ポリティコン 上下*桐野夏生

  • 2011/09/12(月) 06:59:19

ポリティコン 上ポリティコン 上
(2011/02/15)
桐野 夏生

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大正時代、東北の寒村に芸術家たちが創ったユートピア「唯腕村」。1997年3月、村の後継者・東一はこの村で美少女マヤと出会った。父親は失踪、母親は中国で行方不明になったマヤは、母親の恋人だった北田という謎の人物の「娘」として、外国人妻とともにこの村に流れ着いたのだった。自らの王国「唯腕村」に囚われた男と、家族もなく国と国の狭間からこぼれ落ちた女は、愛し合い憎み合い、運命を交錯させる。過疎、高齢化、農業破綻、食品偽装、外国人妻、脱北者、国境…東アジアをこの十数年間に襲った波は、いやおうなく日本の片隅の村を呑み込んでいった。ユートピアはいつしかディストピアへ。今の日本のありのままの姿を、著者が5年の歳月をかけて猫き尽くした渾身の長編小説。


理想の共同体を目指して作られた唯腕村(イワン村)にも高齢化の波が押し寄せ、ただひとり村に残った理事長・素一の息子・東一は葛藤しつつもなんとかしなければ、と苦悩する。だが、若さゆえの浅慮や短絡的な行いもあって村人たちの心を繋ぎ止めることも叶わない。一度は村を離れ東京の実母の下に転がり込んだ東一だったが、その間に父・素一が急死し、村へ帰りはしたが、雪崩れるように人びとの心は離れていくのだった。平等を謳った共同体の危うさと人心掌握の難しさを思い知らされるような一冊である。下巻でどう展開していくのかたのしみである。


ポリティコン 下ポリティコン 下
(2011/02/15)
桐野 夏生

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唯腕村理事長となった東一は、村を立て直すために怪しげな男からカネを借りて新ビジネスを始める。しかし、村人の理解は得られず、東一の孤独は深まる一方だった。女に逃げ場を求める東一は、大学進学の費用提供を条件に高校生のマヤと愛人契約を結んでしまう。金銭でつながった二人だが、東一の心の渇きは一層激しくなり、思いがけない行為で関係を断ち切る。それから10年、横浜の野毛で暮らしていたマヤのもとに、父親代わりだった北田が危篤状態だという連絡が入る。帰郷したマヤは、農業ビジネスマンとして成功した東一と運命の再会をした。満たされぬ二つの魂に待ち受けるのは、破滅か、新天地か。週刊文春と別冊文藝春秋の連載が融合されて生まれた傑作小説、堂々の完結。


上巻は主に東一の視線で綴られていたが、下巻は主にマヤの視線で綴られている。東一の慰み者になる代わりに大学進学の費用を出してもらう契約をし、夏休みに進学セミナーに参加したまま唯腕村に帰らず、怪しげな小杉の店でホステスのアルバイトをしていた。そこで東一と出くわし、学費の形に売られて東京にやられ、唯腕村とは縁が切れたかに思われたのだったが、北田の危篤を知らされて村に帰り、一見生まれ変わった村の内実を目の当たりにし、しかも、長年親代わりと慕ってきた北田やスオンの存在に疑いを持ち始め、逃げるように唯腕村を後にするのだった。
元はと言えば母の理想と命がけの仕事に振り回され、逃げるように唯腕村に入村してからは、東一の理想と強引さと身勝手に振り回され、運命の過酷さと非情さに振り回され続けたマヤだったが、最後の最後に自分として心からの選択ができたのだとしたらそれが唯一の光だろう。まさにこの国の縮図のような一冊である。

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