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半島*松浦寿輝

  • 2004/11/27(土) 22:32:50

☆☆☆・・


 “裏切りの桃源郷”に漂着した中年男がひとり。
 自由も再生もすべては幻か――

                          (帯より)
 
 中年という人生の一時期をめぐる寓話
 青春期に始めたことを曲がりなりにも一通りやり終えたとき、
 達成感とは別のある虚しさに襲われて、
 ふと後ろを振り返っては溜息をつき、
 また前に向き直って足が竦むのを感じ、
 この先いったいどうしたらいいものかと
 途方に暮れる年齢があるものだ。
 ・・・・・わたしはこれを、自分の人生のある危機
 ――複数の危機――を乗り越えるために書いたのだと思う。

                  (「あとがき」より)


瀬戸内海に面する架空の街・S市の、南に突き出した小さな半島が舞台である。
大学を退職し迫村がふと昔を思い出して訪れ、しばしの住処とするところから物語ははじまる。

S市の中心部と繋がる橋を渡ってしまえば、半島はあるところから時間が止まったような佇まいをみせる。一見するとうらぶれた静か過ぎるほどの場所である。
しかし知るほどに 混沌に迷いこんだような 不可思議な心持ちにさせられるのである。
それは喩えて言うならば、遊園地のお化け屋敷のような平面では捉えられないような不思議さのようなものであろうか。

この半島で迫村が経験したこと自体が、現実のことなのか それとも 人生の一時期――進むことも戻ることもできず、足もとが心もとなくなるような――の拠り所をどこに求めていいのか戸惑う不安定な心持ちが描き出した幻想なのか、それさえも判然としなくて 幾重にも不可思議さが重なったような一冊だった。

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