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夜は終わらない*星野智幸

  • 2014/09/05(金) 07:09:00

夜は終わらない夜は終わらない
(2014/05/23)
星野 智幸

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婚約者が自殺したとの一報が入った玲緒奈。千住警察署で悲しみにくれる彼女には、次に殺さなくてはならない別の婚約者がいた。セックスや結婚を餌に次々男を惑わし、財産を巻き上げ、証拠を残さず葬り去るのが日常なのである。そんな玲緒奈には不思議な癖があるのだった。
「生きてる意味があることを証明しないと。ね? 私が夢中になれるようなお話をしてよ」
あの世に送る前、男に語らせるのだ。それは、生い立ちでも、創作した話でも構わない。面白いかどうか、で命の長さが決まっていく。最期の気力を振り絞り話を続ける男たち。鬼気迫るストーリーが展開され、物語のなかの登場人物がまた別の話を語り始めたり、時空を超えた設定のなかにリアルなものが紛れ込んだり……全体の物語のなかにさまざまな短篇が入りくみ、海へと流れる大河として眺望できる大傑作。


男を喜ばせておいて、次々に殺していく女の物語。プロローグではこれ以上ないほど現実的で、これから始まる物語は、玲緒奈と警察の追いかけっこと、彼女の行動の理由を解き明かすものだと想像したのだが、まったくそんな型にはまったものではなかった。初めの内は、まだ現実的なのだが、いつの間にか、男たちに語らせる物語と現実の間に境界がなくなり、物語なのか、男たちの過去のことなのか、それとも玲緒奈自身のことなのか、もしかするとそのすべてなのか判然としなくなり、読者も語られる世界に連れ去られてしまうのである。さまざまな話が語られるのだが、どれもが同じ物語であるようにも思われ、どんなに遠くまで行っても知らぬ間にいまいる場所に戻ってきているような時空を飛び越えた不思議な感覚もある。事件に関しては何の解決もされないので、玲緒奈がそうなっていくのかは想像するしかないのだが、永遠に物語を追い求めて曖昧な境界の世界をさまよい続けるようにも思われる。ほとんど久音の部屋にいたにもかかわらず、あまりにも遠い所へ行き、精神的にも肉体的にも激しい体験をして疲れ切って眠りたいような一冊である。

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