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メビウス・ファクトリー*三崎亜記

  • 2016/10/09(日) 17:02:20

メビウス・ファクトリー
三崎 亜記
集英社
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「この工場で奉仕するために必要なことは、愛情と使命感を持つことだ」ブラック企業を辞め、妻子を連れて地元へUターン就職したアルト。町は巨大工場を中心にシステム化されており、住民は誇りを持って働いている。しかしそこで何が作られているか、実は誰も知らない―。アルトたちも徐々に工場の「秘密」に気づきはじめ…。


疑わなければこれ以上暮らしやすい町はないかもしれない。この町で幸福に暮らしていける人は、ある意味宗教を盲信するようなタイプだったり、人の言葉に疑いを抱かず、素直に信じやすいタイプの人なのだろう。ほとんどがそんな住民で、町のめぐりに取り込まれて暮らす日々に満足していたところに、幼いころに町を出たアルトが、家族を連れて戻って来たところから、少しずつ何かが変わり始める。なぜ町の中だけですべてが完結しているのか。自分は何のために町のめぐりに取り込まれているのか。ほんのわずかの疑問の目が、ぽつりと芽生え、育つことで破綻が生じる。そこから町のめぐりに破綻は生じるのだろうか。読者の期待は膨らむが……。結局、何ひとつ真実は明かされないままであり、それは消化不良を起こし、もどかしさは募るが、だからこそ更なる想像力を掻き立てられもする。いずれにしても、これまで通りということはないだろう。胸のざわめきが治まらないままの一冊でもある。

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