敷地内に立つアパートを真希に残してくれた。
屋敷がある市には、コミュニティーFMがあった。
このラジオ局、社長は、やる気があるのか、ないのかわからないし、他のパーソナリティーも所詮素人の寄せ集めとしか思えない。
プロは子役として脚光を浴び、学業優先のため一時、休業していた俳優業を再開した鏑木航のみ。
引越しの荷解きも終わらぬ最中(さなか)、真希のもとに「この土地は、市に寄贈されるはずの土地だ!」と市議会議員が訪れ、「そんなはずは……」と困惑してしまう。
さらに「あなたの弟です」と話す男まで現れた! 小さなFM局で巻き起こる、ひと夏のハートフル・ストーリー。


東京近郊と言っても、めぼしいものはなにもない中途半端な町・大沼辺市が舞台である。そこにあるコミュニティFMのラジオ局は、東京で芽が出ないとはいえ俳優をやっている鏑木航には、あってもなくてもいいような中途半端なものに見えた。秋までという契約で、朝の7時から10時までの帯番組を任された彼は、決められたこと以外には首を突っ込む気も手を出すつもりもなく、早くこの夏をやり過ごして東京へ帰ることしか頭になかった。そんなときボランティアとしてFM局にやってきた真希と出会う。真希の亡父は元大沼辺の実力者で、その遺産として屋敷を受け継いで彼女はここにやってきたのだった。
FM局に届くお便りや、FM局のボランティアスタッフ、真希の持ち物であるオンボロアパートの住人のお年寄りたち、突然現れた弟、そして真希から屋敷を奪い取ろうとする企みなどに振り回されながら、ひと夏の物語は展開するのである。
何気なく暮らしているように見える人たちも、それぞれになんらかの屈託を抱えており、それを互いに思いやることは、思い切って近づき踏み込まなければできないのだと思わされる。見ないふり聞かないふりでは、そこに存在することにはならないのだ。読み終えて、思わず地元のFMラジオ局を検索してしまった。

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