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抱擁、あるいはライスには塩を*江國香織

  • 2011/02/15(火) 13:31:15

抱擁、あるいはライスには塩を抱擁、あるいはライスには塩を
(2010/11/05)
江國 香織

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三世代、百年にわたる「風変りな家族」の秘密

東京・神谷町にある、大正期に建築された洋館に暮らす柳島家。1981年、次女の陸子は貿易商の祖父、ロシア革命の亡命貴族である祖母、変わり者の両親と叔父叔母、姉兄弟(うち2人は父か母が違う)の10人で、世間ばなれしつつも充実した毎日を過ごしていた。柳島家では「子供は大学入学まで自宅学習」という方針だったが、父の愛人(弟の母親)の提案で、陸子は兄、弟と一緒に小学校に入学。学校に馴染めず、三ヶ月もたたずに退学する。陸子は解放されたことに安堵しつつ、小さな敗北感をおぼえる。そもそも独特の価値観と美意識を持つ柳島家の面々は世間に飛び出しては、気高く敗北する歴史を繰り返してきた。母、菊乃には23歳で家出し8年後に帰ってきた過去が、叔母の百合にも嫁ぎ先から実家に連れ戻された過去がある。時代、場所、語り手をかえて重層的に綴られる、一見、「幸福な家族」の物語。しかし、隠れていた過去が、語り手の視点を通して多様な形で垣間見え――。


とても型破りでありながらとても懐かしく、ものすごく遠い世界のようでいて驚くほど近しくも思われる不思議な物語である。家――というか家系――というもののこと、血というもののこと、そして個人というもののことなどを全身に血がめぐるように考えさせられもする。たいそう窮屈であり、それでいて何ものよりも自由、だがしかしやはり何かに囚われている感じ。それこそが家族と言えるのかもしれないとも思う。柳島家全体にただよう匂いと、この時代にそこに集ったこの家の人々の輪郭がくっきりと浮かび上がって秀逸である。風変わりで懐かしい一冊だった。

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