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矢上教授の午後*森谷明子

  • 2013/05/04(土) 07:15:25

矢上教授の午後矢上教授の午後
(2009/07/10)
森谷 明子

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夏休みの老朽校舎に出現した死体の謎…… 「英国伝統ミステリのコクとユーモアがたっぷり!」“このミス”ご意見番の三橋曉氏オススメ
「矢上教授と誰もが呼び習わしているが、正確には教授ではなく、非常勤講師の身の上だ。ただし、七十年配で白髪に白髯という風貌は、世間一般が抱く教授のイメージにぴったりくる。
所属は生物総合学部。にもかかわらず、矢上の専門は、なんと、日本古典文学である。科学立国日本の未来を担う若者に、週三コマ、日本古来の教養を注ぎ込むのが矢上の使命なのだ。
場違いな学部の、今にも朽ち果てそうな研究棟の最上階の隅に、押しやられたように矢上教授の研究室はある。非常勤講師で、しかも生物総合学部には、まったくそぐわない専門分野のくせに、一応自分の研究室まで確保しているのだ。そんな、何か裏の権力に通じているように見えるいかがわしさがミステリアスであると、言えば言える。
そう、ついでに言えば、教授はミステリの蒐集魔である。研究室の書棚占拠率は教授の専門に関する分野が三割、あとの七割は古今東西のミステリである。」
とある八月の終わりの午後。大学は静かだった。ただ、五階建ての研究棟では、特に熱心な教授や研究生がちらほら、各々の学業にいそしんでいた。
やがて、上空を雷雲が覆って近くに落雷し、一帯が停電する。そして、嵐に閉ざされた研究棟の最上階で誰も見知らぬ男の死体が発見され、矢上教授は真相を追い始めるが……。


タイトルにある通り、ある夏の日の午後の物語である。たった半日足らずの出来事なのだが、何とも閉塞感に満ちていて息苦しく長く感じられる。事の発端は、研究棟にいる誰にも見覚えのない死体が見つかったこと。そしてひとりの教授の姿が見えない。普段は矢上教授のほかはほとんど寄り付かないような取り壊しが決まっている研究棟にたまたま居合わせ、どういうわけか閉じ込められた、思いのほか大勢の人物たちそれぞれの思惑が――事件にかかわっているかどうかにかかわらず――複雑に絡み合い、互いを伺い合って、謎解きを難しくしている。そんな中、矢上教授は、的確な視点と見事な洞察力で、本筋に絡みつくものを排除して単純化し、謎を解き明かすのである。素晴らしい。盛りだくさん過ぎるそれぞれの思惑が見事に収束されていて感心する。矢上教授のことをもっと知りたくなる一冊である。

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