手の中の天秤*桂望実

  • 2016/08/09(火) 07:16:06

手の中の天秤
手の中の天秤
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桂 望実
PHP研究所
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刑務所に送るか送らないかを決めるのは、遺族。
裁判で執行猶予がついた判決が出たときに、被害者や遺族が望めば、加害者の反省具合をチェックし、刑務所に入れるかどうかを決定できる制度「執行猶予被害者・遺族預かり制度」が始まって38年がたっていた。30年前、その制度の担当係官だった経験があり、今は大学の講師として教壇に立つ井川。彼は、「チャラン」と呼ばれるいい加減な上司とともに、野球部の練習中に息子を亡くし、コーチを訴えた家族、夫の自殺の手助けをした男を憎む妻など、遺族たちと接していた当時のことを思い出していた。
加害者を刑務所に送る権利を手に入れた時、遺族や被害者はある程度救われるのか。逆に加害者は、「本当の反省」をすることができるのか。架空の司法制度という大胆な設定のもとで、人を憎むこと、許すこととは何かを丹念な筆致で描いていく、感動の長編小説。


執行猶予被害者・遺族預かり制度の担当係官としての現実を直接的に物語にしているのではなく、係官をやめた後に就いた大学教授という立場で、井川が学生たちに、自分が携わったさまざまな案件について考えさせる、という描き方をされている。過去のこととしてワンクッション置くことによって、案件そのものの悲嘆は幾分軽減され、学生の反応によってこれまで気づかなかった面に目を向けることにもなるのが興味深い。いい加減さゆえに「チャラン」と呼ばれていた上司に対する、井川の思いの変化や、井川の講義からチャランの魅力を見抜いた学生たちの感性と、それに戸惑いつつもどこかに喜びを感じている井川の胸の裡も味わい深い。案件そのものはもちろん、そこに関わる人間たちの感情の動きや人間性がじんわり胸に沁みる一冊である。

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