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シューマンの指*奥泉光

  • 2011/02/09(水) 14:16:11

シューマンの指 (100周年書き下ろし)シューマンの指 (100周年書き下ろし)
(2010/07/23)
奥泉 光

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シューマンの音楽は、甘美で、鮮烈で、豊かで、そして、血なまぐさい――。

シューマンに憑かれた天才美少年ピアニスト、永嶺修人。彼に焦がれる音大受験生の「わたし」。卒業式の夜、彼らが通う高校で女子生徒が殺害された。現場に居合わせた修人はその後、ピアニストとして致命的な怪我を指に負い、事件は未解決のまま30余年の年月が流れる。そんなある日「わたし」の元に、修人が外国でシューマンを弾いていたいう「ありえない」噂が伝わる。修人の指にいったいなにが起きたのか――。

野間文学賞受賞後初の鮮やかな手さばきで奏でる書き下ろし長編小説。


冒頭に置かれた手紙で、指を失って音楽活動の道を断たれたかつての天才ピアニスト永嶺修人が聴衆の前でピアノを弾いているという情報が「私」にもたらされる。そこからは、「私」の回想の形で永嶺修人と過ごした時間のことが語られる。その中には永嶺が敬愛していたシューマンの音楽への想いがたっぷりと織り交ぜられている。それは、途中に起こる女子高生殺人事件の謎解きさえ霞ませてしまうほどの熱情である。最後に置かれた「私」の妹から吾妻先生への手紙で、――正否は明らかにされないながらも――永嶺が指を失った事件も含め、事の真相がつまびらかにされるのだが、やはりそうだったか、という思いと、そうかそうだったのかという思いが交錯する。熱情に取り込まれるような、正気を保っていられないような心地にさせられる一冊でもある。

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