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夜行*森見登美彦

  • 2017/04/26(水) 16:16:55

夜行
夜行
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森見 登美彦
小学館
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僕らは誰も彼女のことを忘れられなかった。

私たち六人は、京都で学生時代を過ごした仲間だった。
十年前、鞍馬の火祭りを訪れた私たちの前から、長谷川さんは突然姿を消した。
十年ぶりに鞍馬に集まったのは、おそらく皆、もう一度彼女に会いたかったからだ。
夜が更けるなか、それぞれが旅先で出会った不思議な体験を語り出す。
私たちは全員、岸田道生という画家が描いた「夜行」という絵と出会っていた。
旅の夜の怪談に、青春小説、ファンタジーの要素を織り込んだ最高傑作!
「夜はどこにでも通じているの。世界はつねに夜なのよ」


実際には、ほんの限られた場所で起こった出来事であるにもかかわらず、とてもとても遠い所へ行って帰ってきた――実際に帰ってきたのかどうかも定かではないが――ような、長旅を終えた心地になる物語である。岸田道生という銅版画家の連作「夜行」――あるいは「曙光」――をめぐる物語は、現実にあったことなのか、作品の中で起こったことなのかも定かではなく、ひとつのストーリーのページを剥がすとそこにまったく別のストーリーが同時進行しているかのようなのである。いま自分はどこにいるのか。読者は立ち位置を見失い、登場人物さえもが自分のいる場所に確信を持てずにいるようである。遠く近くなじみ深いようでいて見知らぬ顔を見せる不思議な一冊である。

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