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壁の男*貫井徳郎

  • 2017/03/05(日) 16:33:19

壁の男
壁の男
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貫井 徳郎
文藝春秋
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ある北関東の小さな集落で、家々の壁に描かれた、子供の落書きのような奇妙な絵。
その、決して上手ではないが、鮮やかで力強い絵を描き続けている寡黙な男、
伊苅(いかり)に、ノンフィクションライターの「私」は取材を試みるが……。
彼はなぜ、笑われても笑われても、絵を描き続けるのか?

寂れかけた地方の集落を舞台に、孤独な男の半生と隠された真実が、
抑制された硬質な語り口で、伏せたカードをめくるように明らかにされていく。
ラストには、言いようのない衝撃と感動が待ち受ける傑作長篇。


民家の壁に幼児が描いたような原色の絵が描かれている集落があると話題になり、ノンフィクションライターの鈴木は、本にまとめるのもいいかと、その集落に取材に訪れる。描いた当人の所在は容易に判り、インタビューを試みるが、伊苅という男は口が重くてとっつきにくく、ほとんど何も聞き取れずに取材を終えることになる。近所の人に聞くと、どうやら壁の絵は、それぞれの住人が頼んで描いてもらったようなのだが、その理由がどうにもよく呑み込めない鈴木なのだった。鈴木の目線で語られる部分と、伊苅を主語として語られる部分が交互になっていて、伊苅の部分では、彼の来し方が少しずつ明らかにされていく。初めは取りつく島もない不愛想な男としか見えていなかった伊苅が、次第に体温を持って生きてくると、読み手の壁の絵に対する気持ちも変わってくるのが不思議である。子どもの落書きのような、一見無邪気にも見える壁の絵の裏側に、これほどの深い人生があったのかと驚愕するばかりである。いいものを読んだという気持ちに満たされる一冊である。

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