だれかの木琴*井上荒野

  • 2012/04/18(水) 20:29:02

だれかの木琴だれかの木琴
(2011/12/09)
井上 荒野

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どうしてわかってくれないのだろう。私はあなたが大好きなだけなのに。
主婦の小さな失望が、日常を静かに歪めていく。直木賞作家の待望の最新長編小説!

「またお店でお会いできるのを楽しみにしています」平凡な主婦・小夜子が、ふと立ち寄った美容室で担当してもらったスタイリスト・海斗から受け取った一本の営業メール。ビジネスライクなメールのやりとりは、やがて小夜子に自分でも理解できない感情を生んだ。どうしたら、彼のメールを取り返せるのだろう。だんだんと海斗への執着をエスカレートさせる小夜子。だが、自分が欲しいのは本当に海斗なのだろうか……。明らかに常軌を逸していく妻を、夫である光太郎は正視できない。小夜子のグロテスクな行動は、やがて、娘や海斗の恋人も巻き込んでゆくが――。


胸のなかにヒューヒューと風が吹き抜けるような読後感である。何かがすっぽりと抜け落ち、それがあった場所が埋めようもなく寒々としているような。偶然担当してもらった美容師からの一通のお礼メールが、見ないようにしていた穴の存在に光を当ててしまったのかもしれない。小夜子の行動は明らかに常軌を逸しており、その向かう先は海斗なのだが、実は彼を素通りしてその向こうにいるだれかに助けを求めているように思えてならない。そしてそのだれかは、小夜子の変化に気づかない振り、見ない振りをしているのだ。やるせなく救われない一冊である。

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