パスタマシーンの幽霊*川上弘美

  • 2010/08/21(土) 08:35:15

パスタマシーンの幽霊パスタマシーンの幽霊
(2010/04/22)
川上 弘美

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一篇が10ページ前後の短篇が22篇収められている。なにしろ川上弘美のこの短篇群の面白さは驚嘆に値する。「おひまなら一篇だけ立ち読みしてみてください」と言うしかないのです。若い女性の一人称の作品が多いけれど、だからといって若い女性向きの作品集とばかりはいえない。そんなことはどうでもよくて、男性が読んでもたぶん心にしみるはず。これぞ川上魔術。表題作の一部をご紹介するのが手っ取り早い。こんな感じです。「このパスタマシーンを使うのは、いったい誰? あたしの胸は、大きく一つ、どきんと打った。『小人じゃないの』というのが隆司の答えだった。/あたしはすぐさま、隆司を問いただしたのだった。料理は下手だけれど、そのかわりあたしはものすごく率直なのだ。ねえ、誰がこのパスタマシーンを使ってるの。『小人』あたしはゆっくりと繰り返した。/『じゃなきゃ、猫とか』『猫』あたしは隆司の顔をまじまじと見た。無表情だ。/『このごろの猫って、ほら、お手伝いさんとかして働くみたいだし』/あたしは笑わなかった。隆司は一瞬だけ笑って、それから『しまった』という表情になった。あたしは率直なうえに、怒りっぽいのだ。」「クウネル」の人気連載が本になった。絶賛を博した第一弾『ざらざら』につづく最新短篇小説集。今回の短篇も、決然とした恋愛の情熱や欲望ではなく、恋愛関係のうちにある何かとらえどころのない心のゆらめきを魔術的とってもいい文章で描いた傑作ばかり。読み終えたあとに、また本を開きたくなる。おなじみの、アン子とおかまの修三ちゃんも再登場。新たな主人公、誠子さんとコロボックルの山口さんの恋の行方にも注目だ。深刻な感情がユーモアに転換され、そのあとに〈しん〉とした淋しさが残る名品22篇。


海石 染谷さん 銀の指輪 すき・きらい・ラーメン パスタマシーンの幽霊 ほねとたね ナツツバキ 銀の万年筆 ピラルクの靴べら 修三ちゃんの黒豆 きんたま お別れだね、しっぽ 庭のくちぶえ 富士山 輪ゴム かぶ 道明寺ふたつ やっとこ ゴーヤの育てかた 少し曇った朝 ブイヤベースとブーリード てっせん、クレマチス


タイトルを並べてみただけで、どんな世界が広がるのだろうとわくわくする22編である。どれもしあわせいっぱいという感じではない恋愛の物語で、主人公の女の人はよく泣いているのだが、それでも決定的にふしあわせというのでもない。なんにせよ両極端ではないあわいのところでゆらゆらしているような心地好さがある。恋愛の旅半ばの微妙なあれこれを言葉にし、そこからこぼれおちてすきまに入り込んだ気持ちが滲み出してくるようなそんな一冊である。

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この記事に対するコメント

一行目から、世界を作り出せる匠のわざのような作品集でしたね
「きんたま」好きです
小川洋子氏にはとても扱えないタイトルです
(もちろん小川氏には川上氏にはないよさがあります)

  • 投稿者: チョロ
  • 2010/08/22(日) 06:28:00
  • [編集]

>一行目から、世界を作り出せる匠のわざのような作品集

おっしゃるとおりです。
こんなに短い作品たちなのに、こんなにもわくわくさせてくれるなんて。
わたしは、「ブイヤベースとブーリード」が好きでした。

  • 投稿者: ふらっと
  • 2010/08/22(日) 07:00:27
  • [編集]

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