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亀と観覧車*樋口有介

  • 2016/08/02(火) 07:30:03

亀と観覧車
亀と観覧車
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樋口 有介
中央公論新社
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ホテルの清掃員として働きながら夜間高校に通う涼子、16歳。家には、怪我で働けなくなった父、鬱病になった母がいて、生活保護を受けている。
ある日、クラスメイトからセレブばかりが集う「クラブ」に行かないかと誘われる。
守らねばならないものなど何もなく、家にも帰りたくない。
ちょっとだけ人生を変えてみようと足を踏み入れた「クラブ」には、小説家だという初老の男がいた。
生きることを放棄しかけている親を受け入れ、人と関わらず生きる日々を夢見てきた涼子は、自らの人生に希望を見出すことができるのだろうか――。


涼子の境遇には、同情すべき点がありすぎて、その健気さには胸が痛む。もし現実にこんなことがあったとしたら、絶対に平穏ではいられないだろうとは思うし、涼子にとってはさらに苦難が待ち受けることになるだろうとは容易に想像できるが、物語のなかでは、スズコではなくリョウコのままで、心穏やかに暮らしてくれたらいいのに、と願わずにいられない。流れる空気は、薄暗く湿ったものだが、胸のなかにはあたたかな思いが満ちているように思われる。大切にすること、されることの意味を考えさせられる一冊でもある。

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