田舎の紳士服店のモデルの妻*宮下奈都

  • 2010/12/03(金) 17:22:22

田舎の紳士服店のモデルの妻田舎の紳士服店のモデルの妻
(2010/11)
宮下 奈都

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田舎行きに戸惑い、夫とすれ違い、子育てに迷い、恋に胸騒がせる。じんわりと胸にしみてゆく、愛おしい「普通の私」の物語。


会った瞬間に輝きを感じ、「この人だ!」と思った夫が鬱病を患い、会社を辞めて田舎に帰るという。東京以外で暮らすことなど思ってもいなかった梨々子だが、夫とふたりの幼い子どもと共になにもない北陸の田舎町に移り住むことになったのだった。物語は、十年日記に記されるようにして進んでいく。
夫との、子どもたちとの、田舎の近所の人たちとの、東京時代の知り合いとの、さまざまな関係のなかに、自分の価値を見出せずに入る梨々子の、ただ息を吸って吐いているうちにきょう一日がまた終わった、というような無為な空しさは、だれにでも思い当ることがあるのではないだろうか。だが、彼女を見ていると、なにかを成さねばならぬという大げさに言えば強迫観念のようなものに自分からどんどんがんじがらめにされているようにも見えて痛々しささえ感じてしまう。しかしこれは前半の梨々子である。日記も終わりに近づくころの梨々子は、少しずつではあるが何者でもない自分を認め、しあわせを全身で受け止められるようになっていくのである。潤の手を引いて横断歩道で立ち止まっている思い出の場面で一気に熱いものがあふれた。普通がとても丁寧に描かれた一冊である。




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宮下奈都『田舎の紳士服店のモデルの妻』

田舎の紳士服店のモデルの妻著者:宮下 奈都文藝春秋(2010-11)販売元:Amazon.co.jpクチコミを見る 「普通の私」の「普通」ってなんだ? 内容(「BOOK」データベースより) 田舎行きに戸惑い ...

  • From: 時折書房 |
  • 2010/12/04(土) 07:46:47

この記事に対するコメント

TBさせていただきました。
十年日記、でした。
そう(どう?)考えてみると、
十年日記って、なんだかその存在そのものが
脅迫装置みたいにも思えてきます。
このドラマをうまく浮かび上がらせるのに
不可欠の装置だったのかも、とふと思いました。

  • 投稿者: 時折
  • 2010/12/04(土) 07:50:14
  • [編集]

梨々子の十年は、彼女以外の人にとってはなんでもない十年かもしれないけれど、彼女にとっては重要な十年でした。
普通ってなんだろうということを思わされた作品でもありました。

  • 投稿者: ふらっと
  • 2010/12/04(土) 08:15:09
  • [編集]

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